RNA トランスフェクションは、RNA を細胞に導入するための古典的なトランスフェクショ技術から派生したものです。RNA トランスフェクションの目的はプラスミドトランスフェクションの目的に類似します。mRNA は細胞に導入され、コードされたタンパク質を発現し、遺伝子の機能と調節を研究します。siRNA は遺伝子ノックダウンの効果を調べる RNAi 研究に使用されます。この2つの方法の1つの大きな違いは、RNA は一過性にしかトランスフェクションできないことです。

RNAi ワークフロー

以下の図で、siRNA の設計と合成後のRNAi 実験のワークフローを示します。RNAi 実験を行うときは、以下のものがお手元にあるか確認してください:

  • トランスフェクション/エレクトロポレーション試薬およびプロトコル
  • ノックダウンおよび他の RNAi 高価を評価するアッセイ
  • ポジティブおよびネガティブコントロール siRNA
  • 目的の遺伝子に対する二つ以上の siRNA

図 1:siRNA の設計と合成後の RNAi ワークフロー

RNA の取り扱い

RNA オリゴヌクレオチドは、取り扱い時に導入された外来性リボヌクレアーゼによる分解を受けやすいです。

  • RNA を取り扱う際は手袋を着用してください。
  • トランスフェクション用の RNA を調製には、RNaseフリーの試薬、チューブ、バリアピペットチップを使用します。
  • 作業エリアを 70%エタノールまたは RNaseZapRNase Decontamination Solutionなどの他のRNase除去溶液で拭き取ってください。

トランスフェクション効率

哺乳類細胞への siRNA によるトランスフェクション効率は、使用する細胞の種類およびトランスフェクション試薬によって変わります。これは、トランスフェクションに使用する最適な濃度を経験的に決める必要があることを意味します。siRNA トランスフェクション効率に影響を与える主な変数は以下の通りです:

  • トランスフェクション試薬の種類と量
  • ウェルに播種した細胞の数
  • RNA または siRNA の種類
  • RNA または siRNA の濃度

ポジティブコントロール

各実験にポジティブコントロールを含めることが重要です。ポジティブコントロールは、研究で使用する細胞とアッセイで再現性があり、簡単に測定できる反応を引き出すものでなければなりません。このコントロールで最大の作用が予め設定した閾値レベルを上回るか下回る場合、同日に行った他の実験の測定値が信頼できるものであることがわかります。各アッセイおよびコントロールペアの閾値を経験的に決定することが重要であることに注意してください。

特定の RNA または siRNA に対する反応の程度は、そのトランスフェクション効率に直接関係しています。トランスフェクション効率を評価するには、すべての実験に BLOCK-iT Fluorescent Oligoを含めることをお勧めします。トランスフェクション実験でBLOCK-iT Fluorescent Oligoを使用すると、任意の蛍光顕微鏡および標準的な FITC フィルターセットでオリゴマーの取り込みおよびトランスフェクション効率を簡単に評価できます。少なくとも80%以上の細胞による蛍光オリゴマーの取り込みは、高効率と相関します。

ネガティブコントロール

ネガティブコントロールは、意味あるデータを取得するためにポジティブコントロールと同じように重要です。ターゲット RNA または siRNA で処理した細胞とコントロールで処理した細胞の作用を比較するために、 一連のトランスフェクションに等モル量の少なくとも 1 つ以上のネガティブコントロールを必ず含めてください。これらのきわめて重要なコントロールから得られるデータは、実験ターゲットのノックダウンを評価するためのベースラインとなります。

非トランフェクションまたは細胞のみのネガティブコントロールも非常に有用です。トランスフェクションされなかった培養物と非ターゲティングネガティブコントロールをトランスフェクションされた培養物との間でハウスキーピング遺伝子の発現を比較するにより、細胞生存率に対するトランスフェクションの影響に関する重要な情報を得ることができます。

