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検出プローブや精製リガンドとしての特異的抗体を産生させて使用する技法は、一般に免疫検出あるいは免疫技術と呼ばれ、生物学的研究や診断の技術に大きな変革をもたらしました。調製された抗原で免疫した動物は、抗原に特異的な抗体を産生します。産生した抗体は、精製された後 (場合によっては、さらに酵素タグや蛍光タグで標識された後)、ウェスタンブロッティング、ELISA および他のアプリケーションにおいて特定抗原のプローブにそのまま使用することができます。
免疫動物由来の抗血清は、特定のアプリケーションですぐに使用できますが、数種類の検出法に有効な抗体プローブを得るには、一般に何らかの方式で抗体精製を行う必要があります。本ページでは、抗体精製を達成させる主要な方法およびツールについて概説します。
抗体精製には、血清 (ポリクローナル抗体)、腹水、あるいはハイブリドーマ細胞株の細胞培養上清 (モノクローナル抗体) からの抗体の選択的濃縮や特異的分離が含まれます。精製法のタイプは、クルード状態 (粗精製) から高度に特異的な精製までのレベルがあり、以下のように分類されます:
標的抗体は (大半の実験目的において) 産生サンプル中の免疫グロブリンのみであるため、モノクローナル抗体ハイブリドーマ細胞株として開発され、腹水または細胞培養上清に産生した抗体は、抗原特異的なアフィニティ精製 (第三のタイプ) を用いずに完全に精製することができます。対照的に、ポリクローナル抗体 (血清サンプル) においては、非特異的な免疫グロブリンの同時精製を避けるため、抗原特異的なアフィニティ精製を行う必要があります。例えば、マウス血清中の総 IgG のうち、動物免疫用の抗原に特異的な IgG は一般にわずか 2~5% です。使用可能な抗体の取得に必要な精製法のタイプと精製レベルは、意図する抗体の用途に依存します。
最新の Antibody Production and Purification Technical Handbook は、抗体を扱うあらゆる研究室にとって不可欠なリソースです。本ハンドブックは、抗体の構造およびタイプに関する概論、ならびに抗体の産生、精製、断片化および標識に使用される手法、試薬およびツールに関する技術情報を提供します。
血清免疫グロブリンの主要クラス (例: IgG、IgM) は、全体的なアミノ酸組成や溶解特性などの一般構造が共通しています。これらの一般特性は、アルブミンやトランスフェリンなどの血清中に豊富に存在する他の大部分のタンパク質と大きく異なっているため、これらの識別可能な物理化学的特性に基づいた免疫グロブリンの選択的濃縮が可能です。
透析、脱塩、およびダイアフィルトレーションは、特定のバッファーの中に抗体を移し、望まない低分子量 (MW) の成分を除去するのに使用されます。高分子量カットオフ (MWCO) を備えた、透析膜、サイズ排除レジン、およびダイアフィルトレーション装置は、小さなタンパク質やペプチドから免疫グロブリン (>140 kDa) を分離するのに使用されます。しかしながら、特殊なカラムや機器を除き、これらの技法単独で、標準的な抗体サンプル中に存在するタンパク質や高分子から抗体を精製することはできません。多くの場合、ゲル濾過と透析は硫酸アンモニウム沈殿などの後続工程で使用されています(1)。
血清、腹水または細胞培養上清からの抗体の濃縮には、硫酸アンモニウム沈殿がよく使用されます。このリオトロピック塩の濃度がサンプル中で上昇するにつれ、タンパク質および他の高分子の溶解性は次第に低下し、沈殿に至ります。リオトロピック効果は"塩析"と呼ばれています。抗体は、大部分の他のタンパク質や血清成分よりも低濃度の硫酸アンモニウムにおいて沈殿します。
硫酸アンモニウム飽和率 40〜50% (飽和率 100% は 4.32M に相当) で免疫グロブリンが沈殿するのに対し、他のタンパク質は溶液中に残ります(2)。通常の手法では、中和抗体サンプルに等量の飽和硫酸アンモニウム溶液を極めて緩徐に添加し、室温または4℃下で数時間インキュベーションします。遠心分離し、上清を除去した後、リン酸緩衝生理食塩水 (PBS) などのバッファーに抗体ペレットを懸濁します。
選択性、収量、純度および沈殿の再現性は、時間、温度、pH 値および塩の添加速度などいくつかの要因に依存します(3)。硫酸アンモニウム沈殿は、いくつかの抗体アプリケーションには十分な精製度を提供しますが、ほとんどの場合、カラムクロマトグラフィーや他の精製法の前の予備的なステップとして実施されます (例: Melon Gel Monoclonal IgG Purification Kit)。部分精製された抗体サンプルを使用すると、パフォーマンスが向上し、アフィニティーカラムの寿命が延長されます。
