要旨

第4回では、“RNA cargo(カーゴ)”の精製について説明しました。今回は、miRNA cargoの定量解析について説明します。具体的には、TaqMan® MicroRNA Assaysを用い、リアルタイムPCR解析の方法を紹介します。プロトコールだけでなく、RNAサンプルの取り扱いの注意点や、実験データの解釈についても考察しています


TaqMan® MicroRNA Assaysを用いたリアルタイムPCR解析

本パートの資料は簡易プロトコールです。詳細は下記マニュアルを確認ください。
https://tools.lifetechnologies.com/content/sfs/manuals/cms_042167.pdf

【必要試薬】

【RNAサンプルについての注意】

Total Exosome RNA & Protein Isolation Kitで精製したtotal RNAをスタートサンプルとして使用します。ただしエキソソーム由来のtotal RNA量は非常に微量なので、分光光度計や蛍光光度計による正確な濃度測定は難しいです。
弊社の研究者は、リアルタイムqRT-PCR解析を行う場合、リアルタイムPCRマスターミックスに添加するcDNAをスタートのサンプル量に換算して、検出に適したRNA量を提案しています。
例えばRNA cargo 検出のためにリアルタイムqRT-PCRを行う場合、1反応のあたりのサンプル添加量は、血清では3μL由来のcDNA、細胞上清では30μL由来のcDNA程度を指標とします。
図1に、血清3μL分のcDNA、細胞上清30μL分のcDNAをアッセイに添加するために必要なスタートサンプル量からリアルタイムPCR反応までの工程をまとめました。実験計画を立てる際にご参考ください。

図1.TaqMan® MicroRNA Assaysを用いたリアルタイムPCR解析の実験工程
この流れで実験した場合、血清では約3.3μL分のcDNAを、培養上清では約33μL分のcDNAを1反応当たり添加することになります。


プロトコール

(1) TaqMan® MicroRNA Assays : 逆転写反応

参照PDF:TaqMan® MicroRNA Assays :逆転写反応
注意:TaqMan® MicroRNA AssaysではmRNA発現解析のように、さまざまな遺伝子の発現解析に対応するユニバーサルRT primer 【random primerやoligo(dt) primer】を採用していません。ターゲットmiRNA毎に逆転写反応を行う必要があるので、ご注意ください。
  1. 以下のコンポーネントで凍結されているものは氷中で融解し、穏やかにミックスし、氷中に置きます。
  • TaqMan® MicroRNA Reverse Transcription Kit(製品番号:4366596)
  • 5× RT primer (TaqMan® MicroRNA Assay添付の特異的な RT primer)
  • RNAサンプル
  1. 氷中で5分間インキュベート。サーマルサイクラーにセットする直前まで氷中に置きます。
  1. すぐにリアルタイムPCR反応へ進む場合は、次の“TaqMan® MicroRNA Assays :リアルタイムPCR ”のステップへ進んでください。すぐに次の反応へ進まない場合は、-15~-25℃でcDNAサンプルを保存してください。

(2)TaqMan® MicroRNA Assays : リアルタイムPCR

  1. 以下のコンポーネントで凍結されているものは氷中で融解し、穏やかにミックスし、氷中に置きます。
  • TaqMan® MicroRNA  Assay (x20)
  • cDNA サンプル
  • TaqMan® Universal Master Mix II, no UNG
  1. 1反応あたり反復3(n=3)で反応を行うことをお勧めします:反復サンプルはまとめて1.5mLのチューブで調製し、ミックスします( 室温で調整可能です)。
  1. リアルタイムPCR反応用のプレートに20μLずつ分注し、プレートに専用のシールをします。
  1. すぐにリアルタイムPCR反応へ進む場合は、次の“TaqMan® MicroRNA Assays :リアルタイムPCR ”のステップへ進んでください。すぐに次の反応へ進まない場合は、-15~-25℃でcDNAサンプルを保存してください。

実験結果の考察

1. 定量法について

考察ポイント

  • 適切な内在性コントロールは、まだ特定されていません。
  • スタートサンプル量はどのように揃えるのが適切か?

一般的なリアルタイムPCRを用いた相対定量法では、サンプル量の補正を行うための内在性コントロールが設定されます。しかしエキソソームのRNA cargoの定量解析では、内在性コントロールの候補となる遺伝子がまだ特定されていません。内在性コントロールの設定目的の1つは、比較サンプル間の反応液への持ち込み量の補正です。

そのため弊社では、エキソソームのRNAcargoのリアルタイムPCRによる定量では、スタートサンプル量を揃えて比較する方法を提案しています。

スタートサンプル量については、以下のいずれかを選択するかで相対値が大きくことなってくることが予想されます:

  • エキソソーム濃縮の前のサンプル液量
  • 濃縮後のサンプル中のエキソソーム数 ( Nanosight ®LM10などで測定)

今回、紹介するデータは、エキソソーム濃縮前のサンプル液量を揃え、同様な方法でエキソソーム回収とRNA精製を行い、リアルタイムPCRを実施した場合のCT値をベースにサンプル間のターゲットmiRNAを比較しています。

2. リアルタイム PCRデータについて

考察ポイント

  • CT値はどれくらい?

