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ゲル電気泳動は多くの分子生物学実験に使用されています。核酸サンプルを最適に分離解析するための電気泳動のセットアップには、幾つかのステップがあります。図 1 に示したように、核酸ゲル電気泳動のワークフローにおいてキーとなるステップは以下の通りです。
図 1. 核酸ゲル電気泳動における5つのキーとなるステップ
アガロースとポリアクリルアミドは、核酸電気泳動に使用される最も一般的なゲルです。どちらの素材も核酸の分離に適したポアサイズを持った三次元マトリクスを形成し、核酸と反応することもありません。ゲルマトリクスの濃度を変えることでポアサイズを調節でき、異なるサイズの核酸を効率よく分離することができます。
アガロースとポリアクリルアミドのどちらを選択するかは、主に核酸サンプルのサイズ幅と分離に必要な分解能によりますが、ゲルの調製とサンプルの回収方法についても考慮することがあります(Table表 1)。アガロースは、0.1 ~ 25 kb の核酸の分離に理想的なポアサイズを持ったマトリクスを形成します。一方、ポリアクリルアミドは、1 kb 未満の核酸の分離に適したより小さなポアサイズを形成します。 場合によっては、ポリアクリルアミドゲルを使用して、100 bp 未満の断片の一塩基分の違いを区別することも可能です[1]。
アガロース | ポリアクリルアミド | |
---|---|---|
由来 | 海藻由来の多糖 | アクリルアミドとビスアクリルアミドの架橋ポリマー |
ゲルの作成方法 | 溶解と凝固 | 化学反応 |
核酸の回収 | 溶解と抽出 | 分解と拡散、または電気溶出 |
DNA の分離幅 | 50 ~ 50,000 bp | 5 ~ 3,000 bp |
分解能 | 5 ~ 10 ヌクレオチド | 1 ヌクレオチド |
ゲルを調製するためのアガロースは、一般的には粉末として入手されますが、近年では便利なタブレットタイプも利用できます。ワークフローを合理化し時間を節約するために、プレキャストのアガロースゲルも利用でき、泳動、染色、解析がセットになったシステムも利用可能です。
アガロースゲルの作成において、ゲル濃度は以下のように計算します。
ゲル%(w/v)=(アガロースの g 数/バッファーのmL数)x100%
蛍光の核酸染色を使用する場合、ゲルを調製する際に、適切な濃度で蛍光試薬を含ませることがあります(例:0.5 μg/mL のエチジウムブロマイド)(詳細は、ゲルの可視化を参照)。
表 2 長さの異なる DNA 断片の分離における、最適なアガロースゲルの濃度を示したものです[2]。一般的に、小さな断片の分離には、高濃度のゲルが適しています(図 2)。濃度の低いゲルは壊れやすくて扱い難く、一方、濃度の高いゲルは濁っていて可視化を妨害することがある点に注意してください。
表 2. DNA 断片の分離におけるアガロースゲルの推奨濃度
ゲル濃度 | 分離できる範囲(bp) |
---|---|
0.5 | 2,000 ~ 50,000 |
0.6 | 1,000 ~ 20,000 |
0.7 | 800 ~ 12,000 |
0.8 | 800 ~ 10,000 |
0.9 | 600 ~ 10,000 |
1.0 | 400 ~ 8,000 |
1.2 | 300 ~ 7,000 |
1.5 | 200 ~ 3,000 |
2.0 | 100 ~ 2,000 |
3.0 | 25 ~ 1,000 |
4.0 | 10 ~ 500 |
5.0 | 10 ~ 300 |
図 2. 濃度の異なるアガロースゲルにおける DNA 断片の移動度。同じDNAラダーを同じ条件で(泳動時間を含め)、1%、2%、そして3%のアガロースゲルを使用し、泳動を行いました。比較のために、1 kb の断片を赤のアスタリスクで示しました。
アガロースは、800 ~ 1,000 個の単糖で構成される、分子量が120,000 までの直鎖ポリマーです。アガロース鎖は、ヘテロな2糖、つまり、β-1,4 グリコシド結合した D-ガラクトースと 3,6-アンヒドロ-α-L-ガラクトースの繰り返し構造からなります。アガロビオースとしても知られるこの2糖単位が、α1-3 結合によって繋がり、アガロース鎖を形成しています(図 3)。
図 3. アガロースの構造単位。アガロース鎖は、400 ~ 500 個のアガロビオース単位からなります。
