Viral Proteomics Metabolomics Mass Spectrometry

ウイルス研究用の最新の質量分析ツールおよびワークフロー

ウイルス研究者は、ウイルス自体だけでなく、宿主細胞との相互作用、宿主の免疫、およびウイルスの細胞機構を研究対象としています。プロテオミクス、グリコミクス、メタボロミクスなどの質量分析(MS)技術は、ウイルスについての理解の深化に貢献します。これらの手法は、ウイルスと宿主細胞との相互作用、免疫系の反応、およびウイルス系のライフサイクルを通じた機能を把握するのに役立ちます。このようなウイルス研究を行うには、いくつかの補完的な質量分析技術を統合する必要があります。

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重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によるパンデミックとCOVID-19によるヒトの健康への累積的な影響は、出現ウイルスを速やかに理解するための迅速かつ効果的な能力を維持しておく必要性を示す、グローバルなケーススタディとなりました。当社のプロテオミクス、グリコミクス、メタボロミクスのMSワークフローは、完全なウイルス粒子、それらの表面、結合特性、タンパク質組成、および感染時の宿主細胞の生化学的経路への影響を研究する、複数のアプローチをウイルス研究者に提供します。質量分析を用いたウイルス研究は、ウイルスの構造と機能に関する詳細な知見の取得に貢献するものであり、その成果はCOVID-19などの新種ウイルスやそれらに起因する感染症の理解に寄与し、ヒトの健康に対する影響を軽減する活動の促進にもつながります。

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ウイルスの構造

ウイルスの機能、およびCOVID-19などの病原性ウイルスと宿主細胞との相互作用を理解するには、ウイルス構造を構成しているすべての成分を特定することが不可欠です。


ウイルスの構造と質量分析のワークフロー

ウイルスエンベロープ表面は、糖タンパク質というタンパク質で覆われており、これらはウイルス侵入時の宿主細胞への結合プロセスに関係しています。こうしたタンパク質のグリカン構造の多様性が、ウイルスによる免疫系反応の回避に利用されているのです。表面グリカンの配座には柔軟性があり、ウイルスはこうした構造動力学を利用することで、薬剤結合部位を遮蔽しています。グリコシル化のタイプや、ウイルス表面の糖タンパク質上でグリコシル化が生じる部位(サイト占有率)の詳細を把握するのに使用できるのが、グライコプロテオミクス戦略です。グライコプロテオミクスからは、グリコシル化の部位およびグリカンの組成に関する情報が提供されます。グリコペプチドのワークフローには、サンプルの調製と濃縮、質量分析、データ分析、および解釈が含まれます。以下は推奨製品を簡単にまとめたリストですが、グリコペプチド分析関連のより詳細な製品情報とリソースについては、当社のタンパク質グリコシル化ワークフローのページでご確認ください。

Glycopeptide workflow

推奨製品


グリコミクスはグライコプロテオミクスを拡張し、グリカンのより詳細な調査を可能にします。グリコミクスでは、グリカンの分岐や結合などの構造に関する情報が得られ、構造異性体の解明に役立ちます。グリコミクスのワークフローには、脱グリコシル化、単離、質量分析、および強力なソフトウェアを使用したグリカン同定が含まれます。

Glycomics  workflow

推奨製品

ネイティブ質量分析では、溶液条件の平均化されていない情報を取得できるため、異なるプロテオフォーム(ディファレンシャルグリコシルなど)の同時検出が可能です。ネイティブ質量分析はまた、ウイルスカプシドの探査、カーゴカプセル化の定量、カプシドアセンブリのモニタリングにも有用なツールです。ネイティブ質量分析とトップダウンMSを組み合わせることにより、カプシドのタンパク質構造の特性評価が可能になります。

Native mass spectrometry workflow

推奨製品

構造ウイルス学は、ウイルスのゲノム情報をカプセル化するタンパク質カプシドの構造およびその安定構造の基礎について理解することを主眼としています。HDX-MSを用いると、局所的な構造動力学を測定し、ウイルスのアセンブリおよびカプシドの成熟メカニズムを把握できます。

Hydrogen Deuterium Exchange Mass Spectrometry (HDX-MS) workflow

病原体生物学

ウイルスと宿主との相互作用(ウイルス-宿主細胞間相互作用)に対する理解を深め、ラボの迅速な対応能力を維持します。ウイルス感染の各段階で重要となる相互作用に関する情報の取得や、感染時にウイルスタンパク質の標的となる宿主タンパク質の特定には、そのための研究が不可欠です。こうした研究は、ウイルスのライフサイクルの進行や、宿主の防御の阻害に関与しているメカニズムの理解に役立ちます。


