細胞凝集塊はStemPro®-34 SFM培地で安定に培養

松浦勝久 氏( 東京女子医科大学先端生命医科学研究所 准教授)

ヒトiPS細胞の再生医療や創薬スクリーニングへの応用には大量培養が必要となりますが、一般的なシャーレでの二次元培養には限界があります。東京女子医科大学の松浦勝久氏らは、iPS細胞を量産する技術として、高密度の三次元浮遊攪拌培養リアクターの開発を進めています。

細胞へのストレスを軽減した三次元浮遊撹拌培養法
「試行錯誤を繰り返し、攪拌装置の大きな羽を緩やかに回転させることで、200-300µmの細胞塊を浮遊させたまま、培地を均一化できるようになりました。一定の速さで撹拌している間は、ほとんど物理的ストレスなく、浮いたままで細胞は増殖を続けます」と松浦氏。「この条件の下で生体内の発生過程と同じように、適切なタイミングで特異的な分化誘導因子を加えていくことで、大量のiPS細胞から心筋や血管や膵臓の細胞を効率的に分化させることができます。例えば心筋へ分化させる場合、100mlの培養液中での約2週間の分化誘導後、約1×108個の心筋細胞を得ることができます」と語ります。

大量培養技術を支えるStemPro®-34 SFM
「iPS細胞を安定的に浮遊培養するためには、凝集塊を作る細胞同士の接着性を維持することが鍵となります。しかも分化に伴い、細胞間の接着性は変化する可能性があります。私たちのグループでは、2011年ごろよりStemPro®-34 SFMを使い始めましたが、他の培地と比べて凝集塊を安定化でき、分化後の心筋細胞が機能することも確認できました」と松浦氏。分化誘導後の細胞塊は、一度酵素でバラバラにしてからシート状に形を整え、移植技術へつなげていくとのこと。細胞の量産化に、StemPro®-34 SFMが貢献しているようです。


松浦氏らが開発中の高密度三次元浮遊攪拌培養リアクター
機能を有する、より厚みのあるヒト組織へ
たとえば移植用の心筋組織を作る場合、組織全体に酸素や栄養を行き渡らせる血管も一緒に移植する必要があります。同じ大学の研究グループが血管付きの筋組織を作製し、シート状の細胞を多層化させることに成功しています。「将来的には、細胞シート間に血管床を挟み込み、動静脈血管をつなぎとめた組織をヒトiPS細胞から作ることを目指しています。心臓という臓器は、均一な心筋細胞からできているのではなく、血管や接着性が高い繊維芽細胞など複数の種類の細胞がバランスよく配置されて初めてその機能を発揮します。生体内できちんと機能する組織を、できる限り生体外で構築して移植するという、組織工学的なアプローチで再生医療の実現へ迫りたい」と松浦氏は語ります。