コントロールの種類推奨用途推奨製品
トランスフェクションコントロール蛍光によるトランスフェクション効率の算出および測定
  • BLOCK-iT Alexa Fluor Red Fluorescent Control
  • BLOCK-iT Fluorescent Oligo
ネガティブコントロールノックダウンレベルをバックグラウンドと比較して測定するために使用する非特異的またはスクランブルコントロール
  • Silencer Select Negative Control siRNA
  • Stealth RNAi siRNA ネガティブコントロール
  • Silencer ネガティブコントロール siRNA
ポジティブコントロール導入を測定し実験条件の最適化するために使用される高レベルのノックダウンを実現することが知られているRNAi 試薬
  • Silencer Select GAPDH Positive Control siRNA
  • Stealth RNAi siRNA ポジティブコントロール
  • Silencer ポジティブコントロール siRNA
非トランスフェクションコントロール正常な遺伝子発現レベルおよび表現型を測定 
同一RNAi ターゲットに対する複数の RNAi 配列表現型の変化の検証、出版品質の結果を獲得するためのオフターゲット効果の制御に使用
 
RNAi の滴定細胞の正常なプロセスの変化を避けるために最低有効レベルを使用
 
レスキュー実験誘導可能な RNAi をオフにするか、RNAi 配列が影響を受けないターゲット mRNA を発現しているプラスミドを導入
BLOCK-iT Pol II miR RNAi ベクターまたは BLOCK-iT shRNA ベクターと誘導性プロモーター(それぞれ CMV/TO、H1/TO)

コトランスフェクション

コトランスフェクションは、siRNA とタンパク質を発現するためのプラスミドの両方を細胞に導入したい場合に実施されます。このタンパク質は試験システムの一部、またほとんどの場合、レポーター遺伝子(ルシフェラーゼ、GFP、β-ラクタマーゼ)です。場合によっては、変異タンパク質を siRNA とともに発現させて、siRNA で1つのパスウェイを遮断し、変異タンパク質を過剰発現させたいことがあるでしょう。

脂質トランスフェクション試薬を使用する場合、プラスミドが存在するとすべてのカーゴ(プラスミドおよび siRNA)のトランスフェクション効率が低下させる可能性があるため、トランスフェクションの最適化が非常に重要になります。トランスフェクション条件が最適でない場合、脂質が多すぎたり、ノックダウンまたはプラスミドからのタンパク質発現が少なすぎたりして、望ましくない非特異的な細胞死が生じる可能性があります。

siRNA の品質

siRNA の品質は RNAi 実験に大きく影響します。siRNA には、エタノール、塩類、タンパク質などの合成から持ち越された試薬が含まれていてはなりません。また、30 bp より長い dsRNA夾雑物は、非特異的インターフェロン応答を活性化し、細胞毒性を引き起こすことにより、遺伝子発現を変化させることが知られています(Stark et al., 1998)。したがって、長さが全長の 80%を超える標準純度の siRNA を使用することをお勧めします。

siRNAは-20 °C または-80 °C で保存しますが、霜取り不要冷凍庫は使用しないでください。当社のデータは、最大 50 回の凍結/融解サイクルは100 µM の siRNA 溶液に悪影響を及ぼさないことを示しています(質量分析および分析 HPLC で評価)。しかし、RNaseフリーの水またはバッファーに再懸濁させた siRNA は、汚染の可能性を避けるために少量のアリコートで保存することをお勧めします。  

アニーリングされた二本鎖 siRNA は一本鎖 RNAよりも強いヌクレアーゼ耐性がはるかに高くなっています。しかし、すべての RNAi 実験で厳密なRnaseフリーの手法を使用する必要があります。

siRNA 調製物の分解が疑われる場合は、約 2.5 µg の siRNA を非変性 15 ~ 20%アクリルアミドゲル上で電気泳動して siRNA の完全性を確認します。RNA をエチジウムブロマイドで染色して可視化し、予測されるサイズと強度であることを確認します。siRNA がタイトなバンドとして移動することが必要です。スメアなバンドは分解を示します。

siRNA の量

siRNA の最適量とその遺伝子サイレンシング能力は、mRNA の 局在、安定性、存在量、ならびに標的タンパク質の安定性および存在量など、ターゲット遺伝子産物の特性に一部影響を受けます。

