【概要】

パート1では、培養上清やさまざまな体液サンプルからのエキソソームの濃縮・回収方法について紹介しましたが、パート2では、回収したエキソソーム内のRNA(RNA cargo)に絞って解析方法を紹介します。具体的には、ターゲットのRNA cargoの定量を目的に、エキソソームからのRNA精製からリアルタイムqRT-PCR法による発現解析までのワークフローです。
最近では、 RNA cargoといえばmiRNAという報告が多いですが、エキソソームにはさまざまな種類のRNAも内包されています。図1は弊社の研究者が次世代シーケンサ(Ion PGM™ システム)を使って、血清由来のエキソソームのRNA cargoを網羅的に解析した結果です。トータルのRNA cargoにおける各RNA分子数の比率をまとめています。エキソソーム中にはmiRNAだけでなく、mRNAやrRNAやtRNAも含まれおり、もっとも多いのはmRNAという結果でした(1)
またValadiらは、マスト細胞(MC/9およびHMC-1)から分泌されたエキソソーム由来のRNA cargoを網羅的に解析していますが、RNA cargo中の幾つかのmRNAは他の細胞内でタンパク質に翻訳され、機能を有していることを報告しており(2)、miRNAだけでなく様々なRNA分子の働きに注目が集まっています。

図1.  次世代シーケンサによるRNA cargoの網羅的解析

図1. 次世代シーケンサによるエキソソーム中のRNA cargoの解析
次世代シーケンサ( Ion PGM™システム)を使って、ヒト健常検体(2ドナー:d1, d2) の血清由来のトータルRNA、および血清から分画したエキソソームのRNA cargoをシーケンスによって網羅解析を行いました(反復:n=2)。 この結果は、次世代シーケンサによって、リードされた全シーケンスを既存のデータベースでマッピングを行い、特定のリファレンスRNAにそれぞれ割り振り、そのリード数(count数)をベースに定量を行いました。さらに各リファレンスをmRNA, rRNA, tRNA, miRNAのグループに分け、各グループの全体におけるパーセンテージを積み上げ棒グラフにまとめています。snRNA, scaRNA, snoRNA, piRNAも検出されましたが、非常に低レベルでした。

そこで、本パートではmiRNAだけでなく、mRNA解析にもフォーカスした実験方法と実験チップを紹介します(図2)。


図2. RNA cargo解析のワークフロー
パート1で回収したエキソソームペレットから、Total Exosome RNA and Protein KitでRNAを精製後、TaqMan® AssaysでmiRNAとmRNAを定量します。

I. エキソソームサンプルからのRNA精製:

Total Exosome RNA and Protein Kitを使用:製品番号4478545

Total RNA Protein Isolation Kitは、体液や細胞培養液上清から濃縮したエキソソームサンプルからRNA cargoおよびタンパク質cargoを精製・回収するために開発されたキットです。
エキソソームから回収されるRNAの主要サイズは、50~500nt程度で低分子化が進んでいます。このキットには200nt以下のRNAを濃縮するオプションもありますが、操作に伴うロスにより、回収効率が低くなる傾向があります。リアルタイムPCRをベースとした解析では、small RNAも含むすべてのRNAを回収する ”total RNA isolation method” を選択することをお勧めしています(図3)。
このキットを用いることで、超高純度なRNAが精製でき、さまざまなアプリケーションに利用できます。具体的には、RNA発現解析(特にmiRNAの発現解析)、RT-PCR、シーケンス解析(例: Ion PGM™ 、Ion Proton™、SOLiD システムなどの次世代シーケンサ)、マイクロアレイ解析、RPA (Ribonuclease Protection Assay)、Northern blot hybridizationなどに利用できます。


図3. Total Exosome RNA and Protein Kit 操作の概要
RNA cargo解析では、small RNAも含むすべてのRNAを回収する①Total RNA Isolation Methodをお勧めします。エキソソーム由来のRNAは、分解がある程度進んでおり、回収されるRNAのサイズは、50~500nt程度です。このキットには200nt以下のRNAを濃縮するオプションもあります(② Optional Enrichment for small RNA)が、この方法は操作に伴うロスにより、回収効率が低くなる傾向があるので、リアルタイムPCR解析にはお勧めしていません。