ウイルス-宿主細胞間相互作用の質量分析ワークフロー

ウイルス-宿主間相互作用の研究は、ウイルス感染の各段階において重要となるタンパク質相互作用を特定することを主眼としています。AP-MSワークフローを用いると、タンパク質複合体内での特定のタンパク質間相互作用の調査、あるいはタンパク質複合体のインターアクトームレベルでのよりグローバルな観察が行えます。定量MS(LFQ、TMT)とアフィニティー精製を組み合わせると、さまざまな条件下(ウイルス感染の各段階)でのタンパク質間相互作用の調査が可能になり、より動的な知見が得られます。AP-MSは、翻訳後修飾(PTM)の調査や、それらがタンパク質間相互作用の促進に果たす役割の検証にも使用できます。

Affinity Purification MS (AP-MS) workflow

推奨製品

ウイルス-宿主細胞タンパク質複合体に関する、サブユニット化学量論、サブユニットの同定、生体分子結合、タンパク質複合体トポロジー、タンパク質動力学などの知見は、ネイティブ質量分析によって得ることが可能です。限定加水分解などの手法と組み合わせてネイティブ質量分析の機能を拡張すれば、タンパク質の相互作用を推測することも可能となります。

Native mass spectrometry workflow

推奨製品

ウイルス-宿主細胞タンパク質間相互作用は、ウイルスのタンパク質と宿主細胞の受容体の間で起こる分子間相互作用です。問題は、これらの相互作用は一過的な傾向があり、短時間で生じる現象だということです。クロスリンキングMS(XL-MS)は、一過性相互作用のモニタリングを可能とし、直接および間接的なタンパク質間相互作用の識別を支援します。XL-MSは、相互作用に関係する宿主細胞表面タンパク質の同定に役立ち、ウイルス-宿主細胞タンパク質間のタンパク質相互作用のトポロジー検証、ウイルス-宿主間の相互作用部位のマッピング、結合に関与する残基の正確なマッピングに使用できます。XL-MSは、宿主細胞の相互作用に関与するタンパク質の構造や複合体の解明に有用です。

Crosslinking MS workflow

推奨製品

ウイルス-宿主細胞間相互作用は、静的ではなく動的なプロセスです。こうした動的プロセスの観察は、TMTなどの定量的手法を用いて行うことができます。AP-MSやXL-MSの一部としてTMTワークフローを用いることで、ウイルス感染時に進行するタンパク質間相互作用を探査し、結合親和性や相互作用のレベル変化を測定できます。TMT定量のワークフローは、相対定量プロテオミクス分析のための多重化機能を提供するもので、細胞、組織、生体液から取得される複数サンプルの同時MS分析を可能にします。

TMT quantitation workflow

推奨製品


宿主免疫反応

宿主免疫、免疫系反応、ウイルス感染防御機構などの重要な免疫マーカーを検出するには、包括的な製品ポートフォリオとカスタムオプションが必要です。免疫系はウイルス感染に対する防御システムです。ウイルスの複製や増殖を抑制しウイルス疾患の症状を軽減する治療法の開発には、ウイルスへの免疫応答における分子の特性評価研究が必要です。

宿主免疫系のライフサイクル

Lifecyle of the host immune system

宿主免疫反応における質量分析ワークフロー

ペプチド抗原は、主要組織適合性複合体(MHC)によってコード化された分子と結合することで、細胞表面にTリンパ球の標的を形成します。これは適応免疫系の重要なアームであり、ウイルス感染細胞の根絶や抗体の産生を容易にする役割を担っています。新規ワクチンの開発には、これらのペプチド抗原の同定が不可欠です。ボトムアッププロテオミクスのワークフローはプロテオミクスの中心的存在であり、生体サンプルから可能な限り多くのタンパク質成分を同定するために使用されています。

Bottom-up proteomics workflow

推奨製品

定量的プロテオミクスは、ウイルス感染により誘発される特徴的な免疫応答プロファイルの特定に役立ちます。これは、免疫応答タンパク質の特性評価、およびウイルス感染反応における免疫系経路の特定によって実現されます。定量的プロテオミクスのワークフローは、タンパク質の発見から標的アプリケーションに至るシステム全体において、タンパク質の同定と定量を可能とします。動力学や知見に基づいた複数の条件下において、単一の実験で多数のタンパク質の検出と定量ができるため、生物学的プロセスの挙動のより深い理解につながります。


