Nucleic Acid Electrophoresis Additional Considerations—7 Aspects

核酸電気泳動ワークフローでは、実験のセットアップに関する前のセクションでも述べたように、核酸の分離に大きな影響を及ぼす数々のステップを実行する必要があります。このページでは、サンプル、試薬、そして泳動パラメータに関して、以下に示す 7 つの追加留意事項をトピックとして扱います。

  1. 核酸の配列とコンフォメーション
  2. ゲル試薬の特性
  3. ゲルの厚みとウェルのサイズ
  4. 泳動バッファーの種類
  5. 泳動時の電圧、電流、電力
  6. 核酸染色の特性
  7. ゲル染色の種類

1. 核酸サンプルの配列とコンフォメーション

電気泳動の基本的な原理によれば、サイズが異なる核酸は異なる移動度を示します。しかし、ヌクレオチドの数が同じでも配列組成やコンフォメーションが異なる核酸は、電気泳動において異なる移動度を示します(図 1)。

  • 配列:分離能の高い電気泳動では、AT 含量の高い DNA は、同じサイズで GC 含量の高い DNA よりも遅く泳動されることがあります。同様に、約 10 bp 毎に 4 ~ 6 個のアデノシンリピートを持つ DNA 分子(curvedDNA と呼ばれる)は、特にポリアクリルアミドゲルで、不規則に泳動されます[1, 2]。これらの変則的な泳動は、分子のコンフォメーションに影響を及ぼす配列組成が原因となっているようです。
  • コンフォメーション:環状 DNA や直鎖プラスミドのように、同じ配列でコンフォメーションの異なるDNA分子の泳動は、ゲル孔を通過する時の各分子のコンフォメーションのコンパクト性に左右されます。非常にコンパクトなスーパーコイル状の分子は最も速く、次いでフレキシブルな直鎖状、そして開環状の分子が泳動されます(図 1)。このような泳動の違いは、単離したプラスミド DNA の品質を調べる手段として役立つかもしれません。無傷なプラスミド DNA が、遺伝子過剰発現のための哺乳類細胞へのトランスフェクションのようなアプリケーションに必要となります。
fig1-conformation

図 1. コンフォメーションの異なる DNA の電気泳動挙動.(A) 開環、直鎖、スーパーコイルプラスミド DNA の電気泳動。(B) 開環、直鎖、スーパーコイルプラスミド DNA のコンフォメーション。 切れ目の入ったプラスミドは緩んだあるいは開環したコンフォメーションをとり、最も体積が大きいため、最も遅くゲル内を通過します。直鎖状のプラスミドはそれよりも若干速くゲル内を移動し、無傷のスーパーコイルプラスミドは最もコンパクトであるため、最も速く泳動されます。

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2. 電気泳動において考慮すべきアガロースおよびアクリルアミド試薬の特性

分離される核酸サンプルのサイズと要求される分解能は、アガロースとポリアクリルアミドゲルのどちらを使用するかを決定する上で重要なポイントとなります(詳細は、2 つのゲルの選択を参照)。一般的に、ゲルのパーセンテージが高い方が、小さな分子に対する分解能は上がります。表 1 は、核酸電気泳動に使用するアガロースおよびアクリルアミドゲル試薬を選択する際に考慮すべき特性をまとめたものです。

表 1. 電気泳動に関連するアガロースおよびアクリルアミドゲル試薬の特性[3、4]