特殊な抗体精製の状況に適した硫酸アンモニウム以外の抗体沈殿試薬としては、オクタン酸、ポリエチレングリコールおよびエタクリジンなどが使用されています (3)。
特殊な状況での抗体精製を達成するために、数多くの化学系固相クロマトグラフィー法が適合化・最適化されてきました。
イオン交換クロマトグラフィー (IEC) では、所定のバッファー系 (pH) の正味電荷に基づいて、正または負に荷電したタンパク質結合用樹脂を使用します。特にモノクローナル抗体産生の関わる商業的運用においては、高度な特異性を持つ標的抗体が結合および放出されるるIEC条件を決定することが可能です。逆に、抗体を除くあらゆるサンプル成分が結合する条件も見つけることもできます。最適化のなされたIECは、コスト効率が高く、穏やかで信頼性の高い抗体精製法となります。
固定化金属キレートクロマトグラフィー (IMAC) は、キレート固定化二価金属イオン (通常はニッケル、Ni2+) を用いて、 3 つ以上の連続するヒスチジン残基のクラスターを持つタンパク質またはペプチドを結合します。末端 6xHis 融合タグを持つように改変された組換えタンパク質を精製するには、この戦略が最もよく使用されています。興味深いことに、哺乳類の IgG は、固定化ニッケルの結合できるヒスチジンクラスターを有する血清 (またはモノクローナルハイブリドーマ細胞培養上清) 中の低存在量タンパク質の一つです。IEC と同様に、特定サンプルに対する結合および溶出の IMAC 条件を最適化させて、穏やかで信頼性の高い抗体精製を行うことができます(3).例えば、 Pierce Conjugate Purification Kit では、標識処理後に過剰量の非標識酵素から AP- または HRP- 標識 (酵素標識) 抗体を分離するのにこの技法が使用されています。
チオフィリック吸着は、疎水性相互作用クロマトグラフィー (HIC) と硫酸アンモニウム沈殿 (リオトロピック効果) の両特性を組み合わせた、高選択性タイプのタンパク質-リガンド相互作用です。この相互作用は、チオエーテルに近接するスルホン基にタンパク質を結合させることから、チオフィリックと呼ばれています。厳密な HIC とは対照的に、チオフィリック吸着は高濃度の リオトロピック塩 (例: 塩化ナトリウムと対照的な硫酸カリウムなど) に依存しています。硫酸カリウムで平衡化された標準的な抗体サンプルでは、抗体に対し極めて特異性な結合が生じます。非結合成分の洗浄除去後、抗体は穏やかな溶出条件 (例: 50 mM リン酸ナトリウムバッファー、pH 7~8) で容易に回収されます。Thiophilic Adsorbent (別名: T-Gel) は、スルホン-チオエーテルリガンドを含有するよう修飾された、6% アガロースビーズです。本吸着剤は、様々な動物種由来の免疫グロブリンに対して、結合能が高く広範な特異性を有しています。これは、ニワトリ IgY 精製に効果的な数少ないアフィニティ精製法の 1 つであることは注目に値します。
Melon Gel は、化学ベースの分画により抗体を精製するための当社独自の樹脂化学 (および最適化バッファー系) です。規定の穏やかなバッファー条件下で、Melon Gel 樹脂は、血清、腹水および培養上清中に存在する大部分の非 IgG タンパク質と結合し、素通り画分に精製 IgG が回収されます。
Melon Gel キットは、IgG を迅速、簡便かつ穏やかに精製するために最適化されており、様々なタイプが取り揃えられています。モノクローナル抗体を精製するための Melon Gel キットには、二つの精製手法を組み合わせた利点があります。細胞培養上清サンプルについては、最終的な Melon Gel 精製を実施する前に、硫酸アンモニウム沈殿処理を行うことが推奨されます。腹水サンプルについては、トランスフェリンと抗体の同時精製を減らすために、Melon Gel 精製前に Conditioning Reagent による前処理を行うことが推奨されます。
Melon Gel 系は、ネガティブセレクションによる精製で、溶出工程を一切必要としないことから、抗体ストック溶液からウシ血清アルブミン (BSA) やゼラチンを除去するための簡便で効率的な手法 (これらの安定化タンパク質の抗体標識処理への影響を防ぐ) としても提供されます。当社製品の Antibody Clean-Up Kit には、このような基本特性が備えられています。