図2では、図1の流れで調製した血清サンプルでは3µL由来のエキソソーム中のRNA cargo cDNAを、培養上清サンプルでは30μL由来のエキソソームのRNA cargo cDNAを1反応当たりに添加して、リアルタイムにPCRを実施した結果を示しています。

図2では、5種類のmiRNA( miR16, miR24, miR26a, miR451, let7e)のレベルを調べています。これらのmiRNAは初期の論文でエキソソーム中に含まれると報告されたものです(1, 2)。すべてのmiRNAのCT値は25~33程度で確認できており、汎用されている超遠心法(3)と比較して、1~3サイクル程度早く検出されています。Total exosome isolation 試薬シリーズを使うことで、より検出感度の高い解析が行えるため、弊社ではエキソソーム解析はこの試薬を使用しています。
その他の体液のデータについては、第5回(図2)をご参照ください。

図2  HeLa細胞培養上清(a)および血清サンプル(b)から回収したエキソソーム中のmiRNAレベル
スタートサンプル(培地量および血清液量)量を揃え、Total Exosome isolation 試薬、もしくは超遠心法でエキソソームを濃縮処理し、RNA精製はTotal exosome RNA and protein isolation kitで行いました。5種類のmicroRNA(miR16, miR24, miR26a, miR451, let7e)のレベルはTaqMan® microRNA assayで検出しました。CT値が小さいほど、感度が高いことを示しています。

3. ターゲットmiRNAの選択について

考察ポイント

  • 論文 / データベース等の利用

miRNAのレベルを網羅的に解析している論文等(4, 5, 6, 7, 8, 9) を参考に、ターゲットmiRNAを選択する方法もあります。 またこれまでに確認されたエキソソーム由来のmRNA, miRNA, タンパク質をまとめたデータベース(ExoCarta)の情報を基にターゲットを絞り込むことも可能です。RNA cargoについては、情報が十分とは言えませんが、データベースに登録されているmiRNAリストからリファレンスの論文も確認できます。


参考文献

  1. “Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells,” H. Valadi, K. Ekstrom, A. Bossios, M. Sjostrand, J. J. Lee, and J. O. Lotvall  Nature Cell Biology, vol. 9, no. 6, pp. 654–659, 2007.[PubMed]
  2. “ExoCarta 2012: database of exosomal proteins, RNA and lipids,” S. Mathivanan, C. J. Fahner, G. E. Reid, and R. J. Simpson  Nucleic Acids Research, vol. 40, pp. D1241–D1244, 2012.[PubMed]
  3. “Isolation and characterization of exosomes from cell culture supernatants and biological fluids,” C. Thery, S. Amigorena, G. Raposo, and A. Clayton  Current Protocols in Cell Biology, vol. 3, p.3.22, 2006.[PubMed]
  4. “The Complete Exosome Workflow Solution: From Isolation to Characterization of RNA Cargo.”  Jeoffrey Schageman, Emily Zeringer, Mu Li, Tim Barta, Kristi Lea, Jian Gu, Susan Magdaleno, Robert Setterquist, and Alexander V. Vlassov, BioMed Research International. Volume 2013, Article ID 253957, 15[PubMed]
  5. “Microparticles: major transport vehicles for distinct microRNAs in circulation,”  P. Diehl, A. Fricke, L. Sander et al.  Cardiovascular Research, vol. 93, no. 4, pp. 633–644, 2012.[PubMed]
  6. “Deep sequencing of RNA from immune cell-derived vesicles uncovers the selective incorporation of small non-coding RNAbiotypes with potential regulatory functions,” E. N. Nolte-’t Hoen, H. P. Buermans, M. Waasdorp, W. Stoorvogel, M. H. Wauben, and P. A. T. Hoen  Nucleic Acids Research, vol. 40, no. 18, pp. 9272–9285, 2012.[PubMed]
  7. “Analysis of deep sequencing microRNA expression profile from human embryonic stem cells derived mesenchymal stem cells reveals possible role of let-7 microRNA family in downstream targeting of hepatic nuclear factor 4 alpha,”  W. Koh, C. T. Sheng, B. Tan et al.  BMC Genomics, vol. 11, no. 1, article S6, 2010.[PubMed]
  8. “Human villous trophoblasts express and secrete placenta-specific microRNAs into maternal circulation via exosomes,”  S. S. Luo, O. Ishibashi, G. Ishikawa et al.  Biology of Reproduction, vol. 81, no. 4, pp. 717–729, 2009.[PubMed]
  9. “Immune-related microRNAs are abundant in breast milk exosomes,”  Q. Zhou, M. Li, X. Wang et al.  International Journal of Biological Sciences, vol. 8, no. 1, pp. 118–123, 2011.[PubMed]

本パートで使用した製品一覧