プロパティ影響
透明性アガロースは半透明のゲルを形成します。そのため、透明性の高いアガロースを使用すれば、ゲルの可視化および記録の際に、蛍光のバックグラウンドを抑えることができます。
電気浸透(EEO)電気泳動の間、電気浸透または EEO として知られている電極へのバッファーの動きは、バッファーイオンがアガロース表面や内部の電荷と相互作用することで変化する可能性があります。バッファー中のプラスに荷電したイオン(陽イオン)は、核酸とは反対の向きに流れるため(図 2A)、高度にマイナス電荷を持ったアガロースは陽イオンの移動に影響を及ぼし、その結果、大きな(10 kb を超える)核酸の分離に影響を及ぼすことになります。
EEO の値はアガロース中のマイナス電荷の量を間接的な指標とすることで求めることができます。アガロースの側鎖の酸素原子(図 2B 中のXの隣)には、水素(X = H)か、あるいは硫酸基(SO3)やピルビン酸基(CH3COCOO)のようなマイナス電荷を持った官能基が結合しています。.マイナス電荷はバッファーの陽イオンを引き寄せるため、アガロース中のそのような官能基の存在は、核酸の分離効率や分解能の低下をもたらします。
ゲル化点ゲル化点はアガロース溶液がゲル化する時の温度です。ゲルのパーセンテージが高いと、ゲル化点は高くなります。
ゲルの強度こちらの単位(g/cm2)で表されるゲルの強度は、ゲルの壊れ難さのことであり、アガロースの濃度に依存します。ゲルの強度が高いほど、ゲルは扱いやすくなります。
遺伝学的品質遺伝学的品質(GQ)は、そのアガロースが、酵素阻害剤など夾雑物の含量という点において、分子生物学アプリケーションに適しているかどうかの指標になります。
融点融点はアガロースが溶ける温度です。加熱すると溶けるため、融点はゲル化点よりも高くなります。低融点(LMP)アガロースは通常のアガロースよりも低い温度(~25 °C)で溶解する特殊なアガロースです。低融点アガロースはゲル化点も低いため、大きな核酸の抽出や、ライゲーションのようなゲル内酵素反応のセットアップに役立ちます。
プロパティ影響
分子生物学グレードヌクレアーゼ活性や夾雑物について試験された高品質の分子生物学グレード試薬を使用してください。電気泳動の間、核酸サンプルの分解などを防ぎます。
安定性および使用期限市販されているポリアクリルアミドのストック溶液のほとんどには、安定性を向上させるためにガスが注入されています。ポリアクリルアミドのストック溶液を自作する場合は、数か月以内に使用してください。時間が経つとアクリル酸へと分解します。アクリルアミドビスアクリルアミドの粉末または溶液は、遮光容器に保存してください。

ゲルの重合化を開始するフリーラジカルを生成する過硫酸アンモニウム(APS)の溶液は、用事調製がベストです。調製した溶液は4 °C で保存すれば 1ヶ月程度持ちますが、時間が経つと反応効率が低下します。

ゲルの重合化においてフリーラジカルを安定化する試薬である、テトラメチルエチレンジアミン( TEMED)は、酸化を防ぐためにしっかりと蓋をして保存してください。
モノマーの総含量、w/v(%T)ポリアクリルアミドゲルのポアサイズは、溶液中のアクリルアミドモノマーとビスアクリルアミド架橋剤の総含量(%T)によって決まります。例えば、10% のポリアクリルアミドゲルは、10%(w/v)のアクリルアミドおよびビスアクリルアミドによって構成されます。%T が高くなるとポアサイズは小さくなり、低分子に対する分離能が上がります(詳細は、ポリアクリルアミドゲルの推奨%を参照)。
架橋剤の含量(%C)%C はモノマーの総量に対する架橋剤の量(w/w)を意味します。ある %T において、%Cが高くなるとポアサイズはより小さくなります。%C はまた、ビスアクリルアミドに対するアクリルアミドの比率として表されることもあります(例えば、5%C は 19:1)。核酸電気泳動には、5%C(19:1)と 3.3%C(29:1)のポリアクリルアミドゲルが最もよく使用されます。
プロパティ影響
透明性アガロースは半透明のゲルを形成します。そのため、透明性の高いアガロースを使用すれば、ゲルの可視化および記録の際に、蛍光のバックグラウンドを抑えることができます。
電気浸透(EEO)電気泳動の間、電気浸透または EEO として知られている電極へのバッファーの動きは、バッファーイオンがアガロース表面や内部の電荷と相互作用することで変化する可能性があります。バッファー中のプラスに荷電したイオン(陽イオン)は、核酸とは反対の向きに流れるため(図 2A)、高度にマイナス電荷を持ったアガロースは陽イオンの移動に影響を及ぼし、その結果、大きな(10 kb を超える)核酸の分離に影響を及ぼすことになります。
EEO の値はアガロース中のマイナス電荷の量を間接的な指標とすることで求めることができます。アガロースの側鎖の酸素原子(図 2B 中のXの隣)には、水素(X = H)か、あるいは硫酸基(SO3)やピルビン酸基(CH3COCOO)のようなマイナス電荷を持った官能基が結合しています。.マイナス電荷はバッファーの陽イオンを引き寄せるため、アガロース中のそのような官能基の存在は、核酸の分離効率や分解能の低下をもたらします。
ゲル化点ゲル化点はアガロース溶液がゲル化する時の温度です。ゲルのパーセンテージが高いと、ゲル化点は高くなります。
ゲルの強度こちらの単位(g/cm2)で表されるゲルの強度は、ゲルの壊れ難さのことであり、アガロースの濃度に依存します。ゲルの強度が高いほど、ゲルは扱いやすくなります。
遺伝学的品質遺伝学的品質(GQ)は、そのアガロースが、酵素阻害剤など夾雑物の含量という点において、分子生物学アプリケーションに適しているかどうかの指標になります。
融点融点はアガロースが溶ける温度です。加熱すると溶けるため、融点はゲル化点よりも高くなります。低融点(LMP)アガロースは通常のアガロースよりも低い温度(~25 °C)で溶解する特殊なアガロースです。低融点アガロースはゲル化点も低いため、大きな核酸の抽出や、ライゲーションのようなゲル内酵素反応のセットアップに役立ちます。
プロパティ影響
分子生物学グレードヌクレアーゼ活性や夾雑物について試験された高品質の分子生物学グレード試薬を使用してください。電気泳動の間、核酸サンプルの分解などを防ぎます。
安定性および使用期限市販されているポリアクリルアミドのストック溶液のほとんどには、安定性を向上させるためにガスが注入されています。ポリアクリルアミドのストック溶液を自作する場合は、数か月以内に使用してください。時間が経つとアクリル酸へと分解します。アクリルアミドビスアクリルアミドの粉末または溶液は、遮光容器に保存してください。

