内在性コントロール遺伝子は、相対遺伝子発現実験に必要不可欠です。従って、最も適切なコントロール遺伝子を選択することは極めて重要です。

内在性コントロールとは?必要とされる理由は?

定量的 PCR は、処理を加えるなどの遺伝子が発現される条件下で、それに伴い生成される mRNA 量の変化を測定することで、目的遺伝子がどの程度発現しているかを研究するために選択される方法です。これは、通常「倍数変化」の単位で推定されます。例えば、処理サンプルにおいて未処理サンプルの 2 倍の mRNA が生成した場合は、「倍数変化」が 2 という結果になります。

qPCR アッセイ中に生じる mRNA の量的変化は、遺伝子活性だけによるものではなく、実験条件、特に初期 cDNA 量に左右されます。妥当な結果を得るためには、処理したサンプルと未処理のサンプルに正確に同量の cDNA が含まれるようにして実験を開始する必要がありますが、これを実現するのは困難です。

幸運なことに、この問題には解決法があります。各サンプルに処理による影響を受けないことが知られている第 2 の遺伝子が含まれていると、mRNA 量のあらゆる差異が初期 cDNA 濃度の変化として検出されます。第 2 の遺伝子と目的遺伝子間の遺伝子発現パターンを比較することにより、「真の」倍率変化を導き出すことができます。この第 2 の遺伝子は、内在性コントロールと呼ばれますが、ハウスキーピング遺伝子、ノーマライザー、リファレンス遺伝子、あるいは内部標準遺伝子としても知られます。

これについて例を用いて説明します。1 つの遺伝子を 2 つの条件下でテストして、「処理」サンプルで 28.5、「未処理」サンプルで 27.5 の Ct 値が得られたと想定します。これらのサンプルの測定値の差(ΔCt)は 1 となります。各サンプルの cDNA 量が正確に同じであることが既知の場合、倍率変化は 2^(Δ Ct) として算出することができ、2^1=2 となります。それから、処理サンプルの発現レベルは未処理サンプルの 2 倍であると結論付けることができます。

しかし、サンプルインプット量に差があることから、これが「真の」倍率変化であると言い切ることはできません。また、これは内在性コントロールが含まれている場合です。ご自身の研究におけるすべてのサンプルにわたり一貫して発現されているコントロール遺伝子を選択し、各条件下でその遺伝子発現レベルを測定して、処理および未処理サンプルの Ct 値がそれぞれ 19.5 および 18.5 だったとします。この場合、コントロールの ΔCt 値も 1 になります。つまり、コントロール(一定の発現レベルを示す)は、目的遺伝子と同じ ΔCt 値を示します。これは、測定された発現レベルの 2 倍差がサンプル中の初期 cDNA 量の 2 倍差によって生じていて、処理には全く関連しないものである可能性を示していると考えられます。

従って、相対遺伝子発現において、発現レベルの変化は、研究対象遺伝子の ΔCt 値と内在性コントロールの ΔCt 値の差:ΔΔCt 値として測定されます。

上記の例において:
ΔΔCt =(28.5-27.5)=(19.5-18.5)= 0

これにより得られた ΔΔCt 値から、この処理により遺伝子発現量に差は生じないと結論付けられます。

では、適切な内在性コントロール遺伝子はどのように選択するのでしょうか?
上記の例において、内在性コントロール遺伝子は すべての研究条件において一定レベル発現されると想定されているため、コントロール遺伝子と処理および未処理サンプルとの発現レベルのあらゆる差は ΔCt 値として測定され、これから ΔΔCt 値が算出されます。信頼できる結果を得るためには、適切なコントロールを選択することが必要です。

内在性コントロール遺伝子は、試験されるすべてのサンプルにおいて発現量が一定であることが必要とされます。すなわち、コントロールは、処理条件、タイムポイントや他の試験条件間でその発現量が変化しないものである必要があります。実際は、発現量の差異がゼロになることは非常に稀で、内在性コントロール遺伝子は最大 0.5 Ct までの Ct 値の小さい差異の検出を可能とします。この範囲の上限における差異の検出は不正確になります。方程式から、0.5 Ct の差は、2^0.5 または 1.41 の倍率変化に等しいことになります。しかし、サンプル間で 2 Ct の差を示すコントロール遺伝子を用いたとすると、これは発現レベルに 4 倍の差があることを示すことになり、この遺伝子はコントロールとして使用することはできません。

内在性コントロールの選択および検証

所定の範囲の条件下であらゆる遺伝子がどのように挙動するのか正確に予測することは不可能です。相対定量 qPCR 実験用の最も適切なコントロール遺伝子を選択する最良の方法は、いくつかの候補遺伝子を選択し、これらの発現レベルを実験条件および処理条件の範囲にわたり測定することです。これらの条件にわたり最も安定的に発現している遺伝子が最も適切なコントロールとなります。

各実験用の理想的なコントロールは関与する細胞や組織のタイプおよび試験される条件の範囲などの多くの変数に依存するため、いくつかの候補遺伝子を評価することがベストプラクティスです。基本的な細胞機能に必要とされるタンパク質をコードする特定のハウスキーピング遺伝子は、疾患状態を含む幅広い細胞タイプおよび条件において、通常構成的なレベルで発現しています。これらのハウスキーピング遺伝子は内在性コントロールの良い候補になり得ることから検討する価値がありますが、β-アクチン(β-Actin)や グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)などの古くから知られる一部のハウスキーピング遺伝子の発現は組織タイプ間でかなり変動します [1]。遺伝子発現研究において、内在性コントロールとしてハウスキーピング遺伝子を使用する前に、その発現変動についてテストすることは必要不可欠です。

