要旨

パート4では、特定のタンパク質をターゲットとして、免疫吸着法による追加の分画法を紹介しています。前回は、細胞から分泌される小胞体について概説し、サブタイプ分画に使用するエキソソームマーカーの候補についてご紹介しました。サブタイプによる分画は、それ以降のアプリケーションによって回収方法が分かれます。今回は、Western / qRT-PCR / Sequencing解析用のエキソソームサブタイプの回収について説明します。


プロトコール

Ⅰ. Western / qRT-PCR / Sequencing解析用

ヒトCD9陽性エキソソームの回収

製品の概要

  • Exosome-Human CD9 Isolation Reagent (from cell culture, human) は、エキソソーム濃縮サンプルから、さらにCD9 陽性のヒト由来エキソソームサブセットを回収する試薬です。
  • 回収されたエキソソームは、ウェスタンブロット解析、qRT-PCR解析、シーケンスなどのアプリケーションに利用できます。
  • Dynabeads® magnetic beads は、均一な超常磁性のポリスチレンビーズ(直径2.7μm)で、多くのエキソソーム(ヒト)で発現しているCD9 membraneに対する特異的なモノクローナルの1次抗体がコートされています。
    操作は簡単で、Dynabeads® magnetic beadsをサンプルに添加し、一晩インキュベートすることで、膜表面にCD9を持つエキソソームとビーズを結合させます。その後マグネットでビーズを回収することで、CD9 陽性のエキソソームのみを分離・回収します。

操作に必要な機器・試薬

以下のご用意があるかを確認した上で実験をスタートしてください。

  • Total Exosome Isolation (from cell culture) 試薬(製品番号:4478359) を用いて回収したエキソソーム濃縮サンプル
    注意: 現在、利用できるのは培養上清由来のエキソソーム濃縮サンプルのみです。
    体液由来のエキソソーム濃縮サンプルはご利用いただけませんのでご注意ください。
  • Isolation Buffer (PBS + 0.1% BSA, 0.2μmフィルター滅菌済)
  • Magnetic separator :DynaMag™-2 (製品番号: 12321D)または DynaMag™-5 (製品番号:12303D)
  • スクリューキャップ付き 2mL-チューブ (Sarstedt社、製品番号:72.664など)
  • HulaMixer® Sample Mixer (製品番号:15920D)

エキソソーム濃縮サンプルの調製

Total Exosome Isolation (from cell culture) 試薬(製品番号:4478359)*1 、または超遠心法 で回収したエキソソーム濃縮サンプル(pre-enriched exosome sample) を予め調製しておきます。
*1: 始めよう!エキソソーム研究vol.2「パート1:エキソソームの濃縮・回収」 を参照ください。

スタートサンプルのエキソソーム濃縮サンプル(pre-enriched exosome sample)量は、タイトレーションして適切なスタート量の検討を行うことをお勧めします。

(タイトレーションの例)
10mLの培養上清から回収したペレットを、200μLのbufferに懸濁したエキソソーム濃縮サンプル(50倍濃縮)として予め調製しておき、以下のようにスタート量を変えて、以後のアプリケーションに十分なエキソソームを回収できているか、また、不足する場合はどれぐらいスケールアップすべきかを検討します。

最初は、10μL分(培養上清500μL分相当)を基準とし、必要に応じでスケールアップを検討することをお勧めします。

Table 1. スタートサンプル量に応じた試薬量
10μLのエキソソーム濃縮サンプルからスタートした場合を赤枠で囲んでいます。

注意: このプロトコールを使用し、最大で5mLまでスケールアップできます。
ただし添加するDynabeadsや洗浄時に添加するIsolation bufferは、スタート量に比例してスケールアップしてください。

CD9 positive exosome isolation
10μL-エキソソーム濃縮サンプルを処理する場合

以下は10μLのエキソソーム濃縮サンプルをスタート量とした場合のプロトコールです。
必要に応じてスケールアップおよびスケールダウンを行えます。

(1日目)
I. Exosome-human CD9 isolation beadsの調製

  1. バイアル中のビーズをミックスし、均一にします。
    Roller(ローラー式攪拌機)を用いた場合: 10分間以上
    ボルテックスミキサーを用いた場合: 30秒間
  2. 1mLのIsolation Bufferを分注したチューブに(1)のbeadsを40μL添加し、ミックスします。
  3. magnetic separatorに(2)のチューブをセットし、1~2分間インキュベートし、ビーズがチューブ壁面に集まったことを確認し、上清を除きます。
Magnetic separator DynaMag™-2 (製品番号: 12321D)

II. エキソソーム濃縮サンプル からCD9 陽性のエキソソームをビーズへ吸着

注意: このプロトコールを使用し、最大で5mLまでスケールアップできます。
ただし添加するDynabeadsや洗浄時に添加するIsolation bufferは、スタート量に比例してスケールアップしてください。

  1. チューブを magnetic separator から外し、90μLのIsolation Bufferを添加します。
    注: 添加するisolation Bufferは処理するエキソソーム濃縮サンプルによって加減します。
    エキソソーム濃縮サンプル量との合計量が100μLになるようにIsolation Bufferを添加 します。(Table.1参照)
  2. 10μLのエキソソーム濃縮サンプルを添加し、ミックスします。
  3. マイクロチューブミキサーにセットしてミックスしながら、2~8℃で一晩インキュベートします。
    例 ) HulaMixer® Sample Mixer (製品番号: 15920D)を使用した場合の設定条件:

