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前回までは、エキソソーム中のRNA Cargoの解析について説明しました。ここでは、エキソソーム中のProtein cargoの解析法として、一般的なタンパク質解析の手法であるWestern blotting法を紹介します。この方法は、よく利用される技術ではありますが、注意も必要です。実験を始める前に、以下の点をご確認ください。
(1) ロードするサンプル量
“パート1: エキソソームの濃縮・回収”で調製したペレットサンプルを使用します。プロトコールに従って電気泳動用Buffer に懸濁し、泳動します。
エキソソームに含まれるProtein cargoの量は非常に少ないと予想されるので、初期実験ではできるだけ多めにサンプルを添加し、さらに量を変化させて、最適なアプライ量を検証してください。
注意:タンパク質濃度を測定する場合もありますが、パート1で回収されたサンプル中には、体液や細胞内コンパートメント(小胞体やミトコンドリアなど)由来のタンパク質が含まれているので、必ずしもエキソソーム由来のタンパク質の量を正確に反映していないので、注意が必要です。
(2) マーカータンパク質の選択と注意
エキソソーム膜表面に存在するテトラスパニン類(CD63, CD81, CD9)が、エキソソームマーカーとして広く利用されています。エキソソーム回収のチェックやWestern Blotting 条件の検討に、これらのマーカーが使用されています。
注意:図1で示すように、由来する細胞によってマーカータンパク質の発現量が大きくばらつき、ほとんど検出されないケースもあります。マーカータンパク質についても複数検討することをおすすめします。
図1 エキソソームマーカータンパク質に対するwestern blotting解析
4種類のB-cell ヒト リンパ腫細胞株(Ramos, SUDHL-4, SUDHL-6, Ros-50) と ヒト結腸癌由来細胞株(SW480 )の培養上清から回収したエキソソーム濃縮サンプル(pre-enriched exosomes)および細胞ライセートを、エキソソームマーカー(CD63, CD81, CD9)を用い、Western immunoblotting解析を行いました。 Oksvold et al. Clinical Therapeutics/Volume 36, Number 6, 2014 より抜粋
(3) Western Blotting条件の検討
ターゲットタンパク質のサイズによって、適切なゲルを選択する必要があります。また電気泳動では、還元か非還元条件か、変性か非変性のいずれかが適しているかは、利用する抗体によって異なります。抗体を購入したメーカーが推奨する条件を予めご確認ください。
(4) 抗体の選択
基本的にどのようなタンパク質に対する抗体も利用できます。ただし使用する抗体は1種類ではなく、2~3社から販売されているものをテストすることを勧めします。抗体濃度は十分に留意してチェックしてください。また抗体は新しいものを使用し、保存条件にもご留意ください。
(エキソソームマーカーの検出)
サーモフィッシャーサイエンティフィックからは、エキソソームマーカータンパク質の1次抗体として以下の製品をラインナップしています。
図2は、これらの1次抗体を用いてWestern blottingを行った場合のサイズをまとめています。
注意:これらの抗体を用いてCD63, CD9, CD81 を検出する場合は、非還元条件で電気泳動します。
図2 弊社抗体を使ったエキソソームマーカータンパク質のwestern blotting
右からExosome CD63 Antibody (製品番号:10628D), Exosome CD9 Antibody (製品番号:10626D) Exosome CD81 Antibody (製品番号:10630Dを用いてWestern blottingを行いました。CD63はグリコシル化(糖化)されており、電気泳動するとスメアーな像になります。
(5) 検出方法の選択
検出方法として、主に発光検出(Chemiluminescence detection) と発色検出(Colorimetric detection)があります。
Protein cargo の量は非常に少ないので、予めより感度の高い検出系を選択することが重要です。Protein cargo解析には、発光検出をベースとしたHRP( 西洋ワサビ) またはAP(アルカリフォスファターゼ)を選択してください。一般的に、HRP検出系では、fg~pgレベルの超微量なターゲットタンパク質を検出でき、AP検出系では、最大10pg 程度まで検出が可能です。
注意:最終的な検出感度は、ご利用になった1次抗体・2次抗体の力価や量によって異なってきます。確実な結果を得るために、予めご利用になる1次抗体・2次抗体の力価の確認や抗体濃度の最適化を行って頂くことをお勧めします。
(電気泳動ゲル)
基本的には、 ターゲットタンパク質検出に適した電気泳動ゲルを自由に選択できます。
弊社製品を使う場合、CD63, CD9, CD81などのエキソソームマーカータンパク質では以下の電気泳動ゲルが適しています:
*上記のカタログ番号のゲルは、厚さ1mm、12wellsタイプのミニゲル(10枚入り)です。電気泳動には専用のタンク( XCell SureLock® Mini-Cell, cat# EI0001)が必要です。
(電気泳動バッファー)
MESまたはMOPS SDS Running Buffer で電気泳動します。ターゲットタンパク質が低分子の場合は、MES bufferの方が適しています。以下のStock試薬を1×の濃度の希釈して使用します:
Novex® Tris-Glycine SDS Running Buffer (10X) (製品番号:LC2675)
