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核酸電気泳動はさまざまな分子生物学的アプリケーションの解析手法として使用されています。またサンプルの分画/精製の手法としても利用されます。そのため、日常的な核酸電気泳動のアプリケーションは、主に解析と分画/精製の二つに分けられます。分析用または調製用として、分離方法、分解能、定量性といった観点に基づき分類されます。これらのアプリケーションを以下にまとめています。
核酸電気泳動の解析アプリケーションは、次の工程に進む前に、これまでの実験結果を確認することができます。この方法は主に目的のバンドの有無や、バンドの濃さ、泳動パターン、移動度、ハイブリダイゼーションなどによって評価します。
核酸の電気泳動は、主に図 1に示したアプリケーションの直後に行われ、実験がうまくいったか、効率はどの程度であるかを判断するために行われています。
図 1.実験の確認に電気泳動が利用される分子生物学アプリケーション。
図 2.ゲル電気泳動によるライゲーション効率の評価ラムダ DNA をまず type II 型の であるHindIIIで切断しました(レーン 1)。サンプルを再びライゲーションし、ゲル電気泳動で分析しました(レーン 2)。最も強いシグナルを示すバンドが完全にライゲーションされたDNAです。
各バンドの核酸量が既知のスタンダードまたはラダーを用いることで、電気泳動は目的の DNA や RNA の定量に利用できます。分光光度法による定量では、ヌクレオチドやプライマー、その他の夾雑物によって正確な定量ができない場合があります。電気泳動はそのような夾雑物から目的のサンプルを分離することができるため、信頼性のある定量法として利用されています。
ゲル電気泳動による定量では、サンプルバンドの強度とラダー中の同等サイズのバンドの強度を比較することによって、サンプルの量を見積もります(図 3A)。より正確に定量するためには、定量用に準備したラダーを、濃度を振って電気泳動し、そのときのアプライ量とバンドの濃さから検量線を作成するのが理想的です(図 3B)。さらには、高感度でダイナミックレンジの広い蛍光標識した核酸を用いれば、ゲル定量はより改善されます。ゲルイメージャーによっては、ゲル定量を簡単に行える解析ソフトウェアが装備されているものもあり、クラウドに接続して、データ保存が可能なものもあります。
図 3.(A) 核酸量が既知のバンドを用いたゲル定量。(B) ゲル定量のための検量線。
ゲル電気泳動は、サンプルから抽出した後の核酸の純度や完全性だけでなく、断片化が成功したかどうかや、合成した完全長オリゴヌクレオチドの収率などを評価するために使用されます。
図 4.ゲル電気泳動によるサンプルの純度、完全性、断片化の評価。(A) 抽出したゲノム DNA とトータル RNA をそれぞれゲル電気泳動しました。赤い矢印はそれぞれ、RNA のコンタミネーションと、ゲノム DNA のコンタミネーションを示しています。RNA のコンタミネーションは電気泳動を開始してすぐ(5 分以内)に検出されます。(B) 精製した二つの RNA サンプルを電気泳動し、28S および 18S rRNA を分析してサンプルの完全性を評価しました。(C) DNA の断片化効率と断片化 DNA の分布をゲル上で評価しました。(M = 分子量マーカー。RNA サンプルは変性ゲルで泳動しました。)
プローブハイブリダイゼーションによって、核酸プール中のターゲット配列を検出する方法では、電気泳動は重要な工程の 1 つになっています。図 5、6)。プローブは、既知のターゲット配列に特異的に結合するようデザインされた相補配列からなる一本鎖核酸です。
図 5.サザンおよびノーザンブロットは、サンプル中の特異的な DNA および RNA 配列を検出するために使用されます。
電気泳動の留意事項で紹介したように、同じ配列のプラスミド DNA でも、高次構造の違いによって異なる電気泳動移動度を示すことがあります。この性質は DNA の高次構造だけでなく、抽出後のプラスミドの完全性を評価するために使えます。
