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林 謙一郎 氏(大阪大学医学系研究科医学専攻 准教授)
大阪大学の林謙一郎氏は、平滑筋細胞分化のマスター遺伝子であるmyocardin(Mycd) とそのファミリーであるMRTF-A/Bの細胞内局在制御の相違やその機能について研究中です。昨年より開始した血管内皮細胞におけるMRTF-A/Bの局在制御解析がLipofectamine® 3000を用いて効率良く遺伝子導入が可能になったことで、さらに研究の進展が加速したと語ります。
アクチンダイナミズムとMRTF-A/Bの細胞内局在
「転写補助因子My c d が恒常的に核に局在するのに対し、MRTF-A/Bは細胞質に局在し、Rhoシグナル依存性に一過的に核移行します。このことから細胞形態に影響するアクチンダイナミクスとMRTF-A/B の細胞内局在は関連しています」と林氏。さらに「MRTF-A/Bが過剰に機能活性化すると上皮細胞は筋上皮細胞(筋線維芽細胞)に形質転換します。この現象を上皮間葉転換と呼んでいます。この結果、コラーゲンなどの細胞外基質を過剰産生して組織の線維化を惹起させたり、運動能が亢進することでがん細胞の転移・浸潤が促進されます。また、動脈硬化巣では血管平滑筋細胞の本来の機能を欠失した脱分化平滑筋細胞の増殖及び運動能の亢進にもMRTF-Aの過剰発現が関わっています。この結果、血管が閉塞する方向へ進むことが知られています」とMRTF-A/Bの多彩な機能について語ります。
難しかった血管内皮細胞へのトランスフェクションに成功
そんな林氏の研究で鍵となるのが、トランスフェクションにより細胞内で強制発現させたMRTF-A/Bの細胞内局在の観察でした。ところが昨年から始めた血管内皮細胞へのトランスフェクションでつまずいてしまいます。「Lipofectamine® 2000を始め、複数の会社の4、5種類の試薬を使ったり、条件を変えたりしたものの遺伝子導入がうまくいきませんでした。他の研究者に聞いても、血管内皮細胞へのトランスフェクションは難しいと言われ、半ば諦めかけていました」と林氏。そんな時、新しいLipofectamine® 3000を使ってみたそうです。「6割ほどの効率でトランスフェクションに成功しました。細胞へのダメージもほとんどなく、血管内皮細胞における細胞内局在をしっかり確認できました。MRTF-A/Bは分子量が大きなタンパク質であり、細胞内局在のダイナミックな変化と細胞機能との相関は非常に面白い知見に満ちています」と目を輝かせます。すでに論文も投稿直前とのこと。一気に加速した研究の詳細が楽しみです。
[Lipofectamine® 3000 実験メモ]
細胞種: 血管内皮細胞(初代細胞を購入後、継代3~4回目で使用)
細胞コンフルエンシー: 30-40%
プロトコル: マニュアル通り
目的: タンパク質発現と細胞内局在確認
導入効率: 60-70%