はじめに

以下のプロトコルでは、浮遊培養で哺乳類細胞を継代培養する一般的な手順を説明します。  昆虫細胞の継代手順はいくつかの重要なステップが哺乳類細胞の手順とは異なることに注意してください。   詳細については、昆虫細胞の継代に関する注意を参照してください。

ご自身の細胞株を継代するためには、実験に使用している各製品に提供されている指示に厳密に従うことを推奨します。  特定の細胞の種類に必要な培養条件からの逸脱は、異常な表現型の発現や細胞培養の完全な失敗というさまざまな結果を招きます。

浮遊培養の継代
浮遊細胞の継代は接着細胞の継代よりやや単純です。  細胞はすでに増殖培地中で浮遊しているため、培養容器の表面から分離するために酵素で処理する必要はなく、プロセス全体がより迅速で細胞の傷害が少ないです。  浮遊培養では増殖培地の交換は行わず、代わりに細胞がコンフルエントに達するまで 2、3 日ごとに栄養を補給して細胞を維持します。  これは培養フラスコ内の細胞を直接希釈で増殖を継続するか、または培養フラスコから細胞の一部を引き抜き、残りの細胞をその細胞株に適切な播種密度まで希釈することで行うことができます。  通常、継代後の誘導期は接着培養で観察されるものよりも短時間です。

浮遊培養容器
浮遊培養は、組織培養処理されていない無菌培養フラスコ(バッフルのない振とうフラスコなど)で維持できます。ただし、浮遊細胞培養用に特別に設計されたスピナーフラスコ(スターラーボトル)を使用すると優れたガス交換が可能になり、より大量の細胞を培養できます。

スピナーフラスコには2つの基本的設計があります。培地は吊り下げ式撹拌棒または垂直羽根で撹拌され(つまり、かき混ぜられ)ます。  垂直羽根はよりよいエアレーションを提供します。  適切なエアレーションのために、スピナーフラスコ中の総培養量がスピナーの表示容量の半分を超えてはなりません(たとえば、500 mL のスピナーには 250 mL を超える培養液を入れないでください)。

材料

  • 浮遊細胞を含む培養容器
  • バッフルのない振とうフラスコ、またはスピナーボトル(「浮遊培養容器」を参照)
  • あらかじめ37 °C に温めておいた完全増殖培地
  • 37 °C の加湿5% CO2インキュベーター
  • マグネチックスターラー(スピナーフラスコを使用する場合)、ローラーラック(ローラーボトルを使用する場合)、または振とう台(従来の培養フラスコまたは培養皿を使用する場合)
  • 生細胞数および総細胞数を決定するための試薬および機器(例:Invitrogen Countess II FL 自動セルカウンター、トリパンブルー、血球計算盤、Coulter Counter など)

浮遊細胞の継代プロトコル

動画:細胞の継代培養

この動画では、接着培養および浮遊培養で増殖した細胞を継代する理由、時期、方法について説明します。  これには、細胞の剥離、細胞のカウント、最適な播種密度の決定、継代した細胞用の新しい培養容器の準備が含まれます。

細胞と接触するすべての溶液および機器は無菌でなければなりません。
必ず適切な無菌操作を実行し、層流フード内で作業してください。細胞が対数期増殖にあるときに、コンフルエントに達する前に継代を行います。  コンフルエントに達すると、浮遊培養液中の細胞は凝集し、培養フラスコを回すと培地が濁って見えます。  継代前の最大推奨細胞密度は細胞株によって異なります。詳細については、細胞固有の製品添付文書またはマニュアルを参照してください。

振とうフラスコ中で増殖させた細胞
以下のプロトコルは、振とうインキュベーターで振とうフラスコを用いて浮遊培養で増殖した哺乳類細胞を継代する一般的な手順を説明しています。  詳細なプロトコルについては、常に細胞固有の製品添付文書を参照してください。  

 

注:  振とうフラスコにバッフル(撹拌を促進するために設計されたフラスコの底にあるくぼみ)がないことを確認してください。振とうのリズムが損なわれます。

  1. 細胞が継代に適切な状態になったら(すなわち、コンフルエントに達する前の対数増殖期)、インキュベーターからフラスコを取り出し、滅菌ピペットを用いて少量のサンプルを培養フラスコから取り出します。  サンプルを採取する前に細胞が沈降した場合、フラスコを回して細胞を培地中に均一に分散させます。
  2. Countess 自動セルカウンターまたは血球計算盤、セルカウンターおよびトリパンブルー色素排除法を用いて総細胞数および生存率を決定します。
  3. 培地を推奨接種密度まで希釈するために添加する必要がある培地の容量を計算します。
  4. あらかじめ温めておいた適切な容量の増殖培地を無菌的に培養フラスコに加えます。  必要に応じて、培養物を複数のフラスコに分割できます。
  5. 適正なガス交換ができるように、培養フラスコのキャップを 1 回転分緩めて(または通気性キャップを使用)フラスコを振とうインキュベーターに戻します。  振とう速度は細胞株によって異なります。

