特異的抗体プローブの産生は、動物の免疫化に関係する比較的直接的なプロセスで、注入された分子に対して抗体が生合成される免疫システムを利用しています。しかしながら、有効量の標的特異的抗体を生成する免疫動物が誘導される確率は、いくつかの要因がカギを握っています。抗原の調製および調達は、動物による特異的免疫応答を最大限にできるような形態・方法で行う必要があります。このプロセスは、「免疫原調製」と呼ばれます。


はじめに

抗体産生の概念はシンプルです。しかしながら、抗体産生は非常に複雑な生体システム(生体免疫)に依存するため、完全に結果を予測することは不可能です。個々の動物(遺伝的同一性の動物も含む)は、同じ免疫計画に対してそれぞれ独自に応答し、注入抗原に対して種々一連の特異的抗体を産出します。その一方で、注入異物に対する免疫系応答方式の基本原理を理解して、注入サンプル調製に利用できるツールを把握することにより、研究者は有用な抗体生成物を一段と得やすくなります。

例えば、低分子化合物(薬物またはペプチド)自体は、十分な複雑性を備えていないため、免疫応答を誘発できず、また特異的抗体を産生させる方法で処理できません。小さい抗原を用いて抗体産生を行うには、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などのキャリアタンパク質へ抗原を化学結合させる必要があります。アジュバントを混合して免疫原を注入することで、免疫応答強度を高めることができます。

キャリアタンパク質結合、アジュバントの使用法、および注入サンプル調製に関するその他の課題については、このセクションの抗体産生に関する項目で説明します。抗原特異的プローブとして使用するための抗体を産生、精製および修飾する手法は、1970 年代から 1980 年代に開発されました。そして、今日では著名な"抗体: 実験室マニュアル"(Harlow 氏、Lane 氏による共著) が 1988 年に出版されて以来、基本的にこの手法は変更されていません。

抗体の産生および精製に関するガイド

最新の Antibody Production and Purification Technical Handbook は、抗体を扱うあらゆる研究室にとって不可欠なリソースです。本ハンドブックは、抗体の構造およびタイプに関する概論、ならびに抗体の産生、精製、断片化および標識に使用される手法、試薬およびツールに関する技術情報を提供します。

抗体の産生および精製に関するガイド


免疫系

免疫系は、外来侵入物から宿主を保護する役割を果たす監視システムです。この監視を媒介するタンパク質および細胞は、生物体全体を循環して、外来性の細胞やウイルスまたは高分子を特定し破壊します。

免疫防御は、細胞性免疫応答および体液性免疫応答による二重方式で達成されます。細胞性免疫応答は、T リンパ球に媒介され、血清の輸血によってある個体から別の個体に移入することはできません。体液性免疫は血清 (抗体) 中の可溶性タンパク質 (抗体) に関係しており、血清輸血時にレシピエントに移入できます。

脊椎動物中の細胞はいずれも、細胞膜上にクラスI主要組織適合性複合体 (MHC I) を発現します。MHC I は、細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) に内因的に誘導されたペプチド抗原を提示します。CTL の T 細胞受容体が細胞上の MHC I/ペプチド抗原に結合すると、全細胞が破壊されます。これは、ウイルスまたは細菌 (非自己型) および癌細胞 (改変自己細胞) などの細胞内病原体を標的とする細胞性免疫応答について一般的に言えます。

体液性応答は、細胞外抗原を標的とします。B リンパ球は、膜 IgM (mIgM) を用いて、その天然形態で抗原へ結合します。多数の mIgM と抗原分子の架橋が発生 (キャップ形成) した後、複合体は受容体媒介性エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれます。このエンドソームがリソソームと融合して得られるエンドリソソームは、抗原を小ペプチドにまで消化します。エンドリソソームは、クラスII の主要組織適合遺伝子複合体 (MHC II) 分子を含有する小胞と融合し、ペプチド抗原は MHC II 中の間隙に結合されます。この MHC II/抗原複合体は、B リンパ球の細胞膜上に発現されます。その後、ヘルパー T リンパ球のT細胞受容体は MHC II/抗原と結合します。T 細胞はサイトカインを分泌します。サイトカインは B リンパ球にシグナル伝達し、抗体を分裂、分化および分泌させます。ヘルパー T 細胞が存在しないと、体液性応答は停止します; 実際、AIDS と同様に細胞応答も停止します。


