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ウイルスは不可避的な細胞内病原体であるため、生殖と代謝プロセスを宿主細胞に依存しなければなりません。ウイルスのライフサイクルは、ウイルスの種やカテゴリによって大きく異なる場合がありますが、ウイルス複製の基本的な段階は同じです。ウイルスのライフサイクルは、接着、侵入、脱外被、複製、成熟、および放出といういくつかの主要な段階に分けることができます。
ウイルスが宿主生物に感染するには、ウイルスゲノムがウイルス粒子から宿主細胞の細胞質に移されなければなりません。このプロセスは、ウイルスの外層上のタンパク質が宿主細胞表面上の接着因子に結合したときに始まります。これらの接着因子は、ウイルス粒子を細胞表面に濃縮させ、宿主細胞への侵入の役割を担うウイルス受容体に近接させます[1]。たとえば、CD4はヒト免疫不全ウイルス(HIV)の主要な受容体ですが、ウイルス貫通にはケモカイン受容体CCR5またはCXCR4とのさらなる相互作用が必要です[2]。ウイルス受容体は、タンパク質、糖脂質、または炭水化物です[3]。多くの場合、単一のウイルスが複数の細胞表面受容体を認識できるため、個々の受容体の親和性が低くても、ウイルス粒子は高い親和性で結合できます[4]。所定の受容体の有無により、ウイルスの宿主指向性(所定のウイルスが特定の種類の細胞に感染できるかどうか)が決まります。ウイルスは絶えず進化して、ウイルスの侵入と宿主細胞の感染に最も適した細胞表面受容体を認識します。
ウイルス | ファミリー | 受容体 |
---|---|---|
アデノウイルス2 | アデノウイルス科 | CARおよびαvインテグリン |
旧世界アレナウイルス | アレナウイルス科 | α-ジストログリカン |
新世界アレナウイルス | アレナウイルス科 | トランスフェリン受容体 |
ノロウイルス | カリチウイルス科 | HBGA |
SARSコロナウイルス | コロナウイルス科 | ACE 2またはL-SIGN |
日本脳炎ウイルス | フラビウイルス科 | Hsp70 |
HCV | フラビウイルス科 | CD81およびSR-B1 (クローディン-1およびオクルディン) |
エボラウイルス | フィロウイルス科 | TIM-1およびNPC1 |
エプスタイン・バーウイルス | ヘルペスウイルス科 | CD21およびMHC-II |
単純ヘルペスウイルス1/2 | ヘルペスウイルス科 | ネクチン-1/2またはHVEM |
インフルエンザA型 | オルトミクソウイルス科 | シアル酸 |
ヘニパウイルス | パラミクソウイルス科 | ネフリンB2 |
麻疹ウイルス | パラミクソウイルス科 | SLAMまたはネクチン-4 |
ブンヤウイルス | フレボウイルス科 | DC-SIGN |
エンテロウイルス71 | ピコルナウイルス科 | PSGL-1またはSR-B2 |
A型肝炎ウイルス | ピコルナウイルス科 | TIM-1 |
ポリオウイルス | ピコルナウイルス科 | CD155 |
ライノウイルス(主要群) | ピコルナウイルス科 | ICAM-1 |
ライノウイルス(非主要群) | ピコルナウイルス科 | LDLR |
コクサッキーウイルスB | ピコルナウイルス科 | DAFおよびCAR(オクルディン) |
John Cunninghamポリオーマウイルス | ポリオーマウイルス科 | LSTc |
SV40ポリオーマウイルス | ポリオーマウイルス科 | GM1 |
ヒトT細胞白血病ウイルス1 | レトロウイルス科 | GLUT-1またはニューロピリン-1 |
レオウイルス | レオウイルス科 | JAM |
ロタウイルス | レオウイルス科 | シアル酸およびインテグリン |
HIV | レトロウイルス科 | CD4およびCCR5またはCXCR4 |
シンドビスウイルス | トガウイルス科 | ラミニン受容体 |