1種類の特定の望ましくない血清成分の特異的除去を「抗体精製」の一つの形態と捉えた場合、アルブミン除去についてここで触れるのが適切です。アルブミンは、ヒト血清タンパク質の約 60% を占めています。Cibacron* Blue Dye は、ヒト血清アルブミンに選択的に結合するため、二次元電気泳動分析用のアルブミンフリーの血清サンプルを調製するためのアフィニティリガンドとして使用されます。
抗体は、相対的不変領域などの進化的に保存された全体構造を有し、その本来の機能は病原体に結合し防御することであるため、特定の 病原性細菌が、特異的抗体結合機能を持つタンパク質に進化を遂げてきたことは当然と言えます。このような免疫グロブリン結合タンパク質がいくつか同定され、特定種の細菌から単離されています。抗体の本来の機能がタンパク質研究用の標的特異的プローブとして有用であることと同じく、これらの天然抗Igタンパク質も抗体精製用のアフィニティリガンドとして有用です。
Protein A、Protein G、Protein L は、抗体結合特性が十分に特徴付けられている 3 種類の細菌タンパク質です。これらのタンパク質は組換えにより産生され、さまざまな生物種から重要な抗体タイプをアフィニティー精製する用途で日常的に使用されています。これらのタンパク質の組換え型市販品の多くは、不要な配列 (プロテイン G 由来の HSA 結合ドメインなど) が除去されているため、天然のものより小型です。また、プロテインA/G と呼ばれる、プロテイン A およびプロテイン G を遺伝子工学的に融合させた組換え体も一般に入手可能です。全4種類の組換え型 Ig 結合タンパク質は、多くの免疫検出や免疫親和性のアプリケーションにおいて研究者たちに日常的に使用されています。
天然 IgG 結合タンパク質の由来および特徴下表の情報は、さまざまなソースから収集されています。免疫親和性アプリケーション用の組換え型タンパク質に関する参考文献と詳細については、関連する"詳細情報"ページをご覧ください。 | |||
プロテイン A (SpA) | プロテイン G (SpG) | プロテイン L (SpL) | |
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種 | Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌) | Streptococcus spp. (Group C and G) (C群およびG群溶血性レンサ球菌) | Peptostreptococcus magnus |
ヒト 病理学 | ヒト体内細菌叢の成分; "黄色ブドウ球菌"感染症の原因 | 起源:咽頭炎患者から単離 (扁桃腺または血液) | 共生性および/または病原性の嫌気性グラム陽性菌 |
ネイティブ サイズ | 40~60 kDa (反復 ドメインの数によって変動) | 40~65 kDa (反復 ドメインの数によって変動) | 76 kDa |
結合ドメイン | IgG に対し 5 箇所 (最も一般的な形態) | IgG に対し 1~2 箇所 HSA に対し 0~2 箇所 | Ig に対し 5 箇所 |
Ig 結合標的 | IgG の重鎖定常領域 (Fc) (CH2-CH3 領域) | IgG の重鎖定常領域 (Fc) (CH2-CH3 領域) | Ig のκ 軽鎖 (VL-κ) |
抗体結合タンパク質の結合部位ビーズ担体への抗体固定化に使用されるタンパク質は、種々の抗体ドメインに対して特異性を示します。プロテイン A および G は抗体 Fc 領域の重鎖に結合するのに対し、プロテイン L は F(ab')2 抗体断片の 2 つの Fab 領域の軽鎖に特異的に結合します。† プロテインG は、特定の条件下で Fab 断片にも結合します。
プロテイン A、プロテイン G、プロテイン A/G またはプロテイン L を用いて抗体精製を達成するには、多孔質樹脂 (アガロースビーズなど) 上または磁気ビーズ上にこれらのタンパク質を共有結合により固定化します。これらのタンパク質は数種類の抗体結合領域を持つため、個々の固定化分子のほぼ全てが、その配向に関わらず機能的に障害されない結合領域を最低一つ保持します。また、抗体結合タンパク質は抗原結合領域以外の部位で抗体に結合するため、免疫沈降などの精製スキームにはこれらのタンパク質の固定化形態を使用することが可能です (ここで、抗体結合タンパク質は、抗原が結合している抗体に結合することから、サンプルからの抗原の精製に使用されます)。