タンパク質よりもむしろ、リボソーム RNA(rRNA)分子をコードする遺伝子は、ほぼすべての細胞タイプにおいて安定的に発現されており、内在性コントロール候補になり得ます。

当社では、ヒトや他の真核生物の rRNA 用および内在性コントロールとしてのハウスキーピング遺伝子用の TaqMan 遺伝子発現アッセイを取り揃えています。ヒトサンプルを用いて研究する場合、最初に使用すべきなのはおそらく TaqMan Endogenous Control プレートです。このスタンダード 96 ウェルプレートには、適切なコントロール候補として知られる、32 種類の安定的に発現されるヒト遺伝子がトリプリケートで含まれており、この中から目的のアプリケーションに適切なコントロールが見つかる可能性が高いと考えられます。他の生物種用を含むさらに幅広いアッセイについては、TaqMan Endogenous Control Assays にアクセスし、アッセイ検索ツールにて「Assay Type: ‘Gene Expression’、‘Controls’」および「Species :目的の生物種 または ‘All’」を選択後、'Search' をクリックして検索してください。

候補のコントロール遺伝子を選択したら、目的の研究条件下で安定的に発現する各候補についてテストします。確実に、使用するテスト方法が各ケースにおいて全く同じになるようにします。下記のステップに従うことが推奨されます:

  1. 目的の研究の代表的な実験条件(例:特定の範囲の細胞タイプ、処理条件、タイムポイント)‘を選択します。
  2. 同じ方法を用いて、さまざまなテスト条件にわたりすべてのサンプル由来の RNA を精製します。
  3. RNA を定量し、cDNA 合成に同量の RNA と同じ方法を使用します。
  4. さまざまな実験条件にわたり、少なくともトリプリケートの qPCR 反応にて、同量の各候補コントロール遺伝子由来 cDNA についてテストします。
  5. 選択された条件下で、各コントロール遺伝子において測定された Ct 値の変動を、それらの標準偏差(SD)を測定することにより評価します。

理想的なコントロール遺伝子は、Ct 値の変動が最も少なく、安定的な発現を示すものです。  これは、レプリケートの Ct 値の SD を測定することによって判断されます。最良の候補は、テストしたすべての条件にわたり SD が最も小さい遺伝子となります。

アッセイによって いくつかの変動の少ない候補コントロール遺伝子が判明したら、研究対象の遺伝子とほぼ同等のレベルで発現するコントロール遺伝子を選択します。研究対象の遺伝子とコントロール遺伝子の間に有意な発現差があることは、qPCR による相対遺伝子発現解析において不正確な結果につながる可能性があります。

複数のコントロール?

目的の実験の要件に内因性遺伝子が一つも適合しない可能性もあります。この場合は、二つ以上の遺伝子を併用することで最良の結果が得られます。このアプローチは、文献で十分に立証されています。一つの例は、Schmid らによる さまさまな腎疾患患者の腎生検組織における遺伝子発現に関する研究です [2]。研究者たちは、この組織におけるハウスキーピング遺伝子の調節においてコントロールとして信頼できる遺伝子は一つもないことを認識し、18S rRNA およびサイクロフィリン A を平行して発現させることでより信頼できる結果が得られることを提案しました。興味深いことに、これらの遺伝子のいずれかをコントロールとして用いた、腎組織における遺伝子発現に関する研究は 2 ~ 3 件報告されています。

また、がん組織における遺伝子発現の研究では、複数のコントロールが使用されています。この技術は、腫瘍を遺伝子発現パターンによって定義されるサブタイプに分類するのをサポートし、多くの場合、腫瘍の部位や形態による分類よりも優れた予後予測および治療反応を示します。Lossos らは、11 のハウスキーピング遺伝子のパネルから選択された二つの最適なコントロールを用いた、非ホジキンリンパ腫のさまざまな診断のための qPCR パラメータの最適化に関する論文を発表しました [3]。Ayakannu らによる 子宮内膜がんに関するその後の研究 [4] では、類似しますが拡大された遺伝子パネルから異なる 3 つのコントロール遺伝子が選択されました。

コントロールを選択するのに一つのコントロールですべてに対応できるようなソリューションが存在しないことは、これらのいくつかの例からも明らかです。計画している研究にちょうど一致する文献において信頼できるレポートを見つけることができない場合、対象を拡大して、候補遺伝子の大きなパネルでテストすることが最良の方法です。ヒト研究に関しては、TaqMan™ Array Human Endogenous Control Panel の使用から始めることをお薦めします。


参考文献
  1. Radonic A, Thulke S, Mackay IM et al.(2004) Guideline to reference gene selection for quantitative real-time PCR.Biochem Biophys Res Commun 313(4):856–862. doi: 10.1016/j.bbrc.2003.11.177.
  2. Schmid H, Cohen CF, Henger A et al.(2003) Validation of endogenous controls for gene expression analysis in microdissected human renal biopsies.Kidney Int 64(1):356–360. doi: 10.1046/j.1523-1755.2003.00074.x.
  3. Lossos IS, Czerwinski DK, Wechser MA et al.(2003) Optimization of quantitative real-time RT-PCR parameters for the study of lymphoid malignancies.Leukemia 17(4):789–795. doi: 10.1038/sj.leu.2402880.
  4. Ayakannu T, Taylor AH, Willets JM et al.(2015) Validation of endogenous control reference genes for normalizing gene expression studies in endometrial carcinoma.Mol Hum Reprod 21(9):723–735. doi: 10.1093/molehr/gav033.

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.