ゲルの重合化を開始するフリーラジカルを生成する過硫酸アンモニウム(APS)の溶液は、用事調製がベストです。調製した溶液は4 °C で保存すれば 1ヶ月程度持ちますが、時間が経つと反応効率が低下します。

ゲルの重合化においてフリーラジカルを安定化する試薬である、テトラメチルエチレンジアミン( TEMED)は、酸化を防ぐためにしっかりと蓋をして保存してください。
モノマーの総含量、w/v(%T)ポリアクリルアミドゲルのポアサイズは、溶液中のアクリルアミドモノマーとビスアクリルアミド架橋剤の総含量(%T)によって決まります。例えば、10% のポリアクリルアミドゲルは、10%(w/v)のアクリルアミドおよびビスアクリルアミドによって構成されます。%T が高くなるとポアサイズは小さくなり、低分子に対する分離能が上がります(詳細は、ポリアクリルアミドゲルの推奨%を参照)。
架橋剤の含量(%C)%C はモノマーの総量に対する架橋剤の量(w/w)を意味します。ある %T において、%Cが高くなるとポアサイズはより小さくなります。%C はまた、ビスアクリルアミドに対するアクリルアミドの比率として表されることもあります(例えば、5%C は 19:1)。核酸電気泳動には、5%C(19:1)と 3.3%C(29:1)のポリアクリルアミドゲルが最もよく使用されます。
fig2-EEO

図 2.(A)電気泳動における核酸とバッファー陽イオンの動き。(B)酸素原子の位置にマイナス電荷を持った官能基(X)を持つアガロースの単位構造

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3. ゲルの厚みとウェルのサイズ

ゲルの厚みとウェルのサイズは、アガロースとポリアクリルアミドゲルの両方において、泳動結果に影響を及ぼします[3]。

一般的に、厚いゲルは、泳動中に発生する熱がより多いため、バンドの拡散を引き起こします。染色時のバックグラウンドが高くなったり、染色および脱色に時間がかかったりすることで、良好な染色結果が得られない場合があります(泳動後の染色を行う場合)。アガロースゲルの場合、一般的に 3 ~ 4 mm の厚さが良好な結果を与え、5 mm を超える厚さのゲルはお勧めしません。ポリアクリルアミドゲルの厚さは、メーカーによって提供されているゲルキャスティングプレートのスペーサーによって決まりますが、0.75 mm、1.0 mm、1.5 mm が一般的です。.