免疫原性

抗原および免疫原の定義

ヘルパー T リンパ球に対して抗原を結合・処理・提示する B リンパ球は、抗体生成を達成させる上で重要な要素となります;ヘルパー T リンパ球は B 細胞にシグナル伝達し抗体を産生、分泌させます。抗原とは、免疫系成分によって非自己として認識される分子です。免疫原とは、体液性応答を介した抗体産生を含む、免疫応答を誘発する能力のある抗原です。全ての免疫原は抗原である一方、抗原の全てが免疫原であるわけではありません。化合物の多くは免疫原性ではないため、"抗原"および"免疫原"の用語をそれぞれ区別することが重要です。このような抗原に対する抗体産生を達成するには、抗原を注入する前に既知の免疫原性に化学結合させて、抗原を免疫原性化させておく必要があります。

免疫原性を決定する特性 

免疫原性とは、分子による免疫応答の誘発能力を指します物質が免疫原性を持つためには、異質性、高分子量および化学的複雑性の 3 つの特性が必要です。免疫動物がその物質を"自己"として認識し無視することがないためには、異質性が求められます。一般的に、生物由来の化合物は、同一個体に対する免疫原性はなく、同種または関連種の別個体に対してわずかな免疫原性があるばかりです。

免疫原性の第2の要件は、高分子量です。ペニシリン、プロゲステロン、アスピリンなどの低分子化合物 (分子量1000未満) 、ならびに多くの中サイズの分子 (分子量 1,000~6,000) は、免疫原性がありません。分子量 6,000 以上の化合物の大半は、免疫原性があります。これより小さい化合物は、通常 B リンパ球の表面上の mIgM によって結合され得ますが、サイズが小さすぎるため mIgM 分子の架橋を促進することはできません。この架橋は、一般に"キャップ形成"と呼ばれ、抗原の受容体媒介性エンドサイトーシスのシグナルとなります。

第 3 の要件として、化合物が免疫原性を持つためには、ある程度の化学的複雑性が必要とされます。例えば、アミノ酸および単純多糖類の高分子量ホモポリマーでさえ、免疫応答を生成するのに必要な化学的複雑性がないため、優れた免疫原となることはほとんどありません。

免疫原としての高分子 

高分子の主要 4 クラス (炭水化物、脂質、核酸、タンパク質) の免疫原性に関しては、ある程度の一般原則があります。炭水化物は、比較的複雑性の高い多糖構造を有するか、糖タンパク質など、より複雑な分子部分を形成する構造を持つ場合に限り、免疫原性があります。脂質は、通常免疫原性がありませんが、キャリアタンパク質へ結合させることにより免疫原性化できます。同様に、核酸は免疫原性が非常に低いですが、キャリアタンパク質に結合されると免疫原性化されます。

タンパク質は、その特有の構造の複雑性とサイズが要因で、一般に強力な免疫原となります。天然免疫原の大半はタンパク質、炭水化物、またはこれら2つの組み合わせからなる高分子であることを考えれば、タンパク質が非常に広範囲に免疫原性であるのは当然と言えます。ペプチドは抗原性に必要な複雑さはあるかもしれませんが、サイズが小さいため免疫原としての効力は通常ありません。ペプチドは、多くの場合、抗体の免疫応答と産生を確実に誘発させるためにキャリアタンパク質と結合させます。

ハプテンとエピトープの比較

抗原として使用されるペプチドや他の小分子は、ハプテンと呼ばれます。これらは特異的抗体の産生において認識部位として作用し得ますが、これら単独では必要な免疫応答を刺激することができません。ハプテンは、適正なキャリア分子へ結合させることにより、免疫原性化されます。