(タンパク質のサイズマーカー)
BenchMark™ Pre-Stained Protein Ladder(製品番号:10748-010)が利用可能です。
(一次抗体)
(エキソソームマーカーを検出する場合)
弊社から販売している 以下のエキソソームマーカー抗体を用いる場合、変性/非還元条件で電気泳動を行ってください。
(その他のタンパク質を検出する場合)
基本的にどのようなタンパク質に対する抗体も利用可能です。
ただし使用する抗体は1種類ではなく、2~3社から販売されているものをテストすることをお勧めします。抗体濃度は十分に留意してチェックしてください。
その他の抗体をご利用になる場合は、最適なゲル条件(還元・非還元、変性・未変性ゲルななど)の検討を行われることをお勧めいたします。使用される抗体の製造元に推奨条件を確認してください。
(検出方法)
発光検出(Chemiluminescence detection)のご利用をお勧めしています。
エキソソームマーカータンパク質の検出では、以下のシステムを利用しています:
(スタートサンプル)
スタートサンプルは、試薬または超遠心法で回収したエキソソーム濃縮ペレットです。
ペレットの調製法は、パート1(エキソソームの濃縮・回収)を確認してください。
遠心で回収したペレットをWestern blotting 解析に適したBufferに懸濁します。
注意:エキソソームペレットが、すでに1×PBS等に懸濁した状態の場合は、2× もしくは5× RIPA Bufferの濃縮Bufferを使用してください。
2× Sample bufferを添加する(還元または非還元試薬)
2 × sample Novex® Tris-Glycine SDS Sample Buffer (2×)(製品番号: LC2676)のご利用をお勧めします。還元条件で処理する場合は、別途 NuPAGE® Reducing Agent (10×) (製品番号: NP0004)をご用意ください:
注意:弊社のanti-CD63, CD9, D81の抗体を使用する場合は、非還元条件で電気泳動してください。
注意:電気泳動の設定は、選択された電気泳動条件によって異なります。選択された条件で推奨される条件で行ってください。
注意:サイズマーカーとして以下の製品が利用可能です:
BenchMark™ Pre-Stained Protein Ladder(製品番号: 10748-010)が利用可能です。
トランスファー
電気泳動後のゲルをPVDFメンブレンへトランスファーします。
トランスファーの方法は、一般的な方法で行います(セミドライ式、タンク式など)。
参考: iBlot® 2 Gel Transfer Device(製品番号: iIB21001)を使用すれば、トランスファーは7分間程度で完了します。
ブロッキング
*1: TBS-T Buffer:25mM Tris HCl, 0.15M NaCl, 0.05% Tween-20, pH7.2
*2: 5%スキムミルク/TBS-T や、SuperBlock Blocking Buffer(製品番号:37516, 37536)などが使えます。
希釈済みの1抗体液にメンブレンを移し、2~8℃で overnight インキュベートします。
以下のエキソソームマーカーの抗体を使用する場合は、それぞれ以下の濃度になるようにBlocking bufferで希釈して使用します:
重要:抗体濃度は、使用する抗体、抗原、転写メンブレンなど、ウェスタンブロティングの条件によって異なります。最適な抗体濃度を検証実験を行って頂くことをお勧めします。
Wash Bufferでメンブレンを簡単に2回洗浄します。
Wash Bufferを入れた容器内でメンブレンを5分間振盪します。Wash Bufferを交換し、この操作を4~6回繰り返します。
注意:Wash Bufferの液量や洗浄時間、回数によってバックグラウンドの軽減が図れます。
希釈済みの2次抗体溶液にメンブレンを移し、室温で1時間振盪します。
重要:2次抗体の希釈倍率は使用するHRP標識抗体の力価、使用した1次抗体によっても異なってきます。
なおSuper Signalを用いる場合は、以下が一般的な2次抗体の希釈率(濃度)になります。こちらをベースに最適化を行ってください:
◎ SuperSignal West Femto
1:100,000~1:500,000 (2.0~10 ng/mL)
◎ SuperSignal West Dura
1:50,000~1:250,000 (4.0~20 ng/mL)
メンブレンをWash Bufferに移し、室温で5分以上振盪します。
1回に使用するWash Bufferの量を多めすると洗浄効率が良くなります。Wash bufferは4~6回交換します。
検出試薬の調製:
SuperSignal kit付属のLuminol / Enhancer Solution と Stable Peroxide Solutionを等量ずつ混合します。溶液量はメンブレン全体が均一に浸る程度の量(メンブレン1cm2当たり0.125mL以上)を用意します。
メンブレンを検出試薬に移し、5分間振盪します。
メンブレンを検出試薬から取り出し、ラップで包みます。
ラップとメンブレンの間に気泡が入らないようにします。
イメージャーを用いて、バンドの検出する場合:
Thermo Scientific myECL Imager (製品番号:62236) を使うと、X線フィルムより感度の高い検出が可能です。
X線フィルムを用いて検出する場合:
メンブレンの表面(タンパク質がトランスファーされた面)の上にX線フィルムをセットし、1~10分間、露光します。
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