(2日目)
III.   ビーズに吸着した CD9 陽性エキソソームの回収

  1. サンプルチューブを1~2秒間遠心し、チューブ壁についたサンプルを集めます。
  2. 1mL- Isolation Bufferを添加し、ピペッティングで穏やかにミックスします(ボルテックスミキサーは使わないこと)。
  3. magnetic separator にチューブをセットして1~2分間置きます。ビーズがチューブ壁面に集まったことを確認して、上清を除きます。
  4. チューブを magnetic separator から外し、0.5mL – Isolation Bufferを添加してピペッティングで穏やかにミックスします(ボルテックスミキサーは使わないこと)。
  5. magnetic separator にチューブをセットして1~2分間置きます。ビーズがチューブ壁面に集まったことを確認して、上清を除きます。
    CD9 陽性のエキソソームがビーズに結合した状態で回収されます。 ビーズに吸着した状態のまま、
    Western解析およびリアルタイムPCR解析用のサンプル調製へ進みます。

*CD9  陽性エキソソーム回収後のWestern解析については、PDFをご参照ください。
参照PDF:ヒトCD9陽性エキソソームの回収とウェスタン解析

*CD63 、CD81、EpCAM 陽性エキソソーム回収後とその後のWestern解析については、下記PDFをご参照ください。
参照PDF:ヒトCD63 陽性エキソソームの回収
参照PDF:ヒトCD81 陽性エキソソームの回収
参照PDF:ヒトEpCAM 陽性エキソソームの回収
参照PDF:他のタンパク質マーカーエキソソームの回収


実験結果の考察

  1. Dynabeads™ Beadsに吸着されるエキソソーム
    エキソソームは非常に微小な小胞体ですが、 Dynabeads Beadsに吸着したエキソソームは電子顕微鏡で観察できます(図1)。
※画像をクリックすると拡大図をご覧いただけます。

図1. Dynabeads Beadsに吸着したエキソソーム
Q = exosome
Scale bar = 500nm

  1. Western解析
    タンパク質カーゴは非常に微量です。アプライするサンプル添加量は事前に最適化しますが、できる限り多くのサンプルをロードすることがポイントです。
    CD9, CD81, CD63 のような発現レベルの高いタンパク質の検出は比較的容易ですが、ターゲットのタンパク質カーゴを検出する場合は特に注意が必要です。
  • どれぐらいのサンプル量で検出可能か?
    図 2は超遠心法で調製したエキソソーム濃縮サンプルを用いた例です。マニュアルのタイトレーション法で15μL分全量をアプライしています。CD9, CD81ともにクリアに検出できました。
    またエキソソーム濃縮サンプルの調製方法を比較した結果が図3です。超遠心法(UC)とTotal Exosome Isolation (from cell culture) (Prec)を比較していますが、CD9 の検出レベルでは同等以上の感度となっています。

図2. エキソソームマーカー(CD81、CD9)の検出結果 :
SW480 細胞 培養上清をサンプルとして、10mLの培養上清から超遠心法で回収したペレットを、200μLのbufferに懸濁してエキソソーム濃縮サンプル(50倍濃縮)とし、ここから15μL分をCD81陽性=CD8陽性(A)、CD9陽性=CD8陽性(B)の エキソソームとして回収後、全量をwestern blotで検出しました(Lanes 1~3)。Cはエキソソーム濃縮サンプル7.5μLをアプライした結果です。

図3. エキソソーム濃縮サンプルの調製法による違い
SW480 細胞培養上清をサンプルとして、 CD9 の検出レベルを超遠心法(UC)とTotal Exosome Isolation (from cell culture) 試薬(Prec)法で比較しました。

  • エキソソームマーカーは常に一定に発現しているのか?
    CD9, CD81, CD63 などのエキソソームマーカーと呼ばれるタンパク質は、細胞株のタイプによってその発現レベルは大きく異なるケースがあります。
    図3ではSW480 細胞の他にJurkat 細胞を用いた結果を示していますが、CD9の発現がまったく確認できていません。
    さらに図4では、SW480細胞およびB細胞リンパ腫細胞株(Ramos, SUDHL-4, SUDHL-6, Ros-50)でエキソソームマーカーを比較していますが、細胞株によってその発現レベルはまったく異なることが確認できます(1)。

図4. B細胞リンパ腫細胞株由来のCD63 陽性およびCD81 陽性 サンプル中のエキソソームマーカー発現レベル
(A) SW480 およびB細胞リンパ腫細胞株(Ramos, SUDHL-4, SUDHL-6, Ros-50)の培養上清から回収した小胞体サンプルを免疫吸着法によってCD63 陽性エキソソームとして回収し、Western 解析でCD9, CD81, CD63 を検出しました。(B)は同様にCD81陽性エキソソームで回収後、 Western解析で検出しています。

  1. RNA cargo の検出は可能か?
    可能です。ただProtein cargo 同様に非常に微量であるため、ターゲットのRNAの検出に対して、どれぐらいのサンプル量が必要かを検証する必要があります。
    図5ではSW480細胞から回収したエキソソームサブタイプのRNA cargo をリアルタイムPCRを用いて検出した結果です。

参考文献

(1) Morten P. Oksvold et al. 2014. Expression of B-Cell Surface Antigens in Subpopulations of Exosomes Released From B-Cell Lymphoma Cells. Clin Ther. 1;36(6):847-862.[PubMed]


本パートで使用した製品一覧