エピトープは、抗体が結合する抗原上の特定部位です。微細な抗原については、化学構造全体が実質的に単一エピトープとして作用することがあります。抗原は、それぞれの複雑性とサイズに応じて、多数のエピトープを標的とした抗体産生に影響を及ぼすことがあります。ポリクローナル抗体は、血清免疫グロブリンの混合物であり、抗原上の多数のエピトープへ集団的に結合する傾向があります。モノクローナル抗体は、定義上、単一の抗体クローンのみを指し、一つの特定エピトープに対して結合特異性を有しています。

化合物が免疫原性形態で免疫系へ提示される限り、十分な独自性を備えたあらゆる構造 (天然または合成問わず) に対して特異的抗体を生成できます。得られた抗体は、全分子 (例: 小ハプテン) からなる、特に、より大きな分子の特定官能基; タンパク質三次構造中の各アミノ酸官能基の独自配列; リポタンパク質、糖タンパク質、RNA、DNA や多糖類における独自構造からなるエピトープに結合します。また、エピトープは細胞構造、細菌、真菌またはウイルスの一部である場合があります。


キャリアタンパク質

免疫原調製用キャリアタンパク質

キャリアタンパク質とは、サイズや複雑性が十分でないため免疫応答を誘導して抗体を産生できないペプチドなどのハプテンを抗体産生に使用する場合に、ハプテンに結合させるタンパク質です。キャリアタンパク質は、サイズが大きく複雑性を備えているため、結合したハプテンに免疫原性を与え、ハプテン上およびキャリア上のエピトープに対して抗体が産生されます。さまざまなタンパク質がキャリアとして使用可能であり、その免疫原性や溶解性、さらにハプテンとの結合に利用可能な官能基の利用可能性に基づきタンパク質を選択します。最もよく使用される2つのキャリアタンパク質としては、キーホールリンペットヘモシアニン (KLH) とウシ血清アルブミン (BSA) が挙げられます。

通常の免疫応答では、抗体は B リンパ球によって産生されます。ハプテン-キャリアシステムの大半で、B 細胞はハプテンおよびキャリアのいずれにも特異的な抗体を産生します。抗体応答は、キャリアタンパク質上およびハプテン上の両エピトープに対して起こるため、最終免疫化された血清からハプテン特異的抗体を同定および精製するプロセスについて入念に計画する必要があります。最良の免疫原を作製するには、ハプテン-キャリア結合比の範囲内で数種類のキャリアとの結合体を調製するとよいでしょう。

キーホールリンペットヘモシアニン (KLH)

キーホールリンペットヘモシアニン (KLH) は、最も一般的に使用されているキャリアタンパク質です。銅含有ポリペプチドは、節足動物や軟体動物中に見られるヘモシアニンと呼ばれる非ヘムタンパク質群に属します。KLHはキーホールリンペット (Megathura crenulata) から単離されています。

KLH は、哺乳類から進化的に離れたタンパク質クラスや生物群に由来するため、抗体の産生に通常使用される動物系にとっては非常に"外来性"が高くなります。このタンパク質は、非常に大きなサイズと複雑な構造性を備えているため、高い免疫原性があります。分子は、350 kDa および 390 kDa のサブユニットから構成され、これらのサブユニットが会合して 0.5~800 万ダルトンの凝集体が形成されます。

各 KLH タンパク質分子に含まれる数百の表面リジン基は、さまざまな架橋法を用いるハプテンとの共有結合の標的として第一級アミンを供給します。これらの特徴により、KLH は免疫原性が極めて高く、免疫原調製に有効なキャリアタンパク質となります。大きなタンパク質は溶解度が限られているため、扱いにくい場合がありますが、市販の安定化済み・活性化済みの製剤は利用しやすくなっています。