ゲル用コームの形によって決まるウェルのサイズは、導入できるサンプル量だけでなく、バンドの分解能にも影響を及ぼします。大きなウェルではサンプル導入量を増やすことができる一方、バンドが分厚くなるため、分解能が低下し、スメア状になることがあります。一方、長く狭いウェルではサンプル導入量は少ないですが、よりシャープで明確に分離されたバンドを与えます。コンパクトにサンプル導入できれば、少ない量でより高いバンド強度を得ることもできます。

4. 泳動バッファーの種類

核酸電気泳動に使用される一般的なバッファーは、トリス‐酢酸 EDTA(TAE)と Triトリス‐ホウ酸 EDTA(TBE)の 2 種類です[5](詳細は、ゲルの泳動のセクションを参照)。高いイオン強度と緩衝能を持つ TBE バッファーは、分子量の小さなサンプル(例えば 1,000 bp 以下の DNA)を良好に分離しますが、大きな DNA 断片の分離にはあまり適していません。RNA のように二次構造をとる傾向にある分子の分離に使用される変性電気泳動には、通常TBE  バッファーが使用され、核酸を直鎖に保つために TB 7 ~ 8 M の尿素を含む TBE バッファーや同様の変性剤を用いてポリアクリルアミドゲルが作成されます。

分子量のより大きな核酸(例えば 12 ~ 15 kb 以上の DNA)の分離には、TAE バッファーを使用し、低い電場強度(1 ~ 2 V/cm)で泳動します。TAE バッファーはゲルの見かけポアサイズをより大きくし、電気浸透を減らします(比較的電荷の少ないバッファーです)。さらに電場強度を下げて泳動することで、大きな分子がスメア状になるのを防ぎます[6]。

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5. 泳動の電気的パラメーター:電圧、電流、電力

電気泳動によってサンプルを分離するために電圧をかけると、マイナスに荷電している核酸はプラスの電極に向かって泳動されます。そのため、電気泳動を支配する電気的なパラメーターは、サンプルの泳動とその成分の分離に大きな影響を及ぼします[7、8]。

オームの法則から導いた以下の式は、電圧(V)、電流(I)、そして電力(P)が、どのように泳動結果に影響し得るのかを表すのに使用できます。

電圧=電流 x 抵抗、V = I x R
電力=電流 x 電圧、P = I x V
V = I x R より、電力は P = Ix R のように表すことができる。

ゲル電気泳動中の抵抗(R)は、系によって固有です。例えば、バッファー(導電率と緩衝能)、温度、ゲルの特徴(濃度、高さ、長さ、枚数、断面)などは全て、抵抗値に影響します。導電媒質の中では、温度が上がれば電流値が上がるので、抵抗値は下がります。しかし泳動の経過によって抵抗値は変化します。

電気泳動に影響を及ぼす別の重要な因子として、熱が挙げられます。熱は系によって消費される電力に比例し、バッファーの導電率、加電圧、そして抵抗に依存します。バッファーの導電率が高いと(特に小さなイオンの場合に)、電流はよく流れます。電圧が高く、抵抗が低い場合でも、電流値は上がります。全体的な電流値の上昇は、系によって生産される電力と熱を上昇させます。

表 2 は、電気泳動における定電圧、定電力、定電流の効果に対して、抵抗と熱がどのように影響するかをまとめたものです。過熱による機器やサンプルへのダメージを避けるためには、パワーサプライによって電気的パラメーターを一定にセットすることにこだわらず、システムが扱うことのできる最大値よりも少し低めに、電圧を設定する方がよいでしょう。過剰な熱を発生させないよう、サンプルを分離するのに十分な高さの電気的パラメーターに設定することをお勧めします。 

表 2. 電気泳動における電圧、電力、電流.

