要旨

最新の高分離能型フローサイトメトリーでは、ナノサイズの小胞体(免疫標識済)を定量的に解析可能と報告されていますが(1, 2)、一般的なフローサイトメトリーでは300nm以下の小胞体を単独に検出することは難しく、100nm以下の微細なエキソソームの解析には工夫が必要です。

ここでは、エキソソームサブタイプを回収するために使用したDynabeads® magnetic beadsにエキソソームが吸着された状態で検出を行う方法を紹介します。この方法では、強力な蛍光シグナルを得るために、ビーズ表面に十分量のエキソソームが吸着されている状態でフローサイトメトリーにロードする必要があります。そのためサブタイプ回収の際に添加するビーズ濃度を低く抑える必要があります。

実際、前回の“Western / qRT-PCR / Sequencing 解析用のエキソソームサブタイプ回収用のプロトコール”とは添加するビーズ濃度が大きく異なります。Western / qRT-PCR / Sequencing 解析用プロトコールでは回収されるエキソソームのトータル量が最大限で得られるように過剰量のビーズを添加してサブタイプの回収を行います。一方、フローサイトメトリー解析用のプロトコールでは、1個のビーズ表面に吸着されるエキソソーム量が最大になるように最適化されたビーズ濃度を採用します(図1-1)。また至適化したビーズ濃度によって、インプットするエキソソーム量に応じたシグナルが得られることも確認しています(図1-2) 。

1) Concentration of capture beads

2) Exosome input

図1. フローサイトメトリー解析に適したビーズ濃度の最適化
1)サブタイプ回収時のビーズ濃度とフローサイトメトリー解析のシグナル強度
フローサイトメトリー解析では強い蛍光シグナルが得られるように、ビーズ1個当たりに十分量なエキソソームサブタイプが吸着できるように最適化を行います。
エキソソームインプット量を一定にし、添加するビーズ量を変え、得られる蛍光シグナル強度を比較しました。

2)エキソソームインプット量に対するフローサイト解析のアウトプットシグナル(SN値)の相関性

具体的には、Exosome – Human CD9、CD81、EpCAM Flow Detection Reagent(from cell culture)では、ビーズ1個当たりに十分量なエキソソームサブタイプが吸着できるようにビーズ濃度が予め最適化されています。またExosome - CD63、Streptavidin Isolation / Dectionでは添加するビーズ量がフローサイトメトリー解析用に1/5量にされています。以後のアプリケーションによってサブタイプの回収プロトコールが異なるので、注意してください。

またフローサイトメトリー解析を行う場合、かならずアイソタイプコントロールなどのネガティブコントロールを設定し、非特異的なバックグラウンドの蛍光を測定し、より精度の高い測定を行ってください。図2ではCD81陽性エキソソーム解析の際のネガティブコントロール由来の蛍光の確認を行っています。ここでは、エキソソームを吸着していないビーズをCD81-PEで染色したもの(A)、エキソソームを吸着したビーズにアイソタイプコントロールで染色したもの(B)をネガティブコントロールとして設定しています。またポジティブコントロールとして、CD81陽性エキソソームを吸着した状態のビーズをCD81-PEで染色したもの(C)を設定しています。
FSC / SSCドットプロットは、前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)で展開することにより、どれぐらいの磁性ビーズが存在し、さらにどれぐらいがゲーティングされたかを確認しています。さらにシングレットで検出されたビーズ由来の集団をゲーティングし、ヒストグラム表示したところ、AおよびBは、同等の蛍光のプロファイルを示しています。このバックグラウンド蛍光は磁気ビーズ由来の自家蛍光によるものであることを示しています。

図2. CD81 陽性エキソソームのフローサイトメトリー解析例
Anti-human CD81をコーティングした磁気ビーズで回収したエキソソームをフローサイトメトリー解析した際のスキャッタープロットとヒストグラムデータです。 非特異的なバックグラウンドや蛍光ビーズ由来の自家蛍光のレベルをチェックするために、A:エキソソーム吸着していないビーズをCD81-PEで染色したもの、B:エキソソームを吸着したビーズにアイソタイコントロールでプ染色したもの、C:エキソソームを吸着したビーズにCD81-PEで染色したものをそれぞれフローサイトメトリーで解析を行っています。