Thermo Scientific Imject Mariculture Keyhole Limpet Hemocyanin (mcKLH) は、精製済み形態で、安定化バッファー中で凍結乾燥されています。再構成後の懸濁液は、高度に精製済みの非変性KLH特有の、乳白色ブルーを呈しています。

従来、KLH は、自然環境から直接採取した巨大なキーホールリンペットから取得されていました。この取得方法では、キーホールリンペットが生息する繊細な海岸生態系が乱されます。現在のKLH取得法では、自然生息地やリンペット種の生存が脅かされる事態はほぼ発生しません。巨大なキーホールリンペットはタンク内で養殖され、回収されます (海洋養殖)。ヒトにおける献血と同様に、時折体液の適量が搾取されます。

Blue Carrier* Immunogenic Protein

Blue Carrier* Proteinは、 Concholepas concholepas ヘモシアニン (CCH) の精製調製物です。大きなタンパク質は、代表的なキャリアタンパク質である、キーホールリンペットヘモシアニン (KLH) とほぼ同じ免疫原性特性を示します。しかしながら、その明らかに優れた水溶性により、ペプチド、タンパク質および他のハプテンを架橋法により結合させるためのバッファーや pH 条件がより広くなるため、免疫原調製プロトコルの柔軟性がさらに高まります。

Blue Carrier Protein は、軟体動物  Concholepas concholepas の成分から特別に精製されたヘモシアニンです。CCH タンパク質は、二つの巨大なポリペプチドのサブユニット (404および351kDa) から構成され、二価陽イオンが存在しない場合でさえ、二価カチオンの非存在下でも安定性の非常に高いヘテロ二構造を形成します。(対照的に、KLH は安定性と可溶性の低いホモ二量体構造を持っています)。CCH サブユニットの複雑な分子配列には、T/B リンパ球に媒介される強力な免疫反応を誘発する、さまざまな反復する抗原構造が含まれています。

KLH および CCH ヘモシアニンは、その大きさと分子の複雑性から、ハプテンやペプチドに対する抗体を産生するための免疫原として用いるキャリアタンパク質に推奨されます。さらに、いくつかの研究により、動物と人間に含まれるヘモシアニンに誘発される強力な DTH 免疫応答が、ある種のがんに良好な治療効果を持つことが示唆されています。がんの免疫療法における新しい展開により、新興疾患の治療に使用する新しいコンジュゲートワクチンの開発において、ヘモシアニンのユニークな免疫特性が活用されるようになりました。

キャリアタンパク質としてウシ血清アルブミン

ウシ血清アルブミン (BSA;67 kDa) は、アルブミンと呼ばれる血清タンパク質クラスに属します。アルブミンは、血漿中のタンパク質含有量の約半分を構成し、安定性および可用性が非常に高いです。BSA は、KLH よりはるかに小サイズでありながら、十分な免疫原性があります。これは、弱い抗原性化合物のための一般的なキャリアタンパク質です。BSA は、59 個のリジン残基を有する単一ポリペプチドとして存在し、これらの残基のうち30~35個は、結合試薬と反応可能な第一級アミンを有します。多数のカルボキシレート基により、BSA に正味負電荷 (PI 5.1) が与えられます。Thermo Scientific Imject BSA は、高度に精製された (すなわち、フラクションV) ウシ血清アルブミンであり、再構成された後に、透析や追加の精製なしでハプテンへの結合に使用できます。

BSA は、イムノアッセイ開発に一般的に使用されています。その理由には、BSA は入手しやすく、完全に可溶性であり、小分子への架橋 (架橋以外の方法では、ポリスチレンマイクロプレートへ有効にコーティングされない小分子) に有用な多数の官能基を有している点などが挙げられます。さらに、BSA は、タンパク質アッセイの最も一般的な標準試薬で、SDS-PAGE において分子量マーカーとして十分に確立され、ブロッキング剤として広く使用されています。イムノアッセイの開発に使い易いというこの BSA の特徴はまた、キャリア-ハプテン複合体の調製や結合効率テストにおいても BSA を使用し易くします。しかしながら、このように BSA を多重に使用するには、抗体スクリーニング手順と最終アプリケーションにおいて、キャリアとの望ましくない交差反応を避ける手順をとる必要もあります。