プロテインA、G、A/G および L は異なる結合特性を持つため、それぞれの適する抗体標的タイプ (例: 抗体のサブクラスまたは動物種) は異なります。プロテイン A、G または L を使用することによって粗サンプルからの一般的な免疫グロブリンの精製が可能であることを認識するのは重要です。サンプルのソースによっては、抗原特異的抗体が占めるのは サンプル中の全ての免疫グロブリンのうち、ごく一部のみである場合があります。例えば、マウス血清中の総 IgG のうち、動物免疫用の抗原に特異的な IgG は一般にわずか 2~5% です。
プロテイン A アガロース樹脂のカラムとウサギ血清を例として用いて、これらのリガンドによる抗体精製の基本手順を以下に示します:
IgM の Fc 領域の結合部位がその五量体構造によって立体的に障害されるため、プロテイン A およびプロテイン G の IgM への結合力は、非常に弱く、場合によっては全く結合しません。適切なタイプの軽鎖 (VL-κ) を有する IgM (クラスM抗体) については、プロテイン L を精製に使用できます; ただし、同タイプの軽鎖を有する IgG が同時精製されます。
商業規模での運用においては、通常、硫酸アンモニウム沈殿の後、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーまたはゾーン電気泳動などの手法を組み合わせて IgM 抗体の精製が行われます。血清サンプル (ポリクローナル) におけるシンプルな濃縮戦略では、硫酸アンモニウム沈殿後にプロテイン A または G を用いて IgG を除去します。
Nethery ら(4)により、細胞表面の糖鎖を認識する C1q (439 kDa の補体成分) を用いた、IgM のアフィニティ精製法が開発されました。Nevens ら(5)により、マンナン結合タンパク質 (MBP) と呼ばれる補体活性化タンパク質と類似構造を持つリガンドとして使用されたことで、この手法は拡張および改善されました。弊社の IgM Purification Kit は、固定化 MBP を使用しており、マウス腹水由来 IgM の精製に最も効果的です。精製 IgM は、アフィニティーカラムを1回通過させることで取得できます。ヒト IgM は、結合力が若干低いながら担体に結合し、少なくとも純度 88% (HPLC による評価) の生成物が得られます。他の種やマウス血清由来の IgM の精製は、いまだ最適化がなされていません。
ジャカリンは、ジャックフルーツの種子 (Artocarpus integrifolia) から抽出される α-D-ガラクトース結合性のレクチンです。このレクチンは、4 つの同一サブユニットから構成される約 40 kDa の糖タンパク質です。アガロースなどの担体上に固定化されたジャカリンは、ヒト血清または分泌型 IgA1 の精製に使用されてきました。アフィニティリガンドは、ヒト血清中または初乳中のより存在量の多い IgG や IgM からの IgA の精製や除去を可能とします(6)。IgD は、ジャカリンに結合することが報告されています(7)。
ニワトリは、IgY と呼ばれる特有の免疫グロブリン分子を産生します。IgY を産生および使用することには、哺乳類免疫グロブリンと比べていくつかの利点があります。産生に関して、ニワトリの飼育や免疫化は比較的簡単です。また、ニワトリは、保存された哺乳類タンパク質抗原に対して免疫応答を生成しやすい傾向があり、ウサギの 15~20 倍以上の抗体を産生します。
最も重要なのは、IgY は天然状態で卵黄中に高濃度で含まれているため、免疫した雌鶏から非侵襲的に繰り返し抗体を回収できることです。免疫したニワトリの卵黄1個には約 300 mg の IgY が含まれます。全卵や分離した卵の卵黄を回収・冷凍保存しておき、後で抗体を抽出することが可能です
プロテイン A、プロテイン G、およびその他の Fc 結合タンパク質は IgY に結合しません。チオフィリック吸着 (上記参照) は、血清や他の体液からの IgY の精製に有効です。しかしながら、脂質濃度が非常に高い卵黄からの IgY の精製に有効なチオフィリック吸着手順は開発されていません。代わりに、弊社の Chicken IgY Purification Kit をご利用いただけます。本キットは、最初に当社独自の溶液で卵黄サンプルを脱脂した後、さまざまな硫酸アンモニウム沈殿を使用して卵黄から IgY を効率的に精製します。
プロテインA、G、A/Gおよび L は、サンプルから全 IgG を精製するリガンドとして優れていますが、通常は 抗原特異的抗体の精製が必要とされます。免疫化用の特定の抗原を固定化することによりこの精製は行えるため、抗原に特異的に結合した抗体のみをこの手順で精製することができます。アフィニティ精製においてペプチドや他の抗原の固定化に使用される活性化アフィニティ担体については、「Ligand Immobilization Methods for Affinity Purification」のページに記載します (リンクは近日公開予定)。本ページでは、抗体精製に使用される抗原固定化に関連した特有の問題について概説します。