 電圧(V)電力(P)電流(I)
概要
  • V = I x R
  • ゲルシステムの2つの電極間の電位差を表します。
  • P = I x V または P = I2 x R
  • システムによって生産された熱に相関する、エネルギー変換の割合を測ります。
  • I = V/R
  • バッファーイオンの流れを示し、加電圧に比例します。
電気泳動への影響
  • 電圧は電場強度(V/cm)に寄与します。
  • 高い電圧は荷電分子を速く移動させます。
  • サンプルの泳動速度をコントロールできるため、定電圧での泳動をお勧めします。
  • システムにおける抵抗(R)のバリエーション(例えば枚数やゲル断面の違い)は、定電圧(V = I x R)における電流(I)の変化によって補われ、結果、サンプルの泳動は相対的に一定に保たれます。
  • 定電力は、システムの過熱を防ぎますが、サンプルの泳動をバラつかせます。
  • 長時間の泳動によるバッファーイオンの枯渇(電流値の低下)は、定電力(P = I x V)を維持するために、進行的な電圧の上昇をもたらします。
  • 定電力で行うアプリケーションであるタンパク質の等電点電気泳動(IEF)では、泳動完了時に狭い幅へとサンプルを「フォーカス」するため、段階的に電圧を上げます。
  • 電流はその2乗分が電力に寄与されます(P = I{9}2{10} x R)。
  • 定電流はシステムの電力消費と熱生産を一定に保ちます(核酸用の連続した非グラジエントゲルにおいて)。
  • タンパク質用の非連続ゲルまたはグラジエントゲルによる電気泳動では、サンプルを濃縮するのに定電流が役立ちます。 I = V/R によると、サンプルが高濃度の(抵抗の高い)ゲルに入る時、電流を一定に保つために電圧も上昇し、結果、サンプルに大きな電場の力が働くことになります。

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6. 核酸用蛍光色素の一般的な性質

蛍光色素は電気泳動を可視化するための核酸サンプルの染色に使用されます。感度に加え、励起波長、結合親和性、ゲルへの浸透性といったような色素の性質は、電気泳動のワークフローとアプリケーションに大きな影響を及ぼします(表 3)[9]。

表 3. 核酸染色に使用される蛍光色素の一般的な性質.

プロパティI影響
結合親和性多くの場合、蛍光は色素が核酸に結合することで発生するため、色素の結合親和性は重要な要素です。一般的に、核酸用の色素は二重らせん構造に結合しやすいので、一本鎖分子(RNA など)よりも二本鎖分子(DNA など)に対して高い親和性を持っています。RNA の電気泳動では、一本鎖分子に高い親和性を持ったユニークな色素を使用することで、RNAの検出における特異性と感度を向上させることができます。
変性剤との相性RNA の電気泳動では、尿素とホルムアミドが典型的な変性剤として使用されます。変性条件での電気泳動では、これらの変性剤によって消光しない色素を使用する必要があります。別の方法としては、染色前にゲルを洗浄し、変性剤を除くという手段があります。
ダイナミックレンジダイナミックレンジは、サンプル量とシグナルが直線関係を示す濃度範囲を表しています。そのため、幅広いダイナミックレンジを持つ色素では、より正確にゲル内のバンドを定量することができます。
励起波長波長がより長ければエネルギーは低く、核酸へのダメージが少なくなります。そのため、青色光によって励起される色素を使用したほうがUV光の場合よりも核酸の完全性を損ないません。このような効果は、クローニング効率への影響など、ダウンストリームアプリケーションにおける結果を著しく左右します。
ゲルへの浸透性ゲルに速く浸透する色素は、ワークフローを短くするだけでなく、分厚く濃度の高いゲルの電気泳動後の染色にも適しています。
自家蛍光自家蛍光の低い色素は、ゲルの染色におけるバックグラウンドを低下させ、検出を改善すると同時に脱色する必要もありません。
変異原性核酸の染色に使用される蛍光色素の多くは、核酸にインターカレーティングするため、変異原性を持っています。変異原性が低く、安全な試薬に分類される色素の使用を、安全性や廃棄の簡便性といった点から考慮すべきです。

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7. サンプルへの色素の結合:ゲル内染色と泳動後染色

核酸サンプル染色の一般的な 2 つの方法を以下に示します。

(1)色素をゲル内(および泳動バッファー)に含ませるゲル内染色
(2)泳動完了後に別の容器でゲルを染色する泳動後染色

表 4に示したように、2 つの方法はそれぞれに利点と留意点を持っています。

表 4. ゲル内染色と泳動後染色における利点と留意点.