このため、一般的にハプテンに対する免疫応答を生成するキャリアタンパク質として KLH を用いた後に、抗体のスクリーニングやイムノアッセイで非関連タンパク質キャリアとして BSA が使用されます。キャリア特異的抗体ではなくハプテン特異的抗体を確実に検出するには、免疫化工程とスクリーニング (または精製) 工程それぞれにおいて別々のキャリアタンパク質を使用しなければなりません。BSA を非関連キャリアタンパク質として使用すると、一般的に標準 MW マーカーとブロッキング剤としての特性を最大限に有効活用できます。

カチオン化 BSA

カチオン化ウシ血清アルブミン (cBSA) を調製するには、ネイティブ BSA を過剰エチレンジアミンで修飾し、基本的に全ての負荷電カルボキシル基を正荷電第一級アミンでキャッピングします。その結果、ネイティブ BSA よりも免疫原性の著しく向上した、高正荷電のタンパク質 (pI>11) が得られます。また、第一級アミンの数が増加すると、一般的な架橋法でさらに多数の抗原分子を結合させることができます。

カチオン化 BSA の調製

カチオン化 BSA の調製ウシ血清アルブミンは、EDC を用いて過剰エチレンジアミンと反応させます。


Muckerheide、Domen、Apple らによる一連の研究論文 (1987年、1988年) では、キャリアタンパク質のカチオン化が免疫応答の生成および調節に及ぼす効果に関する研究が報告されています。(詳細については、リンク先の製品ページをご覧ください。)この研究では、cBSA をキャリアタンパク質として使用した結果、ネイティブ形態の BSA よりはるかに高い抗体応答を刺激する免疫原が得られました。In vivo では、抗体応答が増強され、応答の上昇状態を長時間維持しました。In vitro では、T 細胞増殖と同程度を産生させるのに、ネイティブ BSA よりもはるかに少ない cBSA しか必要としませんでした。興味深いことに、cBSA に誘発される免疫応答の増強は、それが結合したハプテンや他のタンパク質にまで拡張されました。例えば、マウスの免疫化に使用したケースでは、cBSA に結合したオボアルブミンは、オボアルブミン単独あるいはオボアルブミン-BSA 結合体よりも大量の抗オボアルブミン抗体産生を誘発しました。

キャリアタンパク質としてのオボアルブミン 

オボアルブミン (OVA; 45kDa) は、キャリアタンパク質として使用することができます。卵アルブミンとしても知られるオボアルブミンは、ニワトリ卵白のタンパク質の75%を占めています。OVAは、20個のリジン基を含み、多少免疫原性を示すものの、通常は免疫化ではなく二次 (スクリーニング) キャリアとして使用されます。また、このタンパク質は、カルボキシル基を供給する、14 個のアスパラギン酸残基および33個のグルタミン酸残基を含んでいます。これらの基は、ハプテンとの結合における標的として使用できます。オボアルブミンは、多数の疎水性残基および等電点 4.63 を有しする単一のポリペプチド鎖として存在します。このタンパク質は、56°C以 上の温度条件下や、電流または激しい振動を受けた場合、変性します。OVA は、高濃度の有機溶媒 DMSO 中で溶解する性質の珍しいタイプのタンパク質であり、水性バッファー中で溶解しにくいプテンへの結合を可能とします。


ハプテン–キャリア結合

ハプテン–キャリア結合法

ハプテンをキャリアタンパク質へ結合させるには、いくつかの手法をとることができます。活用する結合化学の選択は、ハプテン上で利用可能な官能基、必要とされるハプテン配向およびキャリアからの距離、ならびに生物学的特性や抗原性特性上の結合による想定効果に応じて決定します。例えば、タンパク質とペプチドは結合の標的になり得る、第一級アミン (リジン残基のN末端および側鎖)、カルボキシル基\ (アスパラギン酸およびグルタミン酸のC末端または側鎖)、およびスルフヒドリル (システイン残基の側鎖) を有しています。通常、キャリアタンパク質中の多くの第一級アミンが架橋試薬を介するハプテン結合に用いられています。