FSC-A = forward-scattered light; PE =phycoerythrin; SSC-A = side-scattered light


プロトコール

Ⅱ. フローサイトメトリー解析用

ヒトCD9陽性エキソソームの回収とフローサイトメトリー解析

製品の概要

  • Exosome - Human CD9 Flow Detection Reagent(from cell culture)は、エキソソーム濃縮サンプルから、さらにCD9-陽性のヒト由来エキソソームサブセットを回収する試薬です。
  • 回収されたエキソソームは、フローサイトメトリー解析用に最適化されていますが、ウェスタンブロット解析、qRT-PCR解析、シーケンスなどのアプリケーションに利用することも可能です。
  • Dynabeads® magnetic beadsは、均一な超常磁性のポリスチレンビーズ(直径2.7µm)で、多くのhuman exosomeで発現しているCD9 membraneに対して特異的なモノクローナルの1次抗体がコートされています。
    操作は単純で、Dynabeads® magnetic beadsをサンプルに添加しovernightインキュベートすることで、膜表面にCD9を持つエキソソームとbeadsを結合させます。その後マグネットでbeadsを回収することで、CD9 positiveのエキソソームのみを分離・回収します。

操作に必要な機器・試薬

以下のご用意があるかを確認した上で実験をスタートしてください。

  • Total Exosome Isolation試薬(from cell culture)製品番号:4478359 を用いて回収したエキソソーム濃縮サンプル
    (注意:現在ご利用頂けるのは培養上清由来のエキソソーム濃縮サンプルのみです。体液由来のエキソソーム濃縮サンプルはご利用頂けませんのでご注意ください)
  • Assay Buffer(PBS + 0.1% BSA, 0.2µmフィルター滅菌済)
  • DynaMag™-2(製品番号:12321D)または DynaMag™-5(製品番号:12303D)Magnetic separators
  • スクリューキャップ付き2mL-チューブ(Sarstedt社、製品番号:72.664など)
  • HulaMixer® Sample Mixer(製品番号:15920D)

エキソソーム濃縮サンプルの調製

Total Exosome Isolation 試薬(from cell culture)(製品番号:4478359)*1 、または超遠心法を用いて回収したエキソソーム濃縮サンプル(pre-enriched exosome sample)を予め調製して置きます。
*1: 始めよう!エキソソーム研究vol.2「パート1:エキソソームの濃縮・回収」 を参照ください。

フローサイトメトリー解析用のエキソソーム回収では、処理するエキソソーム濃縮サンプル(pre-enriched sample)量の最適化が非常に重要です。
エキソソーム濃縮サンプル中にCD9 陽性のエキソソームが大量に含まれている場合、 Dynabeads® magnetic beadsの結合容量を超えてしまうケースがあります。
また逆にCD9 陽性エキソソーム量が少ないと、以後のフローサイトメトリー解析において、 Dynabeads® magnetic beads由来のバックグラウンドの蛍光シグナルによって解析ができなくなるという問題が生じます。

スタートサンプルとして用いるエキソソーム濃縮サンプル(pre-enriched exosome sample)量は、タイトレーションを行って適切なスタート量の検討を行うことをお薦めします。

(タイトレーションの例)
10mLの培養上清から回収したペレットを、200µLのbufferに懸濁したエキソソーム濃縮サンプル(50倍濃縮)として予め調製しておき、以下のようにスタート量を振って、以後のアプリケーションに十分なエキソソームを回収できているか、不足する場合はどれぐらいスケールアップすべきかを検討します。

最初は、10µL分(培養上清500µL分相当)を基準し、必要に応じでスケールアップを検討することをお薦めします。

注意:このプロトコールを使用し、最大で5mLまでスケールアップする事が可能です。ただし添加するDynabeadsや洗浄時に添加するIsolation bufferは、スタート量に比例してスケールアップしてください。

CD9 positive exosome isolation
10μL-エキソソーム濃縮サンプルを処理する場合

以下は10µLのエキソソーム濃縮サンプルをスタート量とした場合のプロトコールとなります。
1回の回収量は、single positive(シングルポジティブ)染色と、自家蛍光由来のバックグラウンドのコントロールの検出ができるようにデザインされています。

1日目
I. Exosome - human CD9 isolation beadsの調製

  1. バイアル中のビーズをミックスし、均一にします。
    Roller(ローラー式攪拌機)を用いた場合: 10分間以上
    ボルテックスミキサーを用いた場合: 30秒間
  2. 1mLのAssay Bufferを分注したチューブに(1)のbeadsを20µL添加し、ミックスします。
  3. magnetic separatorに(2)のチューブをセットし、1~2分間インキュベートし、ビーズがチューブ壁面に集まったことを確認し、上清を除きます。
Magnetic separator DynaMag™-2 (製品番号: 12321D)