【プロトコール】

Total Exosome RNA and Protein Kitを使用。製品番号:4478545

  1. エキソソームサンプル 200μL分を新しいチューブへ移します。200μLより少ない場合は、全量が200μLになるように1× PBSを添加します。
  2. 200μLの2× Denaturing Solutionを添加し、よくミックス。
    注意:
    ・2× Denaturing Solutionに塩の析出がないことを確認してください。塩の析出がある場合は37℃に温めて溶解した後、室温に戻して使用します。
    ・スタートサンプル量が200μL以上の場合、添加する2× Denaturing SolutionおよびAcid-Phenol:Chloroformの量はスタート量に応じて増やします。
  3. 氷中で5分間インキュベート。
  4. 400μLのAcid-Phenol:Chloroformを添加。
    重要:
    Kit添付のAcid-Phenol:Chloroformには、酸化防止のため上層部分に水層が残されています。 Acid-Phenol:Chloroformは、下層から分取してください。
  5. ボルテックスで30~60秒間ミックス。
  6. 最大スピード( > 10,000 ×g )、室温で5分間遠心
    注意:
    中間層が厚く、上清回収が難しそうな場合は遠心を繰り返してください。
  7. 上清を新しいチューブに回収(中間層や下層を取らないように注意)。
    注意:
    回収した上清液量をチェックしておきます。
  8. 回収した上清量に対して、1.25倍量の100%エタノール(室温)を添加してよくミックス。
    例:300μLの上清に対して、375μLの100%エタノールを添加)
  9. Filter CartridgeをCollection tubeにセット
  10. ステップ8のサンプル700μLをFilter Cartridge上に添加
    注意:サンプル量が700μL以上ある場合は、ステップ10~12 を繰り返し、2回以上に分けて同じCartridgeで処理します。
  11.  遠心(10,000 ×g、~15秒間)。サンプルがCartridgeに残っていないことを確認します。
    注意:Cartridge内にサンプルが残っている場合は、遠心を繰り返します。
  12. フロースルーを捨て、同じCollection tubeにCartridgeを再度セット。
  13. 700μLのmiRNA Wash Solution 1をCartridgeに添加し、遠心(10,000 ×g、~15秒間)します。フロースルーを捨て、同じCollection tubeにCartridgeを再度 セット。
  14. 500μLのWash Solution 2/3 をCartridgeに添加し、遠心(10,000 ×g、~15秒間)し、フロースルーを捨て、同じCollection tubeにCartridgeを再度 セット。
  15. 14のステップを繰り返す。
  16. Cartridgeに何も添加していない状態で、空遠心(10,000 ×g、1分間)。この操作により、Cartridge中のエタノールを完全に除去します。
  17. 未使用のCollection tubeに16のCartridgeをセット
  18. 95℃に加温してある50μLのElution Solution またはNuclease-free waterをCartridge内のfilterの中央部に添加。
  19. 遠心(10,000 ×g、30秒間)。
    注意:
    フロースルーにRNAが回収されているので捨てないでください。
  20. 18~19を繰り返す。
  21. 回収されたトータル100μLのフロースルーがRNAサンプル。
    すぐに解析に利用する場合は、氷中にチューブを置く。長期保存する場合は < -20℃で保存。

【実験結果の考察】

1. 予想収量について


*Nanosight LM10を用いて測定

エキソソームサンプルから回収されるRNA cargoは、非常に微量なので、核酸の濃度測定に汎用される分光光度計や蛍光光度計では検出が困難となります。ただしAgilent® 2100 Bioanalyzer® (RNA 6000 Pico Kit または Small RNA Kitを利用)を使えば微量な濃度も測定できます。収量はサンプルタイプやスタート時のサンプル量により大きく異なりますが、培養上清および血清サンプル由来のエキソソームから、表に示す収量のRNA cargoの回収が見込めます。

2. RNAの質

前述した通り、エキソソームから回収されるRNAの主要サイズは、50~500nt程度で低分子化が進んでいます。図は、HeLa cell media 由来のエキソソームから精製したRNA cargoの解析結果で、Agilent® 2100 Bioanalyzer® (RNA 6000 Pico Kit)で2ng分を測定しました。全体の回収サイズを確認するため、大量にアプライしています。 回収されたRNAのサイズはほとんどが200nt以下でしたが、完全長のrRNAのピークも確認されました。 これによりRNA cargo中には1kb以上の全長のmRNAが含まれることが予想されます。エキソソーム中に高分子のRNAが含まれることは複数の論文で報告されています( 3, 4, 5 ,6)

参考文献

  1. “The Complete Exosome Workflow Solution: From Isolation to Characterization of RNA Cargo.”  Jeoffrey Schageman, Emily Zeringer, Mu Li, Tim Barta, Kristi Lea, Jian Gu, Susan Magdaleno, Robert Setterquist, and Alexander V. Vlassov, BioMed Research International. Volume 2013, Article ID 253957, 15
  2. “Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells,” H. Valadi, K. Ekstr¨om, A. Bossios, M. Sj¨ostrand, J. J. Lee, and J. O. L¨otvall, Nature Cell Biology, vol. 9, no. 6, pp. 654–659, 2007.
  3. Methods for the extraction and RNA profiling of exosomes. Emily Zeringer, Mu Li, Tim Barta, Jeoffrey Schageman, Ketil Winther Pedersen, Axl Neurauter, Susan Magdaleno, Robert Setterquist, Alexander V Vlassov. World J Methodol 2013 ; 3(1): 11-18
  4. Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells. Valadi H, Ekström K, Bossios A, Sjöstrand M, Lee JJ, Lötvall JO. Nat Cell Biol 2007; 9: 654-659
  5. Glioblastoma microvesicles transport RNA and proteins that promote tumour growth and provide diagnostic biomarkers. Skog J, Würdinger T, van Rijn S, Meijer DH, Gainche L, Sena-Esteves M, Curry WT, Carter BS, Krichevsky AM, Breakefield XO. Nat Cell Biol 2008; 10: 1470-1476
  6. ExoCarta 2012: database of exosomal proteins, RNA and lipids. Mathivanan S, Fahner CJ, Reid GE, Simpson RJNucleic Acids Res 2012; 40: D1241-D1244