アガロース溶液を加熱し、冷却すると、ゲル濃度に応じて直径 50 ~ 200 nm のポアサイズを持ったゲルマトリクスを形成します。90 °C 以上で、アガロースは溶解し、ランダムコイル構造をとります。冷却時に、2 本のアガロース鎖が水素結合によってらせん型繊維構造を形成します。さらに冷却しゲル化点(通常 40 °C 未満)を過ぎると、ヘヘリックスバンドルが水素結合によってさらに結びつき、3 次元メッシュ構造を持ったゲルを形成します(図 4)[3、4]。水素結合によるアガロースのゲル形成は、熱によって可逆的です。そのため、電気泳動によって分離した目的の核酸断片は、それを含むゲル片を溶解することで抽出することができます。
図 4. 加熱と冷却によって変化する溶液中のアガロース構造。
ポリアクリルアミドの構成成分—アクリルアミドと架橋剤であるビスアクリルアミドは粉末で利用されますが、ゲルを簡便に調製する際には予め作られているストック溶液を使用することが一般的です。粉末と液体は共に神経毒となることが知られており、扱いには防護用のラボウェアを使用するなどして注意する必要があります。ゲル内のアクリルアミドとビスアクリルアミドを合わせたトータルの濃度(%T)は、ポアサイズを左右し、その直径は通常 20 ~ 150 nm になります[5]。濃度が高い場合、ポアサイズは小さくなり、より小さな分子の分離に適します。表 3 は、一般的に使用されるゲル濃度を示しています[2]。
ポリアクリルアミドゲル(ビス比、19:1)% | 分離できる範囲 |
---|---|
変性ゲル | |
4.0 | 100 ~ 500 塩基 |
5.0 | 70 ~ 400 塩基 |
6.0 | 40 ~ 300 塩基 |
8.0 | 30 ~ 200 塩基 |
10.0 | 20 ~ 100 塩基 |
15.0 | 10 ~ 50 塩基 |
20.0 | 5 ~ 30 塩基 |
30.0 | 1 ~ 10 塩基 |
非変性ゲル | |
3.5 | 100 ~ 1,000 bp |
5.0 | 80 ~ 500 bp |
8.0 | 60 ~ 400 bp |
12.0 | 50 ~ 200 bp |
15.0 | 25 ~ 150 bp |
20.0 | 5 ~ 100 bp |
核酸の分離には、3 ~ 30%(%T)のポリアクリルアミドゲルが一般的に使用されます。%Tに加えて、トータルのアクリルアミドに対するビスアクリルアミド(架橋剤)の重量パーセンテージ(%C)も、ポリアクリルアミドゲルのポアサイズおよびサンプルの分離に影響を及ぼします(表 4)。
%T と %C は、以下のように表されます。
%T(w/v)=[アクリルアミドとビスアクリルアミドの g 数/バッファーの mL 数] x 100%
%C=[ビスアクリルアミドの g 数/アクリルアミドとビスアクリルアミドの g 数] x 100%
アクリルアミド:ビス | %C | ポアサイズの大きさ | アプリケーション |
---|---|---|---|
19:1 | 5% | 小 | DNA、変性ゲル |
29:1 | 3.3% | 中 | 非変性ゲル中の ssDNA および RNA |
37.5:1 | 2.7% | 大 | タンパク質ゲル |
ポリアクリルアミドは、アクリルアミドモノマーがビスアクリルアミドや N,N-メチレンビスアクリルアミドで架橋されたポリマーです。架橋剤であるビスアクリルアミドは、メチレンで繋がれた2つのアクリルアミドを持っています。これらの重合化はフリーラジカル反応によって起こります―通常過硫酸アンモニウム(APS)によって開始され、TEMED(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)によって触媒されます(図 5)。そのため、APS と TEMED の濃度は、ある温度における重合化の速度を左右します。
図 5. アクリルアミドとビスアクリルアミドによって形成されるポリアクリルアミドの構造。アクリルアミドとビスアクリルアミドによって形成されるポリアクリルアミドの構造。
アガロースとポリアクリルアミドゲルは、電気泳動におけて核酸の移動が可能な電気伝導性のあるイオン溶液を用いて作成されます。電気泳動では、同じ pH とイオン強度を維持するため、通常、ゲルと泳動バッファーの両方に同じタイプのバッファーを使用します。核酸電気泳動において最も一般的な2つのバッファーは、Tris-acetate with EDTA(TAE)と Tris-borate with EDTA(TBE)であり、核酸のマイナス電荷を生かすために、共に中性付近のpHを持っています(詳細は、 ゲルの泳動におけるバッファーの選択を参照)。
