革新的なCRISPR-Cas9技術は、ゲノム編集の分野に革命を起こしています。 高度に柔軟的かつ特異的なターゲッティングが可能なCRISPR-Cas9システムは、幹細胞工学、遺伝子治療、組織・動物疾患モデル、疾患耐性トランスジェニック植物工学などの幅広い応用において、ゲノム編集の強力なツールとなるよう改変・方向転換することが可能です。サーモフィッシャーサイエンティフィックの専門家は、ゲノム編集を始める、または研究の継続的改善をサポートするために、このリソース集を作成しました。

CRISPR技術とは?

CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)およびCRISPR関連タンパク質9(Cas9)システムは、細胞内で遺伝子配列を直接変更するためのシンプルで迅速かつ効率的な手段です。CRISPR-Cas9システムは、単純な細菌免疫系の構成要素に由来したもので、さまざまな細胞においてターゲット遺伝子の切断および遺伝子編集を可能にします。

CRISPR-Cas9システムのエンドヌクレアーゼ切断特異性はRNA配列によって導かれるため、ガイドRNA(gRNA)配列を改変してCas9エンドヌクレアーゼとともに標的細胞に導入することにより、実質的にほぼすべてのゲノム遺伝子座に編集を行うことができます。

CRISPRはどのように機能しますか?

CRISPR-Cas9システムは、短いノンコーディングgRNAとCas9ヌクレアーゼで構成されています(図1)。gRNAには2つの分子コンポーネント、すなわち標的特異的CRISPR RNA(crRNA)と補助的なトランス活性化crRNA(tracrRNA)があります。gRNAユニットは、Cas9タンパク質を特定のゲノム遺伝子座に誘導し、Cas9ヌクレアーゼが特定のゲノム標的配列で二本鎖の切断を誘導します(図2)。

細菌では、CRISPR遺伝子座は、スペーサーと呼ばれる外来性DNAのセグメント(長さ約30 bp)で区切られた一連の繰り返し配列で構成されています。リピート・スペーサー配列は長い前駆体として転写され、リピート配列内で処理されて、Cas9ヌクレアーゼによって切断されるターゲット配列を特定する小さなcrRNA(プロトスペーサーとも呼ばれる)を生成します。そして、CRISPRスペーサーは、DNAレベルで外来性遺伝要素を認識してサイレンシングさせるために使用されます。

重要なことは、切断が起こるためには、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列として知られる、ターゲット領域の3'末端のすぐ下流にある特定の3塩基配列が存在する必要があることです。 このPAM配列(Cas9ではNGG)はターゲットDNAに存在しますが、それを標的とするgRNAには存在しません。

CRISPR-Cas9を使用したDNA切断の後、細胞に自然に備わっている2種類の修復機構のいずれかによって二本鎖切断を修復できます(図3)。

  1. 修復テンプレートがない場合、非相同末端結合(NHEJ)プロセスにより、gRNAで定義された切断部周辺に異なる挿入または欠失(indel)を持つ異種細胞集団が形成されます。このプロセスを利用して、特定の配列の周りにランダムな欠失を持つ細胞株を生成し、機能的なノックアウトを実現することができます。
  2. あるいは、修復テンプレートが提供されている場合、エラーのない相同組み換え修復(HDR)機構を介して、ゲノム内の特定の遺伝子座にユーザー定義の配列変更を導入できます。このプロセスを利用することで、新規遺伝子の過剰発現、疾患関連細胞モデルの作製、報告可能部分を持つ内因性遺伝子へのタグ付けが行えます。

CRISPR-Cas9 技術の利用を成功させるためのヒントとコツ

ゲノム編集ワークフローにCRISPR-Cas9を選択する場合には、このシステムを用いたゲノム編集の効率に影響を及ぼす要因を理解しておくことが必要です。切断に使用するヌクレアーゼのフォーマットやgRNA、細胞内に最も効果的に分子を導入するトランスフェクション方法、結果の適切な検証のためのゲノム編集の検出に必要なアッセイなど、実験の設計を考慮することが重要です。

デザインと構築導入検出とバリデーション

実験をデザインする際に考慮すべきポイント:

  • すべてのターゲットに対して3つのgRNAを設計して試験する
  • バイオインフォマティクス解析を行い、予測されるオフターゲット効果を最小限に抑えたgRNAを選択する
  • 初期構成エクソンをターゲットにし、ノックアウト実験のためにリーディングフレームを破壊する
  • ノックイン実験では、切断部位が編集部位にできるだけ近いことを確認する
  • 実験に最適なCas9ヌクレアーゼを選択する

細胞のトランスフェクションを行う際に考慮すべきポイント:

  • 開始時の細胞密度と細胞健全性を最適にする
  • 細胞へのトランスフェクションに最適な方法を理解する:脂質、エレクトロポレーション、またはウイルス
  • 複数の分子を導入する場合、その量の比率を最適化する
  • トランスフェクション効率とCas9活性をテストするため、検証済みのコントロールgRNAをトランスフェクションする
  • ノックイン実験でCas9がアクティブなときに存在するように修復テンプレートを導入する

編集を検出する際の考慮すべきポイント:

  • ゲノム切断検出(GCD)アッセイにより、gRNAの切断効率を迅速に確認する
  • ダウンストリームアプリケーションに適した検出方法を選択する
  • 遺伝的に均質な集団が必要な場合は、クローンを分離する
  • インデルベースのノックアウトに最も効果的なgRNAは、通常、ノックインに最も効果的なgRNAであることを理解する
  • ターゲットシーケンスを用いて、オフターゲット編集がないことを確認する

利用可能なCRISPR技術

サーモフィッシャーサイエンティフィックは、ゲノム編集実験に用いるための充実した試薬製品をご用意しています(図4)。これらのゲノム編集ソリューションは、アプリケーションと細胞の種類に基づいて、最適な細胞培養試薬、導入方法、解析ツールと組み合わせて使用できます。

Cas9ヌクレアーゼとgRNAのフォーマットを示した図
図4.利用可能なCRISPR-Cas9ヌクレアーゼおよびgRNAフォーマット

CRISPR関連ツールおよびリソース


For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.

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