EDC 結合 (カルボキシルとアミンの架橋)

大半のタンパク質には、露出したリジン基およびカルボキシル基の両方が含まれているため、タンパク質-キャリア結合やペプチド-キャリア結合を行うには、一般的にカルボジイミド架橋剤 EDC を用いて免疫原を形成させる手法が最もシンプルかつ効果的です。EDC は、タンパク質キャリア上もしくはペプチドハプテン上の有効なカルボキシル基と反応して、活性 O-アシルイソ尿素中間体を形成します。次に、この中間体は第一級アミンと反応して、アミド結合および可溶性の尿素副産物を形成します。この効率的な反応により、2 時間以内に結合免疫原が生成されます。

通常、ポリペプチド抗原やタンパク質キャリアが関与する場合、EDC により媒介された結合には一定量の重合が発生します。この重合は、ほとんどのペプチドおよび抗原が、第一級アミン (少なくともN末端において) およびカルボン酸塩 (少なくともC末端において) を含むために起こります。一部のペプチドでは、キャリアタンパク質への結合だけでなく、ペプチド自身へも結合場合があります (N末端とC末端の末端間または側鎖間)。同様に、キャリアタンパク質は、キャリアタンパク質自身へ結合します。

このような重合は、免疫原性や所望の抗原特異的抗体の産生において、必ずしもデメリットではありません。大きなポリマーは、結合体の溶解性を低下させることがあるため、後続工程における処理や使用が困難になります。キャリア表面上の一部の重合ペプチドは、ペプチドの免疫原性を実質的に高めることがあり、抗体応答を向上させる効果があります。ペプチドは様々な配向で結合するため、確実に分子の全部分が提示され、全集団内で抗原として使用できるようになります。

ペプチドとキャリアタンパク質の EDC 媒介結合 

ペプチドとキャリアタンパク質の EDC 媒介結合キャリアタンパク質 (C) とペプチド (P) はカルボキシルとアミンの両方を持つため、両配向で結合が起こります。キャリアタンパク質は標準的なペプチドハプテンに比べて非常に大きいため、各キャリアタンパク質分子上には、多数の結合部位が存在します。

マレイミド結合 (スルフヒドリル架橋)

末端システイン残基を持つ合成ペプチドは、特定の架橋剤との反応で高特異的な結合部位を供給するスルフヒドリル基を有しています。例えば、ヘテロ二官能性架橋剤スルホ SMCC には、遊離スルフヒドリルと反応するマレイミド基、および第一級アミンと反応するスクシンイミジル (NHS) エステルが含まれています。最初にこの架橋剤とキャリアタンパク質 (多数のアミンを有する) を反応させた後、還元末端システインを含むペプチドに反応させることにより、全てのペプチド分子は想定通りの一律の配向で結合させることができます。

これには、2 段階の反応戦略をとります。キャリアタンパク質は、モル過剰量の Sulfo-SMCC との反応により単独で"活性化"されます。NHS エステル基がキャリアタンパク質の豊富なアミノ基に置換されると、多数の SMCC 分子がキャリアタンパク質へ付着します。その後、修飾されたキャリアタンパク質は、ゲルろ過(脱塩)により精製され、過剰量の架橋剤や副生成物が除去されます。この段階では、精製キャリアは架橋剤により生成した修飾状態を有しているため、表面から突出した多数の反応性マレイミド基が生じます。最後に、システイン末端ペプチドまたは他のスルフヒドリルハプテンをマレイミド活性化キャリアタンパク質に添加します。マレイミド基は、ペプチドのスルフヒドリル (-SH) 基と反応して、安定したチオエーテル結合を形成します。