略語:ACE2、アンジオテンシン変換酵素2;CAR、コクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体;CCR5、システイン-システインケモカイン受容体5型;CD、分化抗原群;CXCR4、システイン-X-システインモチーフケモカイン受容体4;DAF、崩壊促進因子;DC-SIGN、樹状細胞特異的な細胞間接着分子-3-グラッビング非インテグリン;GLUT-1、グルコーストランスポーター1型;GM1、モノシアロテトラヘキソシルガングリオシド;HBGA、組織血液群抗原;Hsp、熱ショックタンパク質;HVEM、ヘルペスウイルス侵入メディエーター;ICAM-1、細胞内接着分子1;JAM、接合部の接着分子;L-SIGN;肝臓/リンパ節特異的なICAM-3グラッビング非インテグリン;LDLR;低密度リポタンパク質受容体、LSTc;ラクトシリーズ四糖c;MHC-II、主要組織適合遺伝子クラスII;PSGL-1、Pセレクチン糖タンパク質リガンド1;SLAM、シグナル伝達リンパ性活性化分子;SR-B2、スカベンジャー受容体クラスB;TIM-1、T細胞免疫グロブリンおよびムチンドメイン |
ウイルスは細胞表面受容体に結合すると、2つの主な経路を通じて真核細胞に侵入します。一部のウイルスは、細胞膜と直接融合または細胞膜を貫通して細胞に侵入しますが、ほとんどのウイルスはエンドサイトーシスを介して細胞に侵入します(コロナウイルスは両方の方法で侵入できます)(図1)[5,6]。ほとんどの場合、このエンドサイトーシスはクラスリンで被覆されたピットを介して起こり、その積荷は初期エンドソームから後期エンドソーム、さらにリソソームへと、次第に酸性になる細胞小器官へ往復輸送されます[7]。たとえば、コロナウイルスはエンドサイトーシスのさまざまな段階で融合できます。MERSコロナウイルスは初期エンドソームと融合する一方で、SARSコロナウイルスは後期エンドソームと融合します[4]。より酸性のpHを必要とするウイルスは、リソソームに到達するまで融合しません[2]。これらのエンドサイトーシス小胞およびリソソーム小胞はpHが低く、プロテアーゼが豊富であるため、ウイルスの高次構造(コンフォメーション)変化が引き起こされ、脱外被、融合、または細胞質への貫通につながる可能性があります。低いpHを必要としないウイルスでさえ、原形質膜を迅速に通過し、細胞質を通ってウイルスの複製部位に到達するための便利な経路としてエンドサイトーシスを利用します[2]。pHrodo IFL Green STPエステル色素などのpH感受性色素でウイルス粒子を標識すると、ウイルス侵入を視覚化できます[8]。
図1.ウイルスが細胞に侵入する経路。(A)外被ウイルスは、細胞表面受容体に結合し、原形質膜と直接融合できます。ウイルス粒子はエンドサイトーシスを介して取り込まれる(内在化される)場合もあり、サイトゾルへの脱出は、(B)初期エンドソームまたは(C)後期エンドソームおよびリソソームのいずれかから起こります。これらの区画内の酸性環境とタンパク質分解酵素は、さまざまなウイルスによる融合およびサイトゾル侵入に必要です。
ウイルスが細胞に侵入すると、脱殻と複製のプロセスが始まります。細胞内の不可避的な病原体として、ウイルスは細胞タンパク質と細胞小器官を制御することにより、複製を支援しなければなりません。ウイルスの遺伝子発現と複製に必要な細胞成分は、複製中心に編成されます[2]。一部のウイルスはサイトゾル内で複製するのに対して、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、およびインフルエンザウイルスなどの他のウイルスは複製のために核に移動しなければなりません(図3)[1]。
ウイルスが、宿主細胞の外にあるウイルスの完全な感染型であるビリオンからウイルスゲノムを放出するために用いるいくつかの方法があります(図2)。ライノウイルスなど特定のウイルスは、増殖してエンドソーム内に細孔を形成し、それを介してウイルスゲノムが脱出できます。インフルエンザやその他のウイルスは、ビリオン外被とエンドソーム膜の融合を誘導し、ウイルスゲノムを放出します。レオウイルスなど多くのウイルスは、複製のためのホームベースとして機能するサイトゾル内に部分的に無傷のカプシドを維持しています。
ウイルスゲノム複製のプロセスは、DNAウイルスとRNAウイルスの間、および核酸極性が正または負のウイルス間で異なります[9]。一部のウイルスゲノムには、黄熱病ウイルス(ポジティブセンスRNAウイルス)およびSARS-CoV-2コロナウイルス(ネガティブセンスRNAウイルス)のRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)など独自の複製タンパク質を生成するための指示が含まれています[10]。mRNAと同様に、+ssRNA(一本鎖RNA)ウイルスは、 宿主細胞のリボソームによりただちに翻訳され、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を細胞に取り込む必要はありません。