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PCRで生じる問題の多くは、反応条件、シーケンスの正確性、ならびに増幅収量および特異性に関連しています。 このページでは、考えられる原因と問題の解決方法についてまとめています。

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このページの内容:

考えられる原因推奨事項
DNAテンプレート
 DNAの分解
  • DNA抽出の際に、分解やニックが生じないように注意します。必要に応じ、ゲル電気泳動でテンプレートDNAの質を評価します。
  • ヌクレアーゼによる分解を防止するため、DNAは分子生物学グレード水またはTE buffer (pH 8.0)中に保存します。
低純度
  • テンプレートDNAを精製キットを使用して抽出する場合、メーカーの推奨プロトコールに厳密に従って操作してください。DNA品質の低下を防ぐために、ユーザーマニュアルやトラブルシューティングガイドをしっかりと確認してください。
  • DNA精製の際に使用された化学物質や酵素(フェノール、EDTA、proteinase Kなど)が残存するとPCRを阻害するため、確実に除去する必要があります。
  • DNAの再精製か、もしくは70%エタノールによるDNA沈殿と洗浄処理によって、DNAポリメラーゼ反応を阻害する可能性のある残留塩類またはイオン(例:K+、Na+など)を除去してください。
  • 土壌、血液、植物組織などのサンプル由来の一般的なPCR阻害物質に耐性を持つ DNA鎖伸長能(processivity)の高いDNAポリメラーゼを選択します。
テンプレートDNA量が不十分
  • DNAインプット量を確認し、必要に応じて量を増やします。
  • 増幅には感度の高いDNAポリメラーゼを選択します。
  • 可能な場合、PCRサイクル数を増やします。
増幅困難なターゲット(例:GC- richな配列または複雑な2次構造)
増幅産物のサイズが大きい
  • 選択したDNAポリメラーゼの増幅可能なサイズを確認します。Long PCR用に特化したDNAポリメラーゼを使用します。
  • 短い時間で長い標的を増幅できる DNA鎖伸長能(processivity)の高いDNAポリメラーゼを選択します。
  • プライマー結合および酵素熱安定性を促進させる目的で、アニーリング温度および伸長温度を下げます。
  • アンプリコンのサイズに応じて伸長時間を延ばします。
プライマー
不適切なプライマーデザイン
  • プライマーデザインをレビューします。適切と考えられる場合、オンラインプライマーデザインツールを使用します。
  • プライマーがターゲットに対して特異的であることを確認します。
  • プライマーセットが、それぞれターゲットDNAの正しい鎖に対して相補配列でデザインされていることを確認します。
古いプライマー
  • プライマーは溶解後に分注し、適切に保存します。
  • 溶解後小分け保存していた未使用のプライマーを使用するか、または新しいプライマーを再合成します。
不適切な量
  • プライマー濃度を最適化(通常、0.1~1 μMの範囲内)します。
  • Long PCRおよび縮合プライマー(degenerate primer)を用いるPCRでは、最小濃度0.5 μMで最適化をスタートします。
その他のコンポーネントについて
不適切なDNAポリメラーゼの選択
  • proofreading DNAポリメラーゼの持つ3'→5'エキソヌクレアーゼ活性によるプライマーの分解を防止するため、ホットスタートDNAポリメラーゼを使用してください。ホットスタートDNAポリメラーゼは、非特異的な増幅を抑えることで、目的のPCR産物の収率を改善する利点もあります。
  • ホットスタートDNAポリメラーゼを使用しない場合は、氷上でPCRの調製を行ってください。また最後にDNAポリメラーゼを反応溶液に添加する方法もあります。
不十分な量のDNAポリメラーゼ
  • 増幅には感度の高いDNAポリメラーゼを選択します。
  • DNAポリメラーゼの推奨の添加量を確認します。また必要に応じて最適化を行ってください。
  • 添加剤(例:DMSO、ホルムアミド)またはサンプル由来の阻害物質が高濃度で含まれる場合、DNAポリメラーゼの量を増やします。
不十分なMg2+濃度
  • 最大限のPCR収率を得るため、Mg2+濃度を最適化します。EDTAやその他の金属キレート剤、また稀に高い濃度のdNTPが存在すると、より高濃度のMg2+添加が必要になることがあります。
  • 使用するDNAポリメラーゼに適したマグネシウム塩を確認します。例えば、Pfu DNAポリメラーゼは、MgCl2よりもMgSO4との組合せで良好に機能します。
過剰なPCR添加剤または補助溶剤
  • PCR添加剤または補助溶剤の推奨濃度を確認します。適切と考えられる場合でも、可能な限り低濃度で反応を行います。。
  • PCR添加剤または補助溶剤の濃度が高いと、標的とのプライマー結合が弱くなるため、アニーリング温度の検討が必要になります。