II. エキソソーム濃縮サンプル からCD9 陽性のエキソソームをビーズへ吸着

  1. チューブを magnetic separator から外し、90μLのAssay Bufferを添加します。
  2. 10μLのエキソソーム濃縮サンプルを添加し、ミックスします。
  3. マイクロチューブミキサーにセットしてミックスしながら、2~8℃で一晩インキュベートします。
    例) HulaMixer® Sample Mixer(製造番号:15920D)使用した場合の設定条件:

2日目
III.   ビーズに吸着した CD9陽性エキソソームの回収

  1. サンプルチューブを1~2秒間遠心し、チューブ壁についたサンプルを集めます。
  2. 300µL- Assay Bufferを添加し、ピペッティングで穏やかにミックスします(ボルテックスミキサーは使わないこと)。
  3. magnetic separatorにチューブをセットして1~2分間置きます。ビーズがチューブ壁面に集まったことを確認して、上清を除きます。
  4. チューブをmagnetic separatorから外し、300µL – Assay Bufferを添加してピペッティングで穏やかにミックスします(ボルテックスミキサーは使わないこと)。
  5. magnetic separatorにチューブをセットして1~2分間置きます。ビーズがチューブ壁面に集まったことを確認して、上清を除きます。
  6. チューブをmagnetic separatorから外し、300µL – Assay Bufferを添加してピペッティングで穏やかにミックスします(ボルテックスミキサーは使わないこと)。
    CD9陽性エキソソームがビーズに結合した状態で回収されます。
    ビーズに吸着した状態のまま、フローサイトメトリー解析用のサンプル調製へ進みます。

CD9陽性エキソソームのフローサイトメトリー解析

  • フローサイトメトリー解析ではバックグラウンド(Negative control)として、アイソタイプ・コントロールを設定します。アイソタイプコントロールには一次抗体反応が特異的であることを確認するために、ターゲット一次抗体と、免疫動物、アイソタイプ、標識が同じものを選択します。
  • 染色反応には、Ⅲ-(6)で回収したCD9陽性サンプル100µL分を使用します。
  • 添加する染色用抗体濃度は最適化を行ってください。
参考:染色用抗体
  • anti-human CD9-RPE、Clone ML-13(BD社 製品番号:557352)
  • Mouse IgG-RPE isotype control(BD社 製品番号:559320)
ターゲットサンプルの調製
  1. 100µLのⅢ-(6)で回収したCD9 陽性サンプル100µLを新しいチューブに分取します。
  2. 20µLのanti-human CD9-RPE, Clone ML-13 (BD社 製品番号:557352)を加えミックスします。

アイソタイプコントロールの調製
  1. 100µLのⅢ-(6)で回収したCD9陽性サンプル100µLを新しいチューブに分取します。
  2. 20µLのMouse IgG-RPE isotype control(BD社 製品番号:559320)を加えミックスします。

  1. 室温で45分間インキュベートします(オービタル(旋回式)シェーカーにセットし、1000rpmでミックスした状態で)。
    注意:遮光状態で処理してください。
  2. 300µLのAssay Bufferを添加し、ミックスします。
  3. magnetic separatorにチューブをセットし、1~2分間インキュベートし、ビーズがチューブ壁面に集まったことを確認し、上清を除きます。
  4. チューブをmagnetic separatorから外し、さらに(4)、(5)の洗浄操作を繰り返します。
  5. チューブをmagnetic separatorから外し、300µLのAssay Bufferを添加・ミックスし、フローサイトメトリー解析を行います。
    注意:使用されるフローサイトメトリーに合わせてbuffer量は加減してください。

*CD63、CD81、EpCAM陽性エキソソーム回収とその後のフローサイトメトリー解析については、下記PDFをご参照ください。
参照PDF:ヒトCD63 陽性エキソソームの回収
参照PDF:ヒトCD81 陽性エキソソームの回収
参照PDF:ヒトEpCAM 陽性エキソソームの回収
参照PDF:他のタンパク質マーカーエキソソームの回収