全てのタンパク質は、このようにしてマレイミド活性化させられるため、還元チオールを介してハプテンを有効に結合させることができます。しかし、KLH、BSA や他の一般的なキャリアタンパク質は、スルフヒドリルペプチドとすぐに結合できるよう予め活性化済みの形態や便利なキットで入手が可能です。品質テスト済み、安定化済みのマレイミド活性化キャリアタンパク質をご購入されると、一貫性の高いパフォーマンスが実現すると同時に処理工程数を減らすことができます。

マレイミド活性化、および Sulfo-SMCC 架橋剤とキャリアペプチドとの結合

マレイミド活性化、および Sulfo-SMCC 架橋剤とキャリアペプチドとの結合キャリアタンパク質は、1 分子当たりに多数の第一級アミン(数十~数百個)を有しています。そのため、各キャリアタンパク質分子は、十分なマレイミド活性化を受け、多数のペプチドハプテンを結合させることができます。

グルタルアルデヒド結合 (アミン-アミン架橋) 

グルタルアルデヒドを使用して、ペプチドおよびキャリアタンパク質をそれぞれのポリペプチド上のアミンを介して架橋させることができます。この手法では、ペプチドのリジン残基または N 末端、およびキャリアタンパク質の表面リジンをランダムに標的します。ペプチドのアミノ酸組成 (複数の第一級アミンを有しているか否か) にもよりますが、抗原提示 (配向) や高負荷 (重合) が変動するケースは EDC 結合時ほど多くありません。しかし、殊に特異的でなく予測可能でない限り、グルタルアルデヒドは有効な架橋剤であり、現在も抗体生産施設において一般的に使用されています。

アミン-アミン架橋はまた、ジスクシンイミジルスベレート (DSS) や水溶性アナログ BS3 などの架橋剤を用いて行うこともできます。長いスペーサーアームが必要な場合、BS3 の PEG 化バージョンも利用可能です。


アジュバントおよび免疫化

アジュバント

免疫原に対する免疫応答を増強させるには、アジュバントと呼ばれる種々の添加剤が使用できます。アジュバントを混合し、免疫原に注射すると免疫応答が増強されます。アジュバントは、免疫原に対する免疫応答を増強させるものの、アジュバント自体がハプテンへ免疫原性を与えられるわけではないため、キャリアタンパク質の代替にはなりません。アジュバントは、免疫応答の非特異的刺激剤であり、注入物質の沈殿や隔離を促進し、抗体応答を飛躍的に増強させます。

完全フロイントアジュバント (CFA または FCA) をはじめとして、数多くの好評なアジュバントがあります。本試薬は、油中水型エマルジョンおよび死滅 Mycobacterium からなります。油中水型エマルジョンは抗原を長期間局在化させ、Mycobacterium  は注射部位へマクロファージや適切な細胞類を誘引します。完全フロイントアジュバントは、初回注射 (免疫化) 時に使用します。後続の追加免疫時には、 Mycobacterium 非含有のエマルジョン;不完全フロイントアジュバント (CFA または FIA) 中の免疫原を使用します。フロイントアジュバントは非常に有効性が高い反面、毒性マイコバクテリア成分が含まれるため、対象動物および研究者の双方がリスクにさらされます。

フロイントアジュバントの代わる便利な代替物質として、水酸化アルミニウム (ミョウバン) 溶液が使用できます。ミョウバンは、面倒な乳化を行う必要がないため、フロイントアジュバントよりも容易に免疫原との混合が行えます。これは、完全フロイントアジュバント (CFA または FCA) ほど強烈な刺激剤ではないため、完全な非免疫原性化合物に対してほとんど免疫応答を誘発させません。しかしながら、ペプチド-キャリアタンパク質結合体の大半は免疫原性であり、ミョウバンはそれらに対して強い刺激を与えます。ミョウバンは、注射部位における組織壊死をほとんど起こさないため、フロイントアジュバントよりも安全に使用することができます。