一重鎖 DNA や RNA の分析では、アガロースとポリアクリルアミドゲルはしばしば変性条件下で調製され、泳動されます。変性条件では、核酸を形成している水素結合が壊され、ヘアピンループのような二次構造の形成が抑えられます。そのため、変性条件での電気泳動は、RNA の分離解析によく使用されます。核酸電気泳動において、アガロースとポリアクリルアミドゲルに使用される一般的な変性バッファーには、以下に示したものが含まれます。
ゲルを泳動する際、しばしばスタンダードやマーカー、あるいはラダーと呼ばれる既知のサイズの核酸を含むリファレンスサンプルが、目的サンプルのサイズを推定するために利用されます。適したラダーを選択する際に考慮すべき点を以下に示します。
過去には主に、ウイルスゲノム(例えば、ラムダ φX174)や細菌のプラスミド(例えば、pUC19)の制限酵素消化断片が、DNAスタンダードに利用されていました。これらのスタンダードは、消化の再現性や、サンプルの純度、そして電気泳動におけるバンドパターンに関する問題をしばしば抱えていました。後に、ライゲーションや PCR による断片のラダーが登場し、再現性や目的のサイズが作れるといった点が好まれました。今日では、品質、バンドパターン、強度、量をコントロールできることから、クロマトグラフィーによって精製された断片が、ラダーのゴールドスタンダードとしてみなされています(図 6)。
さらには、輸送や保存に向いた、簡便で環境による影響の少ない、室温で安定なラダーがデザインされています。プレミックスされた、すぐに使えるラダーも提供されており、それはゲルに直接導入できるように、最適な濃度のローディング色素と共に調製されています。
異なるメーカーが提供する同じ記載の(例えば 1 kb や 100 bp)ラダーが、同じ数、サイズ、強度の DNA 断片を必ずしも{17}含んでいない{18}ことに注意してください(図 7)。使用前に、メーカーの提供する付属のガイドやプロトコルを参照し、ラダーの組成や適切な使用法に関する詳細を確認してください。
DNA ラダーに対し、RNA ラダーは通常、変性剤を含むローディングバッファーに溶解した状態で提供されます。変性剤は RNA を一本鎖に保つので、サンプルの移動度や分離結果を予測しやすくします。RNA のゲル電気泳動を行う際に、DNA ラダーを使用しないでください。変性条件下での使用は、通常とは異なる 2 本鎖核酸の分離パターンをもたらします。
図 6.DNA ラダーの違い. クロマトグラフィーで精製した DNA 断片を最適なローディングバッファーに溶かした Ladder #2 では、バンドが均等な強度を示し、スメアバンドがなく、色素により暗くなることがありません。一方、ladder #1 は、古い技術によって製造され、最適でない組成のバッファーに溶かして導入されたものです。
図 7. 2 つの異なるメーカーから提供されている記載の同じ DNA ラダーの断片組成の違い。
目的のバンドを良好に分離し、検出するためには、ゲルに導入する DNA の量を計算する必要があります。蛍光検出では通常、バンド当たり 1 ~ 100 ng の DNA で十分ですが、検出限界の量は使用する染色試薬に依存します(詳細は、核酸染色の性質を参照)[6]。サンプルやスタンダードのオーバーロードは、バンドのスメアリングやマスキングを起こし、特に断片のサイズが近い場合に分離が悪くなります(図 8A)。
図 8. 不適切なサンプルの分離. (A)導入量はバンドの分離に影響します。(B)サンプルの導入量が少ないとバンドが歪みます。
ローディング色素を含むバッファーで調製したサンプルやラダーの溶液は、通常、ウェルボリュームの少なくとも 30% を満たすようにアプライしてください。液量が少ない場合、溶液がウェル内にきちんと分配せず、バンドが歪んでしまいます(図 8B)。DNA 結合タンパク質や付着末端を含むサンプルでは、ゲルに導入する前に、サンプルを SDS を含むローディング色素で加熱処理する必要があるかもしれません。なぜなら、タンパク質の結合や DNA 断片同士の相互作用は、分離を悪くすることがあるからです(図 10B)。
ゲル電気泳動では、サンプルに(必要ならスタンダードにも)ローディングバッファー(6X または 10X のストック溶液が一般的)を加えます。ローディングバッファーの成分は以下の通りです。