これらのワークフローは、相対定量プロテオミクス分析のための多重化機能を提供し、細胞、組織、生体液から取得される複数サンプルの同時MS分析を可能にします。

TMT quantitation workflow

推奨製品


これらのワークフローでは、標識化および非標識サンプルの両者に対応した手法を用いることで、複雑なタンパク質サンプルの相対的変化の識別と定量を行うことができます。また、リン酸化やグリコシル化などの翻訳後修飾および少量タンパク質における変化を検出することもできます。

SILAC quantitation workflow

推奨製品


これらのワークフローでは、無制限のサンプル比較による任意の起源からのタンパク質サンプルの相対的定量、および任意の断片化法によるペプチド同定が可能です。

Label-free quantitation workflow

推奨製品

これらのワークフローでは、単一の協調的な高分解能精密質量(HRAM)分析を使用して、すべての標的生成イオンを同時に検出できます。多数のサンプルの分析と定量に特に適しています。

HRAM protein quantitation with parallel reaction monitoring (PRM) workflow

推奨製品


これらのワークフローでは、トリプル四重極質量分析計を用いて、よりルーチン的な多数のサンプルのターゲット定量と分析を行います。

Targeted quantitation with selected reaction monitoring (SRM) workflow

推奨製品


SureQuant ISのターゲット定量ワークフローは、複雑なマトリックス中の多数の標的ペプチドに対する、サンプル調製からモニタリングと定量までの完全なアッセイを提供します。セットアップは簡単で、選択性が高く、精度、正確性、特異性に優れた定量が行えます。

リン酸化やポリユビキチン化などのPTMは、感染による先天性炎症反応の調節を行っています。また、メチル化、アセチル化、SUMO化、スクシニル化などのPTMが先天性免疫や炎症の調節に関与していることも各種の研究で示されています。MSは、こうしたPTMの特性評価に使用できます。リン酸化プロテオミクス(翻訳後修飾PTM)のワークフローは、タンパク質リン酸化およびリンペプチドの大規模研究を可能とし、生物学的プロセスやヒトの健康に重要な影響を及ぼすPTMについての科学的理解を深化させます。

Posttranslational modification (PTM) workflow

推奨製品

代謝物についての質量分析による特性評価と定量からは、免疫系の機能に関する重要な知見が得られます。


非標的メタボロミクスでの構造解明

これらのワークフローは、低分子の同定用に設計されたもので、非常に複雑なメタボロミクスの課題を解決できます。

Structure elucidation in untargeted metabolomics workflow

推奨製品


半標的メタボロミクス

これらのワークフローでは、目的とする代謝物の検出および未知の物質の特定を同時に行うことができます。

Semi-targeted metabolomics workflow

推奨製品


トランスレーショナルリサーチ

トランスレーショナルプロテオミクスにおける質量分析の利用は、大規模研究の標準化および対応の迅速化と再現性の確保に寄与します。これらは臨床的に意義のある有望なタンパク質バイオマーカーの発見につながる可能性を秘めており、疾病の診断、検出ツール、検査、治療、および処置の開発を通じてヒトの健康を増進させることができます。

Translational research

定量的プロテオミクスの手法は、軽度から重度への疾患進行の識別と予測を可能にするもので、初期段階での適切な治療法とリソース開発を支援することで死亡率と生存率に大きな影響を与える可能性を秘めています。

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代謝物についての質量分析による特性評価と定量からは、免疫系の機能に関する重要な知見が得られます。


非標的メタボロミクスでの構造解明

これらのワークフローは、低分子の同定用に設計されたもので、非常に複雑なメタボロミクスの課題を解決できます。

Structure elucidation in untargeted metabolomics workflow

推奨製品


半標的メタボロミクス

これらのワークフローでは、目的とする代謝物の検出および未知の物質の特定を同時に行うことができます。

Semi-targeted metabolomics workflow

推奨製品


ウイルス検出

従来のRT-PCRベースの手法を代替ないし補完する検査アッセイの研究開発をサポートすることで、検査のキャパシティー不足や必要な検査用消耗品の供給不足に対応します。

Virus detection workflow

プロテオミクス質量分析のアプリケーションとワークフローを使用することにより、大量のサンプルセット中に存在する目的のウイルスタンパク質に固有なペプチドの相対的および絶対的量を決定し、その後ターゲット定量分析用の選択をすることで、単一の実験で多数のターゲットをプロファイリングできます。

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