免疫化プロトコル 

アジュバントと混合する前の免疫原濃度に応じて、注射 1 回あたりの結合体の投与量が最終決定されます。以下に記載するプロトコルは、注射および出血において優れた結果を得られることが実証されています。研究者のご都合に応じて、あるいは実験動物の条件がこうした検討事項を満たす時期に合わせて、スケジュールをカスタマイズできます。いずれにしても、動物に深刻な反応が局所や全身に見られた場合は、注射を中止する必要があります。これらの実験動物手順を実行するのは、有資格者および認定担当者の方に限ります。これらの技法に精通していない方は、動物の免疫と出血を試みる前に、熟練した研究者からトレーニング指導を受けてください。

マウスの免疫化スケジュール:

  • 0 日目:免疫化後の ELISA スクリーニングの実行時、盲検用としてマウスから免疫前血清を採取します。凍結保存します。マウス 1 個体あたり 50 ~ 100 μg の免疫原 (100~200 μL の抗原-アジュバント混合物に相当) を注入します。一般に腹腔内 (i.p.) または皮下 (s.c.) の経路から注射を行います。動物1個体あたりに、こうした注射を 1 ~2 回行えます。
  • 14 日目:アジュバント中の免疫原の当量を追加免疫します。
  • 21 日目:出血をテストして、ELISA法で抗体応答をアッセイします。(通常マウスは尾静脈または眼窩後神経叢を介して麻酔下で採血されます)。
  • 28 日目:必要に応じて再び追加免疫をします。同様のスケジュールを続行して、十分な応答が観察されるまで、追加免疫と試験採血を交互に行います。モノクローナル抗体産生を行うには、生理食塩水 (アジュバント非含有)中に溶解した免疫原と融合させる 4 ~ 5 日前に、腹腔内または静脈内 (i.v.) 注射します。

ウサギの免疫化スケジュール:

  • 0 日目: 免疫化後の ELISA スクリーニングの実行時、盲検用としてウサギから免疫前血清を採取します。凍結保存します。ウサギ背面の 8 ~ 10 の皮下部位のそれぞれに 100 μg の免疫原 (約 200 μL の抗原-アジュバント混合物に相当) を注入します。別の注入経路がとられる場合もありますが、ウサギを用いるケースでは、この経路が圧倒的に注入しやすいです。
  • 14 日目: アジュバントの当量を追加免疫します。
  • 21 日目: 出血をテストして、ELISA 法で抗体応答をアッセイします。(通常ウサギは耳静脈を介して麻酔無しで採血されます)。抗体応答の測定に必要な十分量の 5 ~ 10 mL が容易に採血できます。
  • 28 日目: 必要に応じて再び追加免疫をします。同様のスケジュールを続行して、十分な応答が観察されるまで、追加免疫と試験採血を交互に行います。

ハプテン特異的抗体のスクリーニングおよび精製

抗体スクリーニング 

抗体のスクリーニング、力価測定およびアイソタイピングは、あらゆるカスタム抗体生産プロジェクトにおいて、重要なインプロセス型および最終決定型の抗体テスト手順です。これらのテストにより、どの免疫化動物または細胞株を選択・継続するか、特定の用途においてどの希釈液および二次試薬を使用すべきか、また効果的な抗体精製法を決定するために必要な情報データが得られます。

抗体精製 

血清や腹水の全 IgG 成分の標準精製を達成するには、プロテイン A、プロテイン G、または他の類似のアフィニティー樹脂を使用します。さまざまなアプリケーションにおいて、たとえハプテン特異的抗体が全体の 2 ~ 5% しか占めていない場合でも、標準的な IgG 精製を行うことが推奨されます。他の免疫グロブリン成分が非特異的結合やバックグラウンドを発生させない限り、これらの成分の存在は問題点となりません。

ハプテン特異的抗体の精製が必要になるアッセイ系や特定実験もあります。これを達成するには、免疫原調製に用いるものと同じキャリアタンパク質を含有しない形態の固体担体に最初のハプテンを固定化させることにより可能です。こうした精製用の活性化アフィニティ樹脂が多数市販されています。


参考文献

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