dsRNA(二本鎖RNA)、-ssRNA(ネガティブセンス一本鎖RNA)やアンビセンスゲノムのRNAウイルスについては、転写を行うために、独自のRdRpタンパク質を細胞内へ送り込まなければなりません。ウイルスゲノムの種類に応じて、RdRP、RNA依存性DNAポリメラーゼ、DNA依存性RNAポリメラーゼ、およびDNA依存性RNAポリメラーゼなどさまざまなポリメラーゼが生成されます[11]。これらのポリメラーゼは抗ウイルス剤の標的であることが多く、リボヌクレオシドまたはデオキシリボヌクレオシド類似体が効果的に組み込まれるので、クリックケミストリーを用いたウイルスRNAまたはDNA合成の検出が可能になります。リボヌクレオシド類似体5-エチニルウリジンは、Invitrogen Click-iT RNA Alexa Fluorアッセイを用いるウイルスRNA合成の研究に使用できます。デオキシリボヌクレオシド類似体5-エチニル-2'-デオキシウリジンは、Invitrogen Click-iTおよびClick-iT Plus EdU細胞増殖キットを使用するウイルスDNA合成の研究に使用できます。宿主細胞内の特異的なウイルスmRNAテンプレートは、Invitrogen PrimeFlow RNAアッセイキットを使用して調査し、Invitrogen Attune NxTフローサイトメーターを用いて、またはInvitrogen ViewRNA Cell Plusアッセイキットを使用してアッセイすることもできます。また、EVOS Onstageインキュベーターを備えたInvitrogen EVOS M7000イメージングシステムまたはHCA Onstageインキュベーターを備えたThermo Scientific CellInsight High-Contentスクリーニングプラットフォームのいずれで画像化できます。
図2.ウイルスゲノムを宿主細胞内に放出する方法。(A)ライノウイルスなど特定のウイルスは、増殖してエンドソーム内に細孔を形成し、それを介してウイルスゲノムが脱出できます。(B)インフルエンザやその他のウイルスは、ビリオン外被とエンドソーム膜の融合を誘導し、ウイルスゲノムを放出します。(C)レオウイルスなど多くのウイルスは、複製のためのホームベースとして機能するサイトゾル内に部分的に無傷のカプシドを維持します。
図3.いくつかのウイルスは、ウイルスの転写や複製が起こるようにするため、それらのゲノムを核に輸送しなければなりません。インフルエンザのゲノムセグメントは、核膜孔を通って核内に輸送されます。ヘルペスウイルスカプシドは微小管に沿って核膜孔に輸送され、そこで脱外被が起こります。アデノウイルスカプシドは核膜孔で分解し、ウイルスDNAは核内に輸送されます。B型肝炎ウイルスなど他のウイルスは十分に小さく、カプシド全体が核膜孔を通過する場合があります。
核酸ゲノムおよび他の必須タンパク質が、1つまたはいくつかの翻訳されたウイルスタンパク質から組み立てられたカプシド内にパッケージされた後、ウイルス複製の最終ステップである成熟と放出が起こります。成熟とは、感染性ウイルス粒子をもたらす未成熟ビリオン内の最終的な変化を指します。構造的なカプシドの変化がしばしば関与し、これらは宿主酵素またはウイルスにコードされた酵素により媒介される場合があります。この成熟ステップの後、ウイルスは出芽または溶解のいずれかにより宿主細胞から放出されます。インフルエンザA型やSARS-CoV-2などの細胞変性ウイルスは、ビリオンを含む小胞が宿主細胞の原形質膜と融合した後、エキソサイトーシスまたは細胞外への新しいウイルス粒子の出芽を起こします(図4)。このプロセスには、エンドサイトーシスのリサイクルや分泌経路、および一般的にRab11経路が伴います[12]。大痘瘡/Variola major(天然痘)などの細胞溶解性ウイルスは細胞膜を破り、続いて宿主細胞を死滅させ、新しいウイルス粒子を放出します。
図4.ヌクレオカプシドの形成と成熟ビリオンの形成。ウイルスの構造タンパク質の産生後、ヌクレオカプシドは細胞質内で組み立てられ、小胞体(ER)–ゴルジ中間区画の内腔に出芽します。次に、ビリオンはエキソサイトーシスにより感染細胞から放出されます。
ウイルスとその宿主細胞の相互作用の画像化
ウイルス研究の進歩のための蛍光アッセイ。
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