  • DNAポリメラーゼの添加量を増やすか、または DNA鎖伸長能(processivity)の高いDNAポリメラーゼを使用します。
  • 所定のDNAポリメラーゼ専用に最適化された添加剤または補助溶剤(例:Invitrogen™ Platinum™ DNAポリメラーゼに特化したGCエンハンサー)を使用することを検討します。
反応にdUTPまたは修飾ヌクレオチドを使用
  • 修飾したヌクレオチドの取り込むことが可能なDNAポリメラーゼを選択したかを確認します。
  • PCR効率を上げるため、dNTPに対する修飾ヌクレオチドの比率を最適化します。
ミックスが不十分
  • 保存中や調製中に生じる不均一なグラジェントによる影響を防ぐため、調製前のストック液や調整後の反応液は十分にミックスします。
サーマルサイクリング条件
熱変性条件が最適ではない
  • DNA変性の時間および温度を最適化します。変性時間が短く、温度が低いと、2本鎖DNAテンプレートが十分に1本鎖に変性されない場合があります。その一方で、変性時間が長く、温度が高いと、酵素の活性が低下する場合があります。
アニーリング条件が最適ではない
  • 利用可能な場合はグラジエント機能のあるサーマルサイクラーを使用して、アニーリング温度を段階的に1~2°Cずつ上げて最適な条件の検討を行います。最適なアニーリング温度は、通常、プライマーのTmから3~5°C低い温度です。
  • PCR添加剤または補助溶剤を使用する場合は、アニーリング温度をさらに最適化する必要があります。
  • 使用するDNAポリメラーゼに推奨されるアニーリング温度を用います。プライマーセットに対するアニーリング温度の設定ルールは、使用するDNAポリメラーゼによって異ります。
伸長条件が最適ではない
  • アンプリコンのサイズに合わせて伸長時間を設定します。
  • Longなターゲット(例:>10Kb)の増幅を行う場合、伸長温度を下げ(例:68°Cまで下げる)酵素活性を維持します。
  • 短い伸長時間でも、確実に増幅するには、 DNA鎖伸長能(processivity)の高いDNAポリメラーゼを使用します。
PCRサイクル数が最適はない
  • 十分な収率を得るため、適切なサイクル数に設定します(一般的に25~35サイクル)。DNAインプット量が10コピー未満の場合、サイクル数を40まで増やします。
考えられる原因推奨事項
DNAテンプレート
過剰なDNAインプット量
  • 最適なDNAインプット量を確認します。非特異的なPCR産物の増幅を抑えるには、DNAインプット量を減らします。
テンプレートDNAの分解
  • 分解が進んだDNAをテンプレートとした場合、スメアーな像の産物が得られたり、ゲル電気泳動の際、高いバックグラウンドが生じることがあります。。DNA抽出の操作に伴うDNAの分断やニックを最小限に抑えます。
  • 可能であれば、PCRを行う前に、ゲル電気泳動でテンプレートDNAの分解のレベルを評価してください。ヌクレアーゼによる分解を防止するため、DNAは 分子生物学実験用グレードの水またはTE buffer(pH 8.0)中に保存します。
複雑な配列(例:GC- richな配列または2次構造)
増幅ターゲットのサイズが大きすぎる 
  • 使用するDNAポリメラーゼの増幅可能な最大サイズを確認します。Long PCR用に特化したDNAポリメラーゼを使用します。
  • より短い時間で長いターゲットを増幅できる DNA鎖伸長能(processivity)の高いDNAポリメラーゼを選択します。
  • プライマーのテンプレートDNAへの結合、および酵素の熱安定性を促進させる目的で、アニーリング温度および伸長温度を下げます。アンプリコンのサイズに応じて伸長時間を延長します。
プライマー
問題のあるデザイン
  • プライマーデザインを再確認します。適切と思われる場合、オンラインプライマーデザインツールを用いてさらに確認してください。プライマーが標的に対して特異的であることが重要です。他の領域に対してわずかでも相同性がないかを確認します。
  • プライマーダイマーを防止するため、プライマーセット間で相補的な配列になっていないこと、または3′末端に連続したGもしくはCヌクレオチドを持たないようにデザインします。
  • プライマー中に縦列反復(direct repeat)配列を持たないようにデザインし、プライマーのミスアライメントを防ぎます。特異性を高くするため、より長いプライマーのデザインを検討します。
  • 特異性を改善するため、nested PCRを検討します。
過剰なプライマー
  • プライマー濃度を最適化(通常、0.1~1 μMの範囲内)します。プライマー濃度が高すぎると、プライマーダイマーが形成されやすくなります。
その他のコンポーネントについて
過剰なDNAポリメラーゼ
不適切なDNAポリメラーゼ
  • 特異性の高いPCRを行ために、ホットスタートDNAポリメラーゼを使用します。ホットスタートDNAポリメラーゼは室温では全く活性を持たず、高温下で活性化を行わないと機能を持たない酵素です。ホットスタートではないDNAポリメラーゼを使用する場合は、酵素活性を低く抑えるため、氷上でPCR反応液の調製をします。
過剰なMg2+
