要旨

前回は、精製した“RNA cargo(カーゴ)”中のマイクロRNA(miRNA)の定量解析について説明しました。今回は、カーゴ中のmRNA cargoの定量解析について説明します。具体的にはTaqMan® Gene Expression Assaysを用い、リアルタイムPCR解析について紹介します。


【RNAサンプルについての注意】

第4話のmiRNAの解析と同様に、Total Exosome RNA & Protein Isolation 試薬で精製したtotal RNAは非常に微量なので、分光光度計や蛍光光度計で正確に濃度測定することが困難です。ですからリアルタイムqRT-PCR解析を行う場合、弊社ではリアルタイムPCRマスターミックスに添加するcDNAをスタートのサンプル量に換算して、検出に適したRNA量とすることを提案しています。
またmRNAの解析は、miRNAと異なり、逆転写反応はユニバーサルプライマーを使用します。合成したcDNAは、さまざまな遺伝子解析のテンプレートとして利用できます。
逆転写反応を行う時の注意点は、エキソソーム由来のRNA cargoは分解が進んでいると予想されることです。分解産物も効率良く解析できるように、RT プライマーはランダムプライマーを選択してください。mRNAの3’末端のpoly(A)を標的としたOligo(dt)プライマーを逆転転写反応に使うと検出効率が低くなることが予想されます。ですからここで採用しているHigh Capacity cDNA Reverse Transcription kit は、ランダムヘキサマーを使います。

またTaqMan® Gene Expression Assayの選択も、mRNA分解に配慮した選択をお勧めします。分解産物由来のcDNAも効率よく検出できるようにTaqMan® Gene Expression Assayのアンプリコンは100bp以下のサイズを選択してください。より感度よく検出できます。尚、TaqMan® Gene Expression AssayのアンプリコンサイズはAssay検索ページからご購入前に確認できます。

図1.mRNAを標的としたリアルタイムqRT-PCR解析の反応ワークフロー
このワークフローで調製すると、血清では約10 µL分のcDNA、培養上清では約100µL分のcDNAが1反応当たりに添加されます。


プロトコール

(1) High Capacity cDNA Reverse Transcription kit を用いた逆転写反応

  1. High Capacity cDNA Reverse Transcription kit のコンポーネントを氷中で融解し、穏やかにミックスし、氷中に置きます。
  1. サーマルサイクラーにセットする直前まで氷中に置きます。
  1. すぐにリアルタイムPCR反応へ進む場合は、次の“TaqMan® Gene Expression Assay :リアルタイムPCR ”のステップへ進んでください。
    すぐに進まない場合は、以下の条件で保存します:
    • 短期保存(24時間まで): 2~6℃
    • 長期保存:         -15~-25℃



(2)TaqMan® Gene Expression Assays : リアルタイムPCR

  1. 以下のコンポーネントで凍結されているものは氷中で融解し、穏やかにミックスし、氷中に置きます。
  • TaqMan® Gene Expression Assay(×20)
  • cDNA サンプル
  • TaqMan® Universal Master Mix II, no UNG
    注: TaqMan® Fast Advanced Master Mix, TaqMan® Universal Master Mix II, with UNG, TaqMan® Gene Expression Master Mixも使えます。(使用する場合は、各試薬のマニュアルをご確認ください。)
  1. リアルタイムPCR反応用のプレートに20μLずつ分注し、プレートに専用のシールをします。

実験結果の考察

1. 定量法について

考察ポイント

  • 適切な内在性コントロールは特定されていません
  • スタートサンプル量はどのように揃えるのが適切か?

miRNA解析と同様にエキソソームのRNA cargoの定量解析では、内在性コントロールの候補となる遺伝子はまだ特定されていません。スタート量の補正については、第4話「Ⅱ. miRNA cargoの定量解析」の実験の考察ポイントをご参照ください。

2. リアルタイム PCRデータについて

考察ポイント

  • CT値はどれくらい?

図1のワークフローでは、血清は約10 µL分のcDNA、培養上清は約100µL分のcDNAを1反応当たりに添加するモデル系として提案しました。しかし図 2では、miRNAレベルと比較できるように、スタートサンプル量をmiRNAの推奨量で揃えています。また図2では、培養細胞上清 および 血清サンプルでは、GAPDHおよび18S-rRNAのレベルをCT値で示しています。その他の体液サンプルのデータについては、mRNAはGAPDHおよびACTBをベースに確認をしていますが、一部のサンプルでは発現が確認されたmRNAも追加しています。
図2の結果より、Total exosome isolation reagentシリーズで調製したエキソソームから定量したmRNAは、超遠心法よりも数サイクル早く検出されています。この試薬法を使うことで検出感度が高い解析が行えることが示されました。

図2 さまざまなサンプルから回収したエキソソーム中のmRNAおよびmiRNAのレベル :
スタートのサンプル量を揃え、Total Exosome isolation 試薬(Reagent)、もしくは 超遠心法(Ultra)でエキソソームを濃縮しました。RNA精製はTotal exosome RNA and protein isolation kitで行い、 TaqMan® Assayで測定したCT値をmiRNAおよびmRNAのレベルとして縦軸に、棒グラフにまとめました。


本パートで使用した製品一覧