抗体のアフィニティ精製を成功させるには、抗原上の関連エピトープを抗体の結合部位に効率的に提示させる必要があります。抗原のサイズが小さい場合、抗原を複数の化学結合により固体担体表面に直接固定化させると、重要なエピトープがブロックされたり、立体障害により抗体がエピトープにアクセスできなくなることがあります。そのため、特定の官能基 (例: ペプチド内の1つの末端システイン上のスルフヒドリル基) と反応する反応基が数原子長のスペーサーアームを介して固定化されている活性化担体を利用するのが最良です。サイズの大きい抗原 (例: タンパク質)、特に複数の固定化部位を有するような抗原の場合、抗原自体が担体マトリックスとエピトープ間の有効なスペーサーとして機能するため、スペーサーアーム長はそれほど重要ではありません。抗原をキャリアタンパク質に架橋して抗体産生を促進する場合は、通常、その架橋反応と同じケミストリー (例: 第一級アミン、スルフヒドリル、カルボン酸、アルデヒドなど) を利用することで、エピトープのブロックを防ぐことができます。このように、全てのエピトープを抗体の結合に利用できることで、特異的な免疫グロブリンの精製および回収の効率が飛躍的に向上します。
ほとんどの抗体は、合成され、KLH などの免疫原性キャリアタンパク質に結合したペプチド抗原を用いて産生されます。このような抗原は、結合および固定化ののための特有の官能基 (ハンドル) を有するようにカスタマイズすることができます。この目的のために、通常、末端システインが添加されます。これにより、マレイミド活性化キャリアタンパク質への結合効率およびヨードアセチル活性化アガロース樹脂上への固定化効率を上げるスルフヒドリル基が得られます。
他に、アミン官能化樹脂と、カルボキシル (C末端) 末端を介してペプチドを固定化させる EDC 架橋剤を用いる一般的な戦略もあります。ペプチドは、アミノ末端およびカルボキシル末端 (ならびにペプチドによっては、分子内部にリジン、アスパラギン酸やグルタミン酸残基) を持つため、EDC によるカルボキシル-アミン架橋によりペプチドが重合および固定化され、親和性結合においてさまざまな配向でペプチドが抗体へ提示されます。CarboxyLink Immobilization Kit は、このような基本特性に基づいています。
特殊な状況を除いて、アフィニティ精製におけるタンパク質抗原の固定化は、一般に第一級アミンを標的とする方法が最も簡単です。通常、タンパク質構造の外表面のいくつかの位置 (すなわち、リジン残基またはサブユニットのN末端のある位置) で固定化されます。この種の固定化には、数タイプの高性能なアミン反応性のアフィニティ担体が使用できます。
あるいは、タンパク質抗原が精製された糖タンパク質であり、糖鎖が目的エピトープでない場合には、抗原を過ヨウ素酸ナトリウムで酸化した後、糖鎖を介して抗原を共有結合的に固定化させることも可能です。GlycoLink Immobilization Kit は、このような基本特性に基づいています。
抗体の抗原特異的なアフィニティ精製における標準的な結合条件と溶出条件は、それぞれの抗原と抗体の生来の親和性の相互作用に基づいているため、これら両条件間でほとんど変動がありません。つまり、抗体は生理的条件下で抗原を認識し結合するよう設計されているため、大半のアフィニティ精製手順では生理的pHおよびイオン強度を模倣した結合条件を適用しています。最も一般的な結合バッファーは、リン酸緩衝生理食塩水 (PBS) と pH 7.2 のトリス緩衝食塩水 (TBS) です。抗体が固定化抗原に結合した後、追加の結合バッファーを用いて担体から非結合物質を洗浄します。非特異的結合を最小限に抑える目的で、多くの研究者は、弱い相互作用を妨害する追加の塩や界面活性剤を含む洗浄バッファーを使用しています。
抗原結合の相互作用を妨害するバッファーの pH やイオン強度を十分に変更することによって、特異的な精製抗体をアフィニティ樹脂から溶出させることができます。大半の抗体は適度な復元性のあるタンパク質であり、pH 2.5~11.5 の範囲で永続的に不活性化されることはなく、通常の溶出戦略では圧倒的に低pHに設定されています。場合によっては、pH を変更しても抗体-抗原相互作用は効果的に妨害されず、あるいは pH による障害を受けないため、それに代わる戦略を取る必要があります。