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Exosome (エキソソーム/エクソソーム)の研究が注目を集めています。興味はあるけど、どのように研究を進めたらよいか悩んだり、解析方法が面倒で躊躇していませんか?このシリーズは、エキソソーム研究を行う上で、シンプルな実験ワークフローを提案いたします。実験の簡便性だけでなく、これから始める研究計画の参考にしていただければ幸いです。第1回は、研究ワークフローの提案とエキソソームとは何かを簡単に説明します。
エキソソーム研究ワークフローの提案
本シリーズではエキソソームの”Cargo RNA/タンパク質”の解析方法にフォーカスして、シンプルな研究方法を提案いたします。
パート1では、細胞培養上清および体液(血清・血漿・尿・脳骨髄液・腹水・羊水・母乳・唾)からの簡便なエキソソームの回収方法を紹介します。
パート2では、Cargo RNAの解析方法として、mRNAやmiRNAを対象にTaqMan® Assaysを使用したqRT-PCR(定量的リアルタイムPCR)を紹介します。
パート3では、Cargo タンパク質の解析方法として、ウェスタンブロッティング法を解説します。
パート4では、エキソソームの細部タイプ分離と解析方法を提案します。現在、エキソソームはサイズ分画によって回収されますが、さらにエキソソーム表面に存在すると想定されるマーカータンパク質をターゲットとして免疫磁性分離を行うことが可能です。こうして分離されたサブタイプの研究法を紹介します。
Exosome(エキソソーム/エクソソーム)とは?
ヒトは約60兆個にもおよぶ細胞からなっており、生体機能を維持するために、細胞間でコミュニケーションを取り合っています。これまでさまざまな細胞間のコミュニケーション機構が解明されてきましたが、近年、細胞から分泌される脂質二重膜に囲まれた直径30~100nmの膜小胞体であるエキソソームによるコミュニケーション機構に注目が集まっています。エキソソームはさまざまな種類の細胞から分泌され、生体内の体液(血液・唾・尿・母乳など)中でその存在が確認されています(1)。さらに体液中を循環することで、遠く離れた細胞まで情報を伝達する可能性が示唆されています。
エキソソームには、宿主細胞由来のRNAやタンパク質が内包されています。この内包物は“cargo (カーゴ)”と呼ばれ、エキソソームによる細胞間コミュニケーションに重要な働きを持つと考えられ、“cargo ”を標的とした解析が盛に行われています。
これまでの研究で、エキソソームはさまざまな生物学的プロセスに関わり、抗原提示(2)、アポトーシス、血管形成、炎症、凝固(3)などへの関与が報告されています。さらにエキソソームは、下流のシグナル伝達経路を開始させるために、ターゲット細胞との間でタンパク質や脂質のやり取りや特異的な遺伝子(核酸)の伝達を行う可能性が報告されています(4-6)。
例えば、エキソソーム中には核酸(microRNAやmRNA)が内包されており(4, 7-9) 、がん細胞由来のエキソソームが、その進行を促進させる働きを持つことや、免疫応答を抑制する働きを持つことが報告されています。さらに興味深いことに、がん由来のエキソソーム中には、ホストであるがん細胞中のがん遺伝子を含有することが報告されており(10)、がんの早期検出のためのマーカーとしても注目されています。
エキソソーム由来のタンパク質についても解析が進められています。
これまでにエンドソーム関連タンパク質(GTPases, annexins, flotillin )、MVB形成機構に関わるタンパク質(Alix, TSG101)、テトラスパニン類(CD9, CD63, CD81, CD82)、熱ショックタンパク質(Hsp70、Hsp90)、脂質関連タンパク質、ホスホリパーゼ(消化酵素)などの存在が報告されていますが(11, 12)、こうしたタンパク質のレベルは、由来する細胞タイプによって異なることが分かっています。細胞間コミュニケーションのツールとしての”cargo”タンパク質の解析を行うケースもありますが、由来する細胞(例:がん細胞など)に特異的に存在する膜タンパク質などの抗原物質が、分泌されたエキソソーム表面にも存在することが特定できれば、高感度な診断法への応用も可能となります。
現在、エキソソーム研究は、その生体内における機能の探究から、より実用性の高い診断や治療への応用に向けた研究に移行しており、ここ数年で飛躍的に研究が進められています。
参考文献
関連リンク