実験結果の考察

図3は、培養上清からTotal Exosome Isolation試薬(製品番号:4478359)を用いて回収したエキソソームからExosome - Human CD9 Flow Detection(from cell culture)(製品番号:10620D)を用いてCD9陽性のエキソソームの回収し、フローサイトメトリー解析を行った結果です。
FSC / SSCドットプロットでは、G1とG2の2つ集団が確認されています。G2は複数のビーズが凝集体を形成したものを示しています。ビーズに吸着した状態でフローサイトメトリー解析を行う場合、このような集団が確認されることがあります。このような解析に関係のない集団はデータから排除し、シングレットで検出されたG1の集団をゲーティングし、ヒストグラム解析を行ってください。
ヒストグラム(②)の青色ピークはCD9-RPE染色したもので、グレー色のピークはIgG1-RPE染色したネガティブコントロールで、2つの画像を重ねたものです。
このように磁気ビーズに吸着された状態でもエキソソーム由来の十分なシグナルが得られ、エキソソーム解析のツールとしてフローサイトメトリーが有効であることを示しています。

図3.CD9-陽性エキソソームのフローサイトメトリー解析例
培養上清からTotal Exosome Isolation試薬(製品番号:4478359)を用いて濃縮したエキソソームペレットをPBSで懸濁した後、Exosome - Human CD9 Flow Detection(from cell culture)(製品番号:10620D)を用いてCD9陽性のエキソソームの回収を行いました。
回収後、ビーズに結合した状態のまま、CD9-RPEおよびIgG1-RPEで染色を行い、フローサイトメトリー解析を行いました。
①のFSC / SSCドットプロットでは、G1とG2の2つ集団が確認されます。G2はビーズが凝集体を形成してしまったもので解析から排除しました。シングレットで検出されたG1の集団をゲーティングし、ヒストグラム(②)表示しました。青色ピークはCD9-RPE染色したもので、グレー色のピークはIgG1-RPE染色したnegative controlです。②は2つの画像を重ねたものです。

さらに図4ではサブタイプ分画したエキソソームサンプルのWestern blotおよびフローサイトメトリー解析の結果の比較を行っています。
SW480細胞の培養上清中にはCD9陽性エキソソームが多く存在しますが、Jurkat細胞では、CD9陽性のエキソソームがほとんど存在しないことがwestern blot解析で既に確認されています。さらにこの結果をフローサイトメトリー解析で確認を行いました。
フローサイトメトリー解析においてもJurkat由来のCD9のシグナルは弱く、Western blotの結果が再現されました。

図4.Western blotとフローサイトメトリー解析結果の比較
右図:フローサイトメトリーの結果:SW480細胞およびJurkat細胞の培養上清から回収したCD9陽性エキソソーム、CD81陽性エキソソームを、それぞれCD9-RPE、CD81-RPE染色を行い、フローサイトメトリー解析を行いました。またそれぞれの試験区にアイソタイプコントロールを設定し、IgG-RPE染色して検出しました。
ヒストグラム中の赤色のピークはCD9-RPEおよびCD81-RPE染色したもので、グレー色のピークはアイソタイプコントロール染色を行ったものです。上図はそれぞれのターゲット染色の結果とアイソタイプコントロールのヒストグラム画像を重ねたものです。
左図:Western blotの結果:SW480細胞およびJurkat細胞の培養上清から回収したCD9陽性エキソソーム、CD81陽性エキソソームをそれぞれCD9、CD81抗体でwestern blot解析を行った結果です。
UC = Ultracentrifugation(超遠心法)、Prec = Total Exosome Isolation 試薬(製品番号:4478359)を用いて、磁気ビーズによるエキソソームサブタイプの回収を行う前処理にエキソソーム濃縮を行ったことを示しています。


参考文献

1) Nolte-’t Hoen, E.N., E.J. van der Vlist, M. Aalberts, H.C. Mertens, B.J. Bosch, W. Bartelink, E. Mastrobattista, E.V. van Gaal, W. Stoorvogel, G.J. Arkesteijn, and M.H. Wauben. 2012. Quantitative and qualitative flow cytometric analysis of nanosized cell-derived membrane vesicles. Nanomedicine. 8:712–720. [PubMed]

2) van der Vlist, E.J., E.N. Nolte-’t Hoen, W. Stoorvogel, G.J. Arkesteijn, and M.H. Wauben. 2012. Fluorescent labeling of nano-sized vesicles released by cells and subsequent quantitative and qualitative analysis by high-resolution flow cytometry. Nat. Protoc. 7:1311–1326. [PubMed]

3) Morten P. Oksvold et al. 2014. Expression of B-Cell Surface Antigens in Subpopulations of Exosomes Released From B-Cell Lymphoma Cells. Clinical Therapeutics/Volume 36, Number 6. [PubMed]


本パートで使用した製品一覧