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高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、広範に用いられている分析化学の手法の1つで、化学物質の混合物の成分を分離する用途で使用されます。こうした分離では加圧駆動式のフローを利用して、固定相が充填されたカラムに液体の移動相を通過させます。
液体サンプルは移動相によってカラムから検出器に運ばれ、分析対象物や化合物は固定相との相互作用の差異に応じて分離します。
検出器はカラムから溶出後の分析物を測定し、クロマトグラフィーデータシステム(CDS)は検出された信号を変換します。
こうして変換されたデータ出力はHPLC分析においてクロマトグラムと呼ばれます。x軸は測定時間を示し、y軸は検出器によって取得された個々の信号の強度を示しています。
分析物 – HPLC分析での検出対象とするターゲット化合物
移動相 – 注入から検出までのフローにおいて移動を司る相のことで、構成成分は溶媒ないし溶離液
固定相 – 静止している側の相のことで、ここで分析物が物理的に分離される
流速 – 移動相がどれだけ速く流れるかを時間に対して示した尺度
保持時間 – クロマトグラムでのサンプル注入から分析物の最大ピーク信号が出現するまでの時間
カラム効率 – 分離パフォーマンスを定量化する際の重要な指標の1つで、理論段数として与えられる
分解能 – ピーク間をどれだけ細かく識別できるかの能力で、分離における最も重要な要件
選択性 – 異なる2つの分析物を分離する能力
ボイドボリューム – カラム内で固定相に占有されていない全容量
検出限界 – 確実に検出できる分析物の最小量
定量限界 – 確実に定量できる分析物量の下限ないし上限
Mikhail Tsvetは、初期のクロマトグラフィー手法の発明者と見なされています。同氏はイタリアの植物学者であり、最初はロシアで働き、その後ポーランドのワルシャワ大学で助教授になり、そこで植物の色素を分離する方法を1903年に開発しました。今日では世界中のラボがHPLCを使用して、液体サンプル中の不揮発性および半揮発性成分の同定と定量を行っています。
通常のHPLC装置は、主にポンプ、オートサンプラー、カラムコンパートメント、検出器という4つのハードウェアで構成されています。追加の要素としては溶媒とCDSパッケージも存在し、これらに接続キャピラリーとチューブを加えることで、移動相とサンプルがシステム内を連続的に流れるようにします。
どのようなHPLC分析も以下のステップで進行します。
移動相のフロー開始。ポンプにより溶離液ないし溶媒を押し出すことで、システム中を所定の流速で移動させます。
サンプルの注入。移動相が流路に注入されると、サンプルも移動相とともに移動して、注入ポイントからカラムのヘッドまで流れます。
化合物の分離。カラムの固定相では、化合物の物理的な分離が進行します。カラムでの溶出後、分離されたサンプル成分は検出器に移動します。
分析物の検出。ターゲット分析物の検出は、個々の特性に応じて生成される電気信号を基に実行されます。
クロマトグラムの生成。検出された分析物の信号はCDSによって、分析物信号の時間変化を示すクロマトグラムに変換されます。
HPLCでの分離に対しては、移動相の組成、固定相の化学的特性、温度など多くの要因が影響します。分離が成功するのは固定相に対する親和性が分析対象物の間で異なる場合のみであるため、取り扱う化合物ごとに適切な固定相を選択することが重要です。分離プロセス全体に影響を与える要因には、主として次のものがあります。
すべてのHPLC分離は、アイソクラティックまたはグラジエントのいずれかのモードで実行されます。
アイソクラティックのメソッドでは、分析中に使用する溶離液の組成は不変で、具体的には100%アセトニトリルやアセトニトリルと水の50:50混合物などが利用されています。
これに対してグラジエントのメソッドでは、分離のプロセス全体で移動相の組成を変化させます。多くの場合こうしたメソッドでは、2つの溶媒が使用されます。この溶媒をAとBと呼びます。AとBの比率を特定のパーセンテージ(たとえば水60%とアセトニトリル40%など)にしてランを開始し、分離プロセス全体を通じてこのパーセンテージを変化させていきます。
一般的にグラジエント分離はアイソクラティックモードよりもパフォーマンス的には優れていますが、機構的にはより複雑で、高度なポンプハードウェアが必要です。
