ゲノム編集受託サービスGeneArt®Precision TALsで短期間、確実な実験へ

吉浦茂樹 氏( 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 非対称細胞分裂グループ 研究員)

「神経幹細胞は非対称分裂により、神経幹細胞と神経前駆細胞(GMC)という2種類の細胞を生み出します。この時神経幹細胞は、上皮細胞に対して必ず垂直に分裂するんです(図)」と吉浦茂樹氏は、神経幹細胞の非対称分裂に対する厳密な方向性について語ります。「その分裂は、個体発生における形態形成に重要な役割を果たします。上皮細胞の直下に位置するショウジョウバエの神経幹細胞では非対称分裂により、ニューロンへ分化するGMCが常に上皮細胞とは反対方向に生じることで、中枢神経組織の成長の方向が決まっていきます」。昨年、吉浦氏らはGタンパク共役受容体(GPCR)であるTre1が、この神経幹細胞の分裂の方向性を決定するシグナルを受容し、細胞内へ伝達する役割を果たすことを明らかにしました(S. Yoshiura et al. Developmental Cell, 22, 79-91( 2012))


最適なツールを選ぶ

現在、吉浦氏はTre1のシグナルに関わる遺伝子をノックアウトしたミュータントを作出し、非対称分裂のメカニズムの解明に挑もうとしています。そのためにゲノム編集の受託サービスを利用した理由を次の様に語ります。「人工ヌクレアーゼのZFNは、ショウジョウバエでの導入効率が悪いと聞いていたので、まずはNPOのコミュニティから提供されている各種のベクターを利用してTALENプラスミドを自作しようとしました。しかし、自分の研究に合わせたベクター構築を一から始める必要があり、すべての酵素やその準備を考えると時間的にも労力的にもかなり大変です。そこで、そんな手間を省くために、受託サービスのGeneArt® Precision TALsを試してみることにしたんです」。


神経幹細胞の非対称細胞分裂。上層の上皮細胞に対して、分裂方向は垂直となる。図は、aPKC(緑)が上皮側(apical)に、Miranda(赤)が上皮から離れた方向(basal)に非対称で局在していることを示している。青(DAPI)はDNA。
研究はスピード勝負
「とにかくコンストラクション作業が省け、結果がでるのに3週間もかからない点が助かりました。表現型を観察した限りではオフターゲットもなく、ライン間のばらつきも見られませでした。準備に要する手間やトータルコストを考えると試してみてよかったと思っています」とコメントします。さらに「ノックアウトの確認は、PCRでターゲット部分を増やし、あらかじめ設計しておいた制限酵素切断部位で切れなくなることで行いました。その後、ターゲット部分のシーケンスも読み、フレームシフトが生じたことも確認しています」と吉浦氏。上皮細胞と神経幹細胞との相互作用の一端を明らかにした研究から、中枢神経組織の構築メカニズムの解明へ、さらに研究が加速しています。


関連リンク


test