  • 非特異的なPCR産物を防止するため、Mg2+濃度を再確認し、必要に応じて低くします。プライマーセットおよび標的DNAに応じて、Mg2+濃度を最適化します。
サーマルサイクリング条件
不十分な熱変性
アニーリング温度の算出が誤っている
  • 使用するDNAポリメラーゼ専用の反応bufferで推奨されるアニーリング温度を用います。プライマー配列に対するアニーリング温度の算出方法は、使用するDNAポリメラーゼによって異なります。。
アニーリング温度が低すぎる
  • 特異性を改善するため、アニーリング温度を高めに設定します。最適アニーリング温度は、通常、プライマーTm値から3~5°C低い温度です。
  • 利用可能な場合はグラジエント機能のあるサーマルサイクラーを使用して、アニーリング温度を段階的に1~2°Cずつ上げて差的な条件の検討を行います。
  • 特異性を高めるため、タッチダウンPCRを検討します。
アニーリング時間が長すぎる
  • プライマーの非特異的な結合を最小限に抑えるため、アニール時間を短く設定します。。
伸長温度が高すぎる
  • 特にLong PCRの場合、DNAポリメラーゼの熱安定性を補助するため、伸長温度を3~4°C下げます。
伸長時間が短すぎる
  • Long DNAを増幅する場合は、伸長時間を延長します。
  • 全ターゲットを完全に伸長するために、最終の伸長ステップでは十分な時間(5~15分間)をかけます。
サイクル数が多すぎる
  • 非特異的な産物の増幅を抑えるために、サイクル数を減らします。このときターゲットのPCR産物の収量が劇的に減少しないように注意します。
考えられる原因推奨事項
フィデリティの低いDNAポリメラーゼ
Mg2+濃度が高すぎる
  • Mg2+濃度を再確認し、必要に応じて低くします。濃度が高すぎる場合、DNAポリメラーゼによるヌクレオチドの取込みミスが起こりやすい傾向があります。
不均衡なdNTP濃度
  • 反応液中のdATP、dCTP、dGTP、dTTPの各モル濃度が、すべて等しくなるようにします。ヌクレオチド間の濃度にばらつきがあると、PCRエラー率が高くなります。
サイクル数が多すぎる
  • ターゲットのPCR産物の収量が大幅に減少しないように注意しながら、サイクル数を減らします。サイクル数が多くなると、ミスマッチなヌクレオチドの取込みが増加します。
  • 過剰なサイクル数が抑えるために、インプットDNA量を増やします。
紫外線によるDNA損傷
  • 電気泳動ゲル中のDNA断片を見るために、長波長域の紫外線(360 nm)ライトボックスを使用しますが、できる限り照射時間を短く抑えます。
  • 短波長域(254~312 nm)ライトボックスを使用する場合、ゲルはガラスまたはプラスチック製のプレートの上に置き、紫外線照射時間を数秒間に抑えます。
  • あるいは、長波長域で励起される(DNAの損傷が少ない)色素を使用して、DNAを視覚化します。
シーケンスエラー
  • シーケンス結果の信頼性を確認するには、DNAを両末端からシーケンス(配列決定)します。可能であれば、反復サンプル(n=2)を置いてシーケンスを行います。
考えられる原因推奨事項
問題のあるプライマーデザイン
  • プライマー中に縦列反復(direct repeat)配列を持たないようにデザインします。PCR産物の末端にミスアライメントによる複数のリピート配列が生じる場合があります。
プライマー品質が低い
  • 5’末端側の配列が持たない非完全長のDNAオリゴを除去する目的で精製したPCRプライマーを注文してください。
ヌクレアーゼの混入
  • PCRのセットアップには、分子生物学グレードのヌクレアーゼフリーの試薬を使用してください。エキソヌクレアーゼのコンタミを想定し、活性を低く抑えるため、氷上で反応液を調製します。
紫外線によるDNA損傷
  • 電気泳動ゲル中のDNA断片を見るために、長波長域の紫外線(360 nm)ライトボックスを使用しますが、できる限り照射時間を短く抑えます。
  • 短波長域(254~312 nm)ライトボックスを使用する場合、ゲルはガラスまたはプラスチック製のプレートの上に置き、紫外線照射時間を数秒間に抑えます。
  • あるいは、長波長域で励起される(DNAの損傷が少ない)色素を使用して、DNAを視覚化します。
シーケンスエラー
  • シーケンス結果の信頼性を確認するには、DNAを両末端からシーケンス(配列決定)します。可能であれば、反復サンプル(n=2)を置いてシーケンスを行います。
考えられる原因推奨事項
問題のあるプライマーデザイン
  • プライマーセット間で相補性を有したり、プライマー内で相補性を持つプライマーを避けてください。これらは、プライマーダイマーやオリゴマーを形成しやすく、以後のPCR増幅に影響を与えます。
クロスコンタミネーション
キャリーオーバー汚染

トラブルシューティングの詳細については、当社エンドポイントPCRおよびPCRプライマーのサポートセンターをご確認頂くか、当社テクニカルサポートチームまでお問い合わせください。

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.