化合物の種類には限りがなく、分析対象となる物質の構造も非常に多様である以上、HPLCも決して万能のアプローチではありません。ここに一覧したリストには、ナノスケールから分取スケールでの分離においてもっとも一般的なHPLC手法と、その適用対象がまとめてあります。
高速液体クロマトグラフィーは、圧力700バール未満で実行され、流量の範囲は1~2 mL/minです。標準HPLCは、各種の業界でもっとも広範に使用されている液体クロマトグラフィーのタイプです。
超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)は、1,000バールを超える圧力を使用し、流量範囲は0.2~0.7 mL/min (英語)です。このように圧力範囲を高めることで、標準のHPLCシステムよりも分解能と感度およびスループットが向上し、溶媒使用量が抑制されます。UHPLCは従来のHPLCの機能を向上させたもので、ユーザーはより小さな内径のカラムと粒子を活用し、分析速度を高速化できます。
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)では、従来用いられてきたUV-Vis検出器などの光学検出器の代わりに質量分析計を利用しています。ここでは、分析物の光学特性ではなく質量電荷比が測定されます。
低流量液体クロマトグラフィーには、ナノ、マイクロ、キャピラリーのフローレンジが存在します。その範囲は数nL/minから50 µL/min程度であり、これに附随してカラム内径を小さくできるため感度が向上し、分析物バンドの希釈も低減できます。通常こうした分析は質量分析と組み合わせて利用されますが、その理由は流量とエレクトロスプレーイオン化効率が反比例の関係にあるためで、これによりメソッドの感度を大幅に向上させることができます。
分取および半分取液体クロマトグラフィーは、薬物および多量の化学成分の大規模な精製に適しています。分取LCに用いるカラムは精製するサンプルの量に応じて異なりますが、一般的な内径は4.6 mm以上で、高流量のmL/minで作動させます。
二次元液体クロマトグラフィー(2D-LC)は、先進的な分離手法の1つで、サンプル通過を単一カラムで済ませるのではなく、2つの相補的カラムケミストリーを連結させて多次元分離を実施します。このタイプのクロマトグラフィーには3種類の2D-LCメソッドが存在し、複数カラムの選択性を利用したサンプル分解能の向上が可能です。
包括的2D-LC。サンプル全体が1次元(¹D)カラムで分離された後、後続の相補的な2次元(²D)カラムで第二の分離が実施されます。
ループハートカット2D-LC。1次元(¹D)カラムでカットアウトされた特定の溶離液分画が、サンプルループを用いて相補的な2次元(²D)カラムへ自動的に転送されます。
トラップハートカット2D-LC。1次元(1D)カラムからの単一の溶離液分画をトラップカラムへ自動的にカットアウトさせることができます。トラップメソッドでは、低濃度分析種の事前濃縮が可能です。さらに、分画の2次元(2D)カラムへの溶出前に溶媒の非適合性問題を解決することで、溶出が困難なピークや共溶出ピークに対処できます。
デュアル液体クロマトグラフィーはマルチチャネルHPLCメソッドの一種であり、単一システム中で2つの独立した流路を使用することで、2つの分析を同時に実行できます。これらのHPLCシステムでは2つのポンプを始め、2つの独立した溶媒経路、オートサンプラー内に2つの注入ユニット、そして2つの検出器を使用しますが、設置面積は単一HPLCシステムと同等で済みます。
タンデム液体クロマトグラフィーは、2番目のポンプとインテリジェント化されたカラムスイッチングを使用するテクニックで、カラムのリコンディショニングに附随するダウンタイムを最小化することで検出器の使用率を最大化します。タンデムグラジエントのセグメントは、主として次の2つのパートを経過します。ポンプ1が分析グラジエントをカラム1に供給し、その間にポンプ2はリコンディショニングを実施します。次に、ポンプ1は分析グラジエントをカラム2に供給し、その間にポンプ2はカラム1のリコンディショニングを実施します。
グラジエント溶出における有機組成の変化は、荷電化粒子検出や複雑な分析など、一部の検出器での分析物の応答を変動させる可能性があります。逆グラジエントでのポストカラムアプリケーションによる補正は、この影響を排除するためのものです。そこでは、検出器に流入する溶離液が正確な溶媒組成を保っていることを、グラジエント分離全体を通じて確認します。
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