一般的に、ローディング色素は分子量が小さく、核酸と同じ方向に泳動させるため、マイナスに荷電した分子です。ある色素は pH 依存的に発色し、サンプルローディングと泳動におけるpH指示薬としての役割を果たします(図 9A)。一般的に使用される色素は、ブロモフェノールブルー、キシレンシアノール、フェノールレッド、そしてオレンジ G です。ローディングバッファーを選ぶ時には、目的の核酸のマスキングを避けるため、特に分子サイズが似ている場合(図 9C)、色素の泳動位置に注意してください( 図 9B、表5、6)。色素によるマスキングは、目的バンドの解析や定量に影響を及ぼし、結果の信頼性を低下させます。
図 9.(A)中性 pH における色素の色。(B) さまざまなアガロース濃度、TAE および TBE バッファーによる色素の泳動位置。(C)色素によるバンドのマスキング
時として、ローディングバッファーは、SDS、尿素、ホルムアミドのような界面活性剤や還元剤を含んでいます。これらの添加物は、核酸分子内、または分子間の相互作用を壊し、核酸の直鎖構造や一本鎖コンフォメーションを促進します。最適な分離結果を得るためには、変性剤を含むローディングバッファー中でサンプルを加熱した方がよいでしょう(図 10A)。酵素反応によって得た二本鎖 DNA の電気泳動では、サンプルの移動度が変化するのを防ぐために、SDS をローディングバッファーに加え、核酸とタンパク質の相互作用を外すことがあります(図 10B)。
図 10. 核酸電気泳動における熱処理と SDS の効果.(A)変性剤を含むバッファーに溶かした RNA ラダーを、熱処理せずに泳動した結果。(B)制限酵素反応およびライゲーション後の DNA サンプルを、SDS 有りまたは無しのローディングバッファーで調製し、泳動した結果。 SDS を含むサンプルは、ゲルへ導入する前に加熱処理しました。
ブロモフェノールブルー | キシレンシアノール FF | |||
---|---|---|---|---|
ゲル% | TBE | TAE | TBE | TAE |
0.5 | 750 bp | 1,150 bp | 13,000 bp | 16,700 bp |
0.6 | 540 bp | 850 bp | 8,820 bp | 11,600 bp |
0.7 | 410 bp | 660 bp | 6,400 bp | 8,500 bp |
0.8 | 320 bp | 530 bp | 4,830 bp | 6,500 bp |
0.9 | 260 bp | 440 bp | 3,770 bp | 5,140 bp |
1.0 | 220 bp | 370 bp | 3,030 bp | 4,160 bp |
1.2 | 160 bp | 275 bp | 2,070 bp | 2,890 bp |
1.5 | 110 bp | 190 bp | 1,300 bp | 1,840 bp |
2.0 | 65 bp | 120 bp | 710 bp | 1,040 bp |
3.0 | 30 bp | 60 bp | 300 bp | 460 bp |
4.0 | 18 bp | 40 bp | 170 bp | 260 bp |
5.0 | 12 bp | 27 bp | 105 bp | 165 bp |
アクリルアミド:ビス(19:1)、ゲル% | ブロモフェノールブルー | キシレンシアノール FF |
---|---|---|
変性ゲル | ||
4.0 | 50 塩基 | 230 塩基 |
5.0 | 35 塩基 | 130 塩基 |
6.0 | 26 塩基 | 105 塩基 |
8.0 | 19 塩基 | 75 塩基 |
10.0 | 12 塩基 | 55 塩基 |
15.0 | 10 塩基 | 40 塩基 |
20.0 | 8 塩基 | 28 塩基 |
30.0 | 6 塩基 | 20 塩基 |
非変性ゲル | ||
3.5 | 100 bp | 460 bp |
5.0 | 65 bp | 260 bp |
8.0 | 45 bp | 160 bp |
12.0 | 20 bp | 70 bp |
15.0 | 15 bp | 60 bp |
20.0 | 12 bp | 45 bp |
ブロモフェノールブルー | キシレンシアノール FF | |||
---|---|---|---|---|
ゲル% | TBE | TAE | TBE | TAE |
0.5 | 750 bp | 1,150 bp | 13,000 bp | 16,700 bp |
0.6 | 540 bp | 850 bp | 8,820 bp | 11,600 bp |
0.7 | 410 bp | 660 bp | 6,400 bp | 8,500 bp |
