口腔マイクロバイオームの構成バランスから健康状態の把握、そして予防へ

竹下 徹 氏( 九州大学大学院歯学研究院 口腔予防医学分野 准教授)

「2007年と2012年の久山町住民一斉健診において採取した約2500人の住民の唾液サンプルを現在解析中です。歯周病等の口腔疾患は、従来まで病原菌の探索が主流でしたが、近年口腔内の細菌叢のバランスとの関係や病原菌をアシストする細菌の存在等、様々な可能性が示唆されています。私たちは、まず多くの方のデータから口腔マイクロバイオームの構成バランスの個人差を明らかにし、その研究を通して疾患の原因解明に迫りたいと思っています」と九州大学歯学研究院の竹下徹氏は語ります。久山町コホート研究は、九州大学医学部を中心に50年以上前から実施され、定期的に40才以上の全住民を対象とした健診を行っていることで、生活習慣病等に対する精度の高い調査として国内外から注目されています。

IonPGM™ システムのロングリードで「メタ16S解析」
メタ16S解析とは、サンプル中の細菌を単離、個別培養せず、そのまま16SリボゾームRNA遺伝子の配列を読み取り、その多様性を基に菌の構成を特定する方法です。「IonPGM™システムを使い始めて1年ほどですが、タグをつけて一度に200人分のサンプルをIon318™チップでシーケンスしました。数日で結果が出るので、すでに2007年の2500人のデータに関してはほぼ解読できました。今後このデータの分析を進めながら、2012年の2500人のサンプルに取り掛かる予定です」と竹下氏。「研究開始当初は、T-RFLP法(制限酵素切断断片解析法)で大まかな解析しかできませんでしたが、次世代シーケンサの登場により遺伝子配列に基づいた詳細な解析できるようになりました。それはすごい進歩ですが、以前は機械も高価だったので、2か月程かかる外注に出していました。コスト的にも時間的にも100サンプル程度の解析が限度でしたね」と振り返ります。

さらに多くのサンプル解析へ
久山町住民の検体以外にも、新生児の細菌叢の日動変化や、高齢者や歯科治療前後の患者サンプル等、様々な細菌叢の解析に取り組む竹下氏。「IonPGM™システムを使えば、多数のサンプルを短期間で解析できるので、研究の幅が広がりますね」と語ります。「多くの研究データの積み重ねから、歯周病にハイリスクな口腔マイクロバイオームや口腔マイクロバイオームと糖尿病や肥満等の生活習慣病との関係も明らかにしていきたい」。竹下氏は新しい技術から拡がる様々な可能性を、今後も確実に検証していくようです。