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質量分析(MS)は、イオンの質量対電荷比を測定し、単純混合物や複合混合物中の分子の同定と定量化を行います。MSは、プロテオミクスなど、あらゆる分野やアプリケーションにおいて非常に貴重な存在となりつつあります。過去20年間以内のハイスループットな定量的MSプロテオミクスワークフローの開発により、タンパク質の構造、機能、修飾、グローバルタンパク質ダイナミクスなどに関する一般知識がさらに拡張しました。本概要ページでは、プロテオミクス分野における質量分析の役割についてご紹介いたします。また、MSの方法論と関連機器類を考察し、さらにMS分析前のサンプル調製および液体クロマトグラフィーに基づく分離法もご紹介いたします。
プロテオミクスとは、特定の生物学的イベントが進行中の生物学的システム(例:細胞、組織、生物体)における全てのタンパク質に関する研究を指しています。プロテオミクスはゲノミクスを補完する分野であるとはいえ、タンパク質発現の動的性質の影響により、プロテオミクスはゲノミクスまたはトランスクリプトミクスよりも、はるかに研究が困難となります。さらに、大半のタンパク質は、プロテオミクスがより複雑化される要因となる、翻訳後修飾(PTM)を何らかの形態で経ます。あらゆる範囲のプロテオミクスは、主に質量分析の技術開発のおかげで、ここ15年以内に実現され始めたばかりです。
質量分析法は、質量や電荷(m/z)に基づいて分子の検出、同定、定量化する高感度性を備えた技術です。元来質量分析法は、元素の原子量と特定同位体の天然存在比(3)を測定する目的で約100年前に開発されています。質量分析法は、生物科学において、生物学的システムを介した重同位体野トレースの用途に最初に利用されました。後に、オリゴヌクレオチドやペプチドのシーケンス、さらにヌクレオチド構造の解析に利用されるようになりました(4)。
エレクトロスプレーイオン化(ESI)やマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)などの高分子イオン化法の開発により、MS(5、6、7)によるタンパク質構造の研究が可能になりました。これよって、未知タンパク質の同一性を予測するデータベース中のタンパク質やペプチドにマッチし得るタンパク質質量「フィンガープリント」が、研究者の手で取得できるようになりました。同位体標識法によって、標的タンパク質の相対量および絶対量が定量化できるようになります。技術革新の結果、固体、液体または気体状態のサンプルを解析する手法が誕生しました。また、現行の高感度性の質量分析計は、アトモル範囲(10-15) (10)の濃度で分析物の検出が行えます。
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質量分析(MS)は、イオンの質量対電荷比を測定し、単純混合物や複合混合物中の分子の同定と定量化を行います。MSは、プロテオミクスなど、あらゆる分野やアプリケーションにおいて非常に貴重な存在となりつつあります。過去20年間以内のハイスループットな定量的MSプロテオミクスワークフローの開発により、タンパク質の構造、機能、修飾、グローバルタンパク質ダイナミクスなどに関する一般知識がさらに拡張しました。
本概要ページでは、プロテオミクス分野における質量分析の役割についてご紹介いたします。また、MSの方法論と関連機器類を考察し、さらにMS分析前のサンプル調製および液体クロマトグラフィーに基づく分離法もご紹介いたします。
研究分野 | 用途 |
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プロテオミクス |
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創薬 |
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治験 |
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ゲノミクス | |
環境 | |
地質学 |
質量分析計には必ず、イオン源、質量分析器およびイオン検出器が備わっています。とはいえ、質量分析計のタイプや、所要データとサンプルの物理的特性のタイプによって、各成分の特性は異なります。液体または