0.8 | 320 bp | 530 bp | 4,830 bp | 6,500 bp |
0.9 | 260 bp | 440 bp | 3,770 bp | 5,140 bp |
1.0 | 220 bp | 370 bp | 3,030 bp | 4,160 bp |
1.2 | 160 bp | 275 bp | 2,070 bp | 2,890 bp |
1.5 | 110 bp | 190 bp | 1,300 bp | 1,840 bp |
2.0 | 65 bp | 120 bp | 710 bp | 1,040 bp |
3.0 | 30 bp | 60 bp | 300 bp | 460 bp |
4.0 | 18 bp | 40 bp | 170 bp | 260 bp |
5.0 | 12 bp | 27 bp | 105 bp | 165 bp |
アクリルアミド:ビス(19:1)、ゲル% | ブロモフェノールブルー | キシレンシアノール FF |
---|---|---|
変性ゲル | ||
4.0 | 50 塩基 | 230 塩基 |
5.0 | 35 塩基 | 130 塩基 |
6.0 | 26 塩基 | 105 塩基 |
8.0 | 19 塩基 | 75 塩基 |
10.0 | 12 塩基 | 55 塩基 |
15.0 | 10 塩基 | 40 塩基 |
20.0 | 8 塩基 | 28 塩基 |
30.0 | 6 塩基 | 20 塩基 |
非変性ゲル | ||
3.5 | 100 bp | 460 bp |
5.0 | 65 bp | 260 bp |
8.0 | 45 bp | 160 bp |
12.0 | 20 bp | 70 bp |
15.0 | 15 bp | 60 bp |
20.0 | 12 bp | 45 bp |
ゲル、スタンダード、そしてサンプルの調製が終われば、次に電気泳動が実施されます。ゲルが完全に固まってから、コームを外し、泳動バッファーを加えます。コームは、ゲルが裂けたり、ウェルが壊れたりしないように、しっかりとなめらかに上に向かって取り外します。コームを取り外し、バッファーを加えた後、ウェルに残っている気泡を注意深く取り除いてください。ポリアクリルアミドゲルでは、残ったアクリルアミドを除去するために、バッファーでウェルをしっかりと洗ってください。
電気泳動を開始した時、サンプルが陽極側に向かって動くようにするため、ウェルを陰極側にして水平ゲルを ゲルボックスにセットしてください(図 11A)。陽極は一般的に赤いので、「赤い方へ向けて泳動する」というふうに覚えておくと良いかもしれません。Vertical gel は、ウェルが上になるようにデザインされています(図 11B)。
図 11. 水平および垂直の電気泳動システムにおけるゲルの設置方法. 矢印は電気泳動における核酸の泳動方向を示しています。
緩衝能を持ったイオン溶液である泳動バッファーが、電流を流すだけでなく、pH の変化を防ぐためにゲルの泳動に使用されます。電気泳動の間、電子の流れによって陰極はより塩基性に、陽極はより酸性になり、その結果、水の電気分解と pH シフトが起こります(表 6)。水素および酸素ガスの発生により、電極から気泡が生じ、それが電気泳動のサインとなります。 理想的には、効率的な伝導性を確保するため、泳動バッファーとゲル調製用のバッファーは同じであるべきです。
電極 | 陰極(-) | 陽極(+) |
---|---|---|
電子の流れ | In | Out |
化学反応 | 4 H2O + 4 e– → 2 H2(気体)+ 4 OH– | 2 H2O → O2(気体)+ 4 H+ + 4 e– |
pH の変化 | 塩基性 | 酸性 |
電気泳動におけるバッファーの選択は、サンプルのサイズ、泳動時間、泳動後のプロセスなどに依存し、トリス酢酸 EDTA(TAE)とトリスホウ酸 EDTA(TBE)の2つが、最も一般的なバッファーです(表 7)[2、7]。
1X TAE や、0.5 ~ 1X TBE よりもイオン強度の高いバッファーを使用した場合、サンプルは速く泳動されますが、伝導度が高いため大量の熱が発生しやすく、その結果、サンプルの変性やゲルの損傷を引き起こします。
乾燥を防ぎ、イオンをきちんと流れさせるため、ゲルは完全にバッファーに沈めてください(図 12A)。しかし、アガロースゲルのような水平ゲルを泳動する時には、ゲルを覆うバッファーの深さを 3 ~ 5 mm にしてください。過剰なバッファー(5 mm 超)は、核酸の移動度を低下させ、バンドの歪みとオーバーヒートを起こしやすくします。
