細胞膜はタンパク質が埋め込まれたリン脂質二重層で構成され、正味の負電荷を帯びています。したがって、細胞膜は DNA や RNA のリン酸骨格のような負に帯電している大きい分子を通過させなための浸透可能なバリアとして存在します。核酸の細胞膜通過を可能にするために、核酸を化学物質とキャリア分子でコーティングして中和する方法から、DNA を直接細胞に導入するために細胞膜に一時的な細孔を作る物理的方法まで、それぞれ異なるアプローチを用いた多くの技術が開発されてきました。

遺伝子導入技術

現在利用可能なトランスフェクション技術は、大きく3つのグループに分けられます。すなわち、化学的、生物学的、物理的技術です。すべての細胞、すべての実験に1つの方法を適用することはできません。理想的なアプローチは細胞の種類と実験のニーズに応じて選択する必要があり、トランスフェクション効率が高く、細胞毒性が低く、正常な生理機能への影響が最小限で、使いやすく、再現性が高い必要があります (Kim and Eberwine, 2010)

化学的

キャリア分子を使用して負に帯電した核酸を中和、または正電荷を付与するために化学的方法には次のものがあります。

生物学的

非ウイルス遺伝子を細胞に導入するために遺伝子改変ウイルスを使用する(形質導入ともいいます)生物学的方法には、次のものがあります。

物理的

物理的方法は、核酸を細胞質または細胞核に直接導入するもので、次のものがあります。

技術利点欠点
カチオン性脂質媒介性導入
  • 迅速で簡便なプロトコル
  • 市販品を入手でき再現性ある結果が得られる
  • 高効率と高発現量
  • 広範囲の細胞株およびハイスループットスクリーニングに適用可能
  • DNA、RNA およびタンパク質の導入に使用可能
  • パッケージされた核酸のサイズが無制限
  • 一過性および安定タンパク質生産の両方に適用可能
  • 核酸の in vivo 導入に使用可能
  • 必要に応じて最適化が必要-細胞株の一部はカチオン性脂質に敏感
  • 一部の細胞株はカチオン性脂質で容易にトランスフェクトされない
  • 血清が存在すると、複合体形成を妨げられトランスフェクション効率が落ちる可能性あり
  • 無血清培地は細胞毒性増加の可能性あり
リン酸カルシウム共沈殿法
  • 安価で容易に入手可能
  • 一過性および安定タンパク質生産の両方に適用可能
  • 高効率(細胞系株による)
  • 慎重な試薬調製が必要-CaPO4 溶液は pH、温度、およびバッファー塩濃度の変化に敏感
  • 再現性が問題になる可能性あり
  • 細胞毒性、特に初代細胞において
  • RPMI 培地はリン酸塩濃度が高いため、作用しない
  • 動物全体に対する in vivo 遺伝子導入には不適
DEAE-デキストラン法
  • 比較的シンプルな手法
  • 再現性のある結果、安価
  • 一部の種類の細胞において化学的細胞毒性あり
  • 一過性トランスフェクションに限定
  • トランスフェクション効率が低い
他のカチオン性ポリマーによる導入(例:ポリブレン、PEI、デンドリマー)
  • 通常、血清中で安定で、温度に敏感ではない
  • 高効率(細胞株による)、再現性のある結果
  • 一部の種類の細胞において細胞毒性あり
  • 非生物分解性(デンドリマー)
  • 一過性トランスフェクションに限定
技術利点欠点
ウイルス導入
  • 遺伝子導入法の中でもっとも高効率(初代細胞で80 ~ 90%の導入効率)
  • トランスフェクションが困難な種類の細胞にも良好に導入可能
  • 核酸の in vivo 導入に使用可能
  • 安定細胞系株の作製(レトロウイルスベクター)、または一過性発現(アデノウイルスベクター)に使用可能
  • トランスフェクションする細胞株にウイルス受容体が含まれる必要あり
  • 制限のある挿入サイズ(ほとんどのウイルスベクター:~ 10 kb、非ウイルスベクター:~ 100 kb)
  • 組み換えウイルスの作製は技術的に困難で時間を要する
  • 現時点でのバイオセーフティーの問題(潜伏性疾患の活性化、免疫原性反応、細胞毒性、挿入変異、細胞の悪性形質転換)
技術利点欠点
エレクトロポレーション
  • シンプルな原理
  • 最適化後の再現可能な結果
  • ベクターが不要
  • 細胞の種類と状態の影響が少ない
  • 最適化後、多数の細胞の迅速なトランスフェクションが可能
  • 特別な装置が必要
  • 電気パルスと電界強度パラメータの最適化が必要
  • 大幅に多くの細胞の操作が必要
  • 高い毒性レベルが観察される可能性あり
  • 細胞死亡率が高いため、多数の細胞が必要
  • 細胞膜が不可逆的に損傷し、細胞が溶解する可能性あり
遺伝子銃
導入
(微粒子
打ち込み)
  • 細胞の種類と状態の影響が少ない
  • 核酸の in vivo 導入に使用可能
  • 信頼できる結果が得られる直接的な方法
  • 導入できる遺伝子のサイズや数が無制限
  • 主に遺伝子ワクチン接種および農業
    アプリケーションに使用される
  • 高価な装置が必要
  • サンプルの物理的損傷を引き起こす
  • 細胞死亡率が高いため、多数の細胞が必要
  • 微粒子の調製が必要
  • 研究アプリケーションには比較的高価
  • 一般的にエレクトロポレーションまたはウイルス/脂質媒介導入よりも低効率

マイクロインジェクション
  • 細胞の種類と状態の影響が少ない
  • シングルセルのトランスフェクションが可能
  • 信頼できる結果が得られる直接的な方法
  • 導入できる遺伝子のサイズや数が無制限
  • ベクターが不要
  • 高価な装置が必要
  • 高度な技術が必要とされ、きわめて労働集約的(1回で処理できるのは 1 細胞)
  • しばしば細胞死を引き起こす
レーザー法による
トランスフェクション

(フォトトランスフェクション)
  • DNA、RNA、タンパク質、イオン、デキストラン、低分子および半導体
    ナノ結晶の導入に使用可能
  • 非常に小さい細胞に適用可能
    シングルセルトランスフェクションや一度で同時に大量の細胞にトランスフェクションが可能
  • ベクターが不要
  • 高い効率
  • 広範囲の細胞株に適用可能
  • 高価なレーザー顕微鏡システムが必要
  • 細胞の接着が必要
  • 高度な技術が必要

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.