多くの siRNA 実験は 現在も100 nM siRNA で細胞をトランスフェクションすることで行われていますが、公表された結果は、より低い siRNA 濃度でトランスフェクションすると siRNA が示すオフターゲット効果を低減できることを示しています(Jackson et al., 2003; Semizarov et al., 2003)。脂質媒介性リバーストランスフェクションでは、10 nM の siRNA(範囲 1 ~ 30 nM)で
通常は十分です。 エレクトロポレーションで siRNA を導入する場合、siRNA 量の影響はそれほど顕著ではありませんが、通常1 µg/細胞 50 µL(1.5 µM)の siRNA(範囲 0.5 ~ 2.5 µg/細胞 50 µL または 0.75 ~ 3.75 µM)で十分です。

siRNA が多すぎるとオフターゲット効果または細胞毒性作用をもたらす可能性がありますが、siRNA が少なすぎるとターゲット遺伝子の発現を効果的に低減できない可能性があることに注意してください。非常に多くの変数が関与しているため、使用するすべての細胞株ごとにsiRNA 量を最適化することが重要です。また、非ターゲットネガティブコントロール siRNA の量は、実験用 siRNA と同量にする必要があります。

トランスフェクション試薬の量

トランスフェクション試薬の量は、少なすぎるとトランスフェクションが制限され、多すぎると毒性になる可能性があるため、最適化するためのきわめて重要なパラメーターです。全体的なトランスフェクション効率は、siRNA と複合体を形成するトランスフェクション試薬の量に影響されます。最適化するには、トランスフェクション試薬を広い希釈範囲で滴定し、良好な遺伝子ノックダウンが得られるもっとも希薄な濃度を選択します。この臨界濃度は、細胞株ごとに経験的に決定する必要があります。

細胞密度

細胞密度は予め播種する従来のトランスフェクション実験では重要ですが、リバーストランスフェクションでsiRNA を導入する場合、細胞密度はそれほど重要ではなく、最適化はほとんど必要ありません。しかし、使用する細胞が多すぎ、siRNA の量を比例して増加しない場合は、サンプル中の siRNA の濃度が低すぎて遺伝子サイレンシングを効果的に誘発できない場合があります。細胞密度が低すぎると、培養物が不安定になる可能性があります。培養条件(pH、温度など)がマルチウェルプレート全体で均一ではなく、不安定な培養物に異なる影響を与える可能性があるため、不安定性はウェルごとに異なります。

トランスフェクション試薬/siRNA 複合体への曝露

ほとんどのトランスフェクション試薬は最小限の細胞毒性を誘発するように設計されていますが、細胞を過剰量のトランスフェクション試薬に曝露したり、長時間放置したりすると細胞培養の全体的な健全性に悪影響を及ぼす可能性があります。敏感な細胞は、数時間後にトランスフェクション試薬の曝露により死滅し始めるかもしれません。トランスフェクションによって細胞が過剰に細胞死が生じる場合、トランスフェクション混合物を除去し 8 ~ 24 時間後に新鮮な増殖培地を補充してください。

トランスフェクション中の血清の存在

トランスフェクション試薬と siRNA との複合体形成は、血清成分が反応を妨げないように、血清量が少ないか無血清培地で行う必要があります。しかし、いったん複合体が形成されると、一部のトランスフェクション試薬では血清を含有する通常の増殖培地でトランスフェクションを行ることができます(製造元の指示に従ってください)。トランスフェクション後は通常、培養培地の添加や交換は必要ありませんが、血清に適合する試薬を使用する場合でも、培地を交換すると有益な場合もあります。特定の試薬を使用する前に、必ず血清適合性を確認してください。一部のトランスフェクション試薬は、トランスフェクション中に無血清培地を必要とし、トランスフェクション複合体との最初のインキュベーション後に完全増殖培地に交換する必要があります。

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.