表 12. 電気泳動における泳動バッファーの影響.(A)ゲルの上部が泳動中にバッファーに浸っていなかった結果。(B)ゲルの調製に使用したバッファーとは異なる、推奨値よりも塩濃度の低いバッファーで泳動したゲル。
変性アガロースゲルはリン酸ナトリウムや MOPS などの異なるバッファーで作成されるため、泳動バッファーは TAE と TBE のどちらでもない点に注意してください(詳細は、変性ゲルの調製を参照)。使用するゲルに合った泳動バッファーを選択することが重要です(図 12B)。
ゲルの泳動を開始するために、定電圧、定電流、または定電力のいずれかによってゲルに電位をアプライします(詳細は、電気泳動における電気的パラメーターの影響を参照)。5~10 V/cm に設定した定電圧モードが、核酸電気泳動において一般的に使用されます。
アプライする電圧(V)= 電極間の距離(cm) x 推奨される V/cm
電圧は使用する泳動バッファーの種類だけでなく、分離する DNA 断片のサイズによって調整することもあります(表 8)。通常、市販の核酸ラダーには、各製品中の断片の最適な分離のための推奨電圧値が提示されています。極端に低い電圧は核酸の泳動を遅らせ、小さな分子の拡散と分解能の低下を引き起こします(図 13A)。一方、電圧が極端に高い場合、分離不良とスメアリングを引き起こし、場合によってはバッファーがオーバーヒートし、バンドのスマイリングや、サンプルの変性が起きることがあります(図 13B)。
図 13. DNA の電気泳動における電圧の影響.(A)低い電圧はバンドの拡散と分離低下を引き起こします。(B)高い電圧は「スマイリング」を引き起こします。
DNA のサイズ | 電圧 | 最適な泳動バッファー |
---|---|---|
<1 kb | 5 ~ 10 V/cm | TBE |
15 kb | 4 ~ 10 V/cm | TAE または TBE |
>5 kb | 1 ~ 3 V/cm | TAE |
最長 10 kb | 最大 23 V/cm | TAE |
場合によっては、バッファーの冷却と加熱をコントロールするために、装置に温度プローブを取り付けても良いでしょう。2 時間を超える電気泳動では、冷却とバッファーの再循環によってサンプルの分離が改善することがあります。変性ゲルの場合、バッファーの温度を 55 °C まで上げることで核酸の一本鎖構造が促進され、結果を改善できることがあります。
電気泳動に必要な時間は、ゲルの長さ、電圧、そしてサンプル中の分子のサイズによって決まります。通常は、目的のバンドがゲルの長さの 40 ~ 60% に到達するまで泳動されます。一定の泳動時間におけるローディング色素の位置を目安にします。ブロモフェノールブルーではゲルの長さの約 60% の位置まで、オレンジ G では 80% の位置まで泳動させます。サンプルやスタンダードの中の最も小さな分子が、ゲルから出ないように泳動時間をモニタリングすることが重要です。必要以上に泳動時間が短い場合、バンドの分離が不十分になることに注意してください(図 14)。 サンプルの前と後ろを移動する追跡色素含む DNA ラダーが、泳動のモニタリングと、色素によるバンドのマスキングの防止といった目的で利用されます。
図 14. サンプルの分離における泳動時間の影響
ゲル電気泳動が完了した後は、サンプルを可視化する必要があります。核酸は通常の光では見えないため、可視化のための検出方法が必要となります。表 9 に示したように、利用可能な方法は、サンプルの検出においてそれぞれに異なる感度幅と利点を持っています[6]。
染色方法 | 利点と留意点 | 検出感度 (dsDNA のおよその量) |
---|---|---|
比色法 | ||
|
| 0.5 ~1 µg |
蛍光 | ||
25 pg ~ 1 ng | ||
放射活性 | ||
|
| 10 fg ~ 1 ng |
蛍光色素は、その使いやすさと感度の高さから、染色剤の中で最も幅広く使用される検出方法です(図 15)。適切な波長で励起すると、色素は可視光(蛍光)を放出します(詳細は、蛍光の基礎を参照)。蛍光強度は結合した核酸の量に相関し、これは電気泳動における核酸の検出と定量の基礎となります。
エチジウムブロマイド(EtBr)は、その短い染色時間(約 30 分)と感度の高さ(1バンド当たり約 1 ng の 2 本鎖DNAを検出)から、核酸電気泳動において一般的に使用される蛍光色素です。それにもかかわらず、以下のような理由から、代わりの色素が使用されることがあります。
図 15. 異なる種類の核酸結合色素.