タンパク質と結合した核酸断片は、単独のときと比べて遅く泳動されます。結合したタンパク質がゲル内での核酸断片の泳動をシフトまたは遅らせるため、電気泳動移動度シフト解析(electrophoretic mobility shift assay:EMSA)と呼ばれています。このような原理に基づく方法は、一般的にゲルシフトまたはゲル遅延アッセイとも呼ばれます(図 7)。そのため、アッセイの電気泳動ステップは、サンプル中のタンパク質に結合した DNA およびフリーの DNA の平衡状態を示す「スナップショット」を提供しているのです。EMSA では、泳動中の核酸―タンパク質複合体の安定性を考慮し、ゲルの調製と電気泳動の両方においてイオン強度の低いバッファーを使用します。
図 7.ゲルシフトアッセイ。
電気泳動を用いた核酸の調製法では、電気泳動で分離した後、ゲルマトリックスから核酸を精製します。そのため、電気泳動を介した核酸精製は、ダウンストリームアプリケーションのためのサンプル調製として利用されます。このゲル抽出の手法は、同時に解析を組み合わせて行うこともできます。
電気泳動を用いた核酸精製は、多くの分子生物学テクニックおよびアプリケーション、つまり一般的には、PCR、制限酵素反応、オリゴヌクレオチド合成、断片化、末端修飾、次世代シーケンシング(NGS)のライゲーションステップなどに利用されています。
図 8.サイズセレクションの前後における断片サイズの分布。
電気泳動は、ゲルからの核酸の単離と精製のための重要な工程です。核酸の精製は通常、ゲルマトリクスから目的のバンドを切り出し、その後、核酸を抽出するという工程で行われます。ゲル精製には、以下について注意してください。
UV によって励起される色素(エチジウムブロマイドなど)を使用する場合、UV 光を当てる時間を最小限に留め、長波長の UV(例えば、254 nm の代わりに 360 nm)を励起に使用し、そしてトランスイルミネーションではなく、落射型の照明を選択してください。低エネルギーの青色光によって励起される蛍光色素は、照射による核酸の損傷が少ないため、サンプルの可視化にはより適しています。
アガロースとポリアクリルアミドは異なるため、この二つのゲルにおける精製方法は異なります。
目的のバンド部分のゲルを切り出した後、アガロースを熱処理によって溶解します。ゲル濃度が 1%の場合、標準的なアガロースは 90 °C 以上で、低融点(LMP)アガロースは 65 °C 以上で溶解します。低融点アガロースを使用すれば、溶解温度が低いため、抽出された核酸の質と収量を改善することができます。熱処理よりも穏やかなアプローチとしては、アガロース鎖をオリゴ糖に分解する酵素、アガラーゼを用いた方法があります。アガラーゼ活性を維持するため、ゲル化温度の低い低融点アガロースを使用する必要があります。
アガロースを溶解または消化した後、核酸を精製する方法は幾つかあります[2]。フェノール抽出とエタノール沈殿を用いた方法は、シンプルで効率の良い核酸精製法です。フェノールは毒性があり、廃有機溶媒として扱う必要があるため、最近では核酸にカオトロピック試薬を添加し、シリカカラムに結合させて、洗浄後カラムから溶出させる方法が一般的となっています(図 9)。
図 9.シリカカラムを用いたゲルからの DNA 抽出。
非常にシンプルかつ迅速に特定のバンドを回収できる方法として、二つのウェル列を持った特殊なアガロースゲルを使用した方法を紹介します[3]。ゲル上部のウェルにサンプルをアプライし、電気泳動を行います。次に、下部のウェルに目的のサイズのバンドが到達したところで回収します (図 10)。
図 10.特別にデザインされたプレキャストアガロースゲルを使用すればシンプルな 3 ステップの操作で DNA のバンドを分離精製できます。ゲル上部のウェルにサンプルをアプライした後、泳動によりバンドを分離します。下部のウェルにそれぞれのバンドが到達した時点でそれらを回収することができます。
ポリアクリルアミドは重合反応によって形成されるため、単純な熱処理ではゲルマトリクスを除去できません。核酸は通常、ゲルを破砕して溶出させる方法か、電気泳動溶出法のいずれかによってポリアクリルアミドゲルから抽出されます[4](図 11)。
図 11.ポリアクリルアミドゲルからの核酸の抽出。
結論として、核酸ゲル電気泳動は、幅広い分子生物学的ワークフローやテクニックにおいて、さまざまなアプリケーションに利用されます。電気泳動の基本原理は、1970 年代から変わっていませんが、電気泳動は、核酸の分離解析だけでなく、制限酵素反応から次世代シーケンシングに至る幅広いアプリケーションを支える強力なツールであることが証明されてきました。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.