注:  振とう培養中における細胞片および代謝老廃副産物の蓄積を最小限に抑えるため、3 週間に 1 回(または必要に応じて)細胞懸濁液を 100 x gで 5 ~ 10 分間緩やかに遠心分離し、細胞ペレットを新しい増殖培地に再懸濁させます。

スピナーフラスコ中での細胞増殖
以下のプロトコルで、スピナーフラスコを用いた浮遊培養で哺乳類細胞を継代培養する一般的な手順を説明します。  詳細なプロトコルについては、常に細胞固有の製品添付文書を参照してください。

細胞は物理的なせん断を受けやすいことに注意してください。  撹拌羽根が自由に回転し、容器の壁または底部に接触しないことを確認してください。  培地への適切なエアレーションを確保するために、パドルの上部は培地よりわずかに上にあることが必要です。  パドルが容器の壁と底に接触しないように、スピナー装置を調節してください。  以下の表は、さまざまなスピナーフラスコのサイズに必要な培地の最小容量を示しています。 
スピナーフラスコのサイズ
最小培地容量
100 mL
30 mL
250 mL
80 mL
500 mL
200 mL

500 mLを超えるスピナーフラスコでスピナー培養を開始することはお勧めしません。  すでに確立されている小さいスピナーからスケールアップすることをお勧めします。

  1. 細胞が継代に適切な状態になったら(つまりコンフルエントに達する前の対数増殖期)、フラスコをインキュベーターから取り出し、滅菌ピペットを用いて培養フラスコから少量のサンプルを取り出します。サンプルを採取する前に細胞が沈降した場合は、フラスコを回し、細胞を培地に均一に分散させます。
  2. サンプルからCountess 自動セルカウンターまたは血球計算盤、セルカウンターおよびトリパンブルー色素排除法を用いて総細胞数および生存率を決定します。
  3. 培地を推奨播種密度まで希釈するために添加する必要がある培地の容量を計算します。
  4. あらかじめ温めておいた適切な容量の増殖培地を無菌的に培養フラスコに加えます。必要に応じて、培養物を複数のフラスコに分割できます。
  5. 適正なガス交換が可能になるように、スピナーフラスコのサイドアームのキャップを 1 回転分緩めて、フラスコをインキュベーターに戻します。スピナー速度は細胞株および羽根の種類によって異なります。せん断ストレスによる細胞への損傷を避けるために、スピナー速度は推奨値内に保たれていることを確認してください。

注:  スピナー培養中における細胞片および代謝老廃副産物の蓄積を最小限に抑えるため、3 週間に 1 回(または必要に応じて)細胞懸濁液を 100 x g で 5 ~ 10 分間穏やかに遠心分離し、細胞ペレットを新しい増殖培地に再懸濁させます。

浮遊性の昆虫細胞継代に関する注意

昆虫細胞継代の一般的な手順は哺乳類細胞の場合と同じ手順に従いますが、昆虫細胞培養システムのいくつかの重要な要件が異なります。   最良の結果を得るために、実験に使用している昆虫細胞株に付属している指示に常に従ってください

  • 細胞を浮遊培養する場合、培地を交換する必要はありません。  通常の継代では、細胞懸濁液を取り除き、培養液を適切な密度に(細胞固有の製品添付文書を参照してください)まで希釈するために十分な量の培地を添加する必要があります。  細胞の栄養素を補充するには新しい培地を添加する昼用があります。
  • 昆虫細胞培養では CO2 交換は推奨されません。
  • 昆虫細胞を非加湿環境で27 °C に維持してください。  細胞は実験台上または引き出し内で室温で維持できますが、27 °C で制御された環境をお薦めします。
  • 昆虫細胞の増殖には特別に調整された培地を使用してください。
  • せん断を低減させるために界面活性剤を使用します。昆虫細胞のスピナー培養には 0.1% Invitrogen Pluronic F-68 を推奨します。 Pluronic F-68(BASF)は、撹拌羽根の力による細胞膜のせん断力を低減させる界面活性剤です。

    注:  Sf-900 II SFM および Gibco Express Five SFM は、すでに界面活性剤を含んでいます。

  • 特定の昆虫細胞株では、浮遊培養への適応が必要とする場合があります。詳細については、細胞株固有の製品添付文書またはマニュアルを参照してください。

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.