方法利点留意点
ゲル内染色
  • より簡便
  • ワークフローを短縮
  • 染色剤が少量
  • 長時間の泳動の場合、染色剤が流出する
  • 染色剤が一度しか使用できない
  • サンプルの移動度に影響する可能性がある
泳動後染色
  • より正確な分子サイズの解析
  • 染色液の再利用や複数ゲルでの使用が可能
  • ワークフローが長い
  • 染色剤の量が多い
  • 有害廃棄物を増やす可能性がある

ゲル内染色は簡便で、可視化に必要な色素も少量で済みます。しかし、プラスに荷電した色素分子は核酸の向きと反対に泳動され、特に長時間の泳動の場合、低分子の核酸の検出に影響を及ぼします(図 3A)。そのうえ、結合した色素は核酸の移動度を変えることがあるため(ゲルシフトとして知られる)、試料は正しいサイズの位置に泳動されなくなります(図 3B)。さらには、ゲルに含ませた高濃度のインターカレーティング色素は、スーパーコイルプラスミド DNA のコンフォメーションを変化させ、それらの電気泳動における移動度(見かけ分子量)を変化させる場合があります[10]。

泳動後染色は泳動中のサンプルには影響しないため、正確な分子量を得るために好まれる方法です。しかし泳動後染色は、ワークフローの時間を延ばし、またより多くの色素を使用するため、エチジウムブロマイドのような色素を使用する場合、多くの有害廃棄物を生み出すことになります。

fig3-in-gel-post-gel

図 3. インターカレーティング色素による核酸ゲル電気泳動.(A)ゲルに取り込ませたエチジウムブロマイドは核酸とは反対の向きに泳動されます。黄色の線は、エチジウムブロマイドの蛍光バックグラウンドと、ゲル内に色素がない領域との境界を示しています。(B) 泳動後染色に対し、インターカレーティング色素をゲルに含ませた場合、サンプルの移動度を変化させます。影響を観察するため、2 つのラダーを 2 つのゲルで並べて泳動しました。高分子量のラダー(レーン 1)は、両方のゲルで同様に泳動されました(青い線は位置を比較するために参考となるバンドを示しています)。低分子量のラダー(レーン 2)では、色素が存在する場合、移動度が変化しました。

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結論として、ワークフローセットアップに加え、試薬、電気的パラメーター、そして方法を適切に選択することが、電気泳動による核酸の分離解析において最適な結果を得るために重要なのです。

参考文献

  1. Carrera P, Azorín F (1994) Structural characterization of intrinsically curved AT-rich DNA sequences. Nucleic Acids Res 22(18):3671–3680.
  2. Stellwagen NC (2009) Electrophoresis of DNA in agarose gels, polyacrylamide gels and in free solution. Electrophoresis 30 Suppl 1:S188–195.
  3. Lee SV, Bahaman AR (2012) Discriminatory Power of Agarose Gel Electrophoresis in DNA Fragments Analysis. In: Magdeldin S (editor), Gel Electrophoresis: Principles and Basics. Rijeka: InTech. pp 41–56.
  4. Chory J, Pllard JD (1999) Resolution and Recovery of Small DNA Fragments. In: Ausubel FM et al. (editors) Current Protocols in Molecular Biology. Supplementary 45: Unit 2.7.1–2.7.8.
  5. Brody JR, Kern SE (2004) History and principles of conductive media for standard DNA electrophoresis. Anal Biochem 333(1):1–13.
  6. Stellwagen NC (1998) Apparent pore size of polyacrylamide gels: comparison of gels cast and run in Tris-acetate-EDTA and Tris-borate-EDTA buffers. Electrophoresis 19(10):1542–1547.
  7. Thermo Fisher Scientific Inc. (2015) Protein Gel Electrophoresis Technical Handbook.
  8. Sheehan D (2009) Electrophoresis. In: Physical Biochemistry: Principles and Applications. West Sussex: Wiley. pp 147–198.
  9. Thermo Fisher Scientific Inc (2010) Nucleic Acid Detection and Analysis. In: Molecular Probes Handbook: A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies. pp 349–360.
  10. Sigmon J, Larcom LL (1996) The effect of ethidium bromide on mobility of DNA fragments in agarose gel electrophoresis. Electrophoresis 17(10):1524–1527.
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For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.