図 16. エチジウムブロマイドに代わる蛍光色素の特徴.
Figure 17.(A)一般的な核酸染色試薬の励起および発光スペクトル. 色素は最大励起波長において最も効率よく励起されます。SYBR Safe および SYBR Gold 染色は、UV 光でやや励起されますが、ブルーライトによって最も励起されます。(B)電気泳動においてクローニングインサートを可視化するために、ブルーライト(SYBR Safe 染色)または UV 光(エチジウムブロマイド)に一定時間暴露した後のクローニング効率。ゲルから精製した lacZ 断片のクローニング効率を、X-Gal プレート上に形成された、ベクターへの(変異の入っていない)機能遺伝子の挿入を意味する青色コロニーの数で測定しました。
色素による染色の代わりに、核酸の UV 吸収を利用したUV シャドーイングと呼ばれる方法によって、核酸を間接的に可視化できます[8]。この方法は、簡単な検出だけで十分であり、インターカレーティング色素の使用がダウンストリームアプリケーションに影響を及ぼすような、オリゴヌクレオチドや RNA の電気泳動による分離精製においてよく使用されます。UV シャドーイングによる検出には、ナノグラムからマイクログラムのサンプルが必要であり、UV の伝導と吸収の点から、ポリアクリルアミドゲルのように薄くて透過性の高いゲルが向いています。UV シャドーイングのプロトコルでは、検出を最大限に高めるため、電気泳動後にゲルをカセットから取り出し、透明なプラスチックフィルムで覆った後、UV‐蛍光薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートの上に置きます。ゲルを UV 照射すると、核酸バンドによる吸収が、TLC プレート上に影となって現れます(図 18)。目的サイズの影となった部分のゲルを切り出し、その後のプロセスに使用します。
図 18. UV シャドーイングによる分離後の断片の可視化.
可視化の後、泳動結果の記録と解析のために、核酸ゲルは画像化されます。サンプルを蛍光試薬で染色した場合、可視化とゲルイメージの取得の両方のために、適した光源によって色素を励起する特別な装置が必要です。装置には、励起光源がゲルの上にある落射イルミネーター(手持ち UV ランプと同様)と、ゲルの下にあるトランスイルミネーターの2種類があります(図 19)。落射イルミネーターでは光源が遠くにあるので、サンプルが受けるエネルギーは少なめです。これは核酸に対する UV ダメージを低下させますが、ゲルのバンドシグナルもまた低くなります。一方、トランスイルミネーターは高いバンドシグナルを与えますが、ゲルの近くで放射するため、UV によるダメージは高くなります。
図 19. 落射イルミネーションとトランスイルミネーション
放射標識した核酸の電気泳動では、泳動後にゲルを X 線フィルムにさらすオートラジオグラフィーと呼ばれるプロセスによって画像を取得します。放射標識したバンドのシグナル強度は、デンシトメトリーによって定量できます。
結論として、核酸電気泳動ワークフローでは、サンプルの分離解析のために幾つものステップと試薬を用いています。ワークフローの利点と欠点を知るだけでなく、サンプルに適したツールを選択することで、分子生物学アプリケーションにおける電気泳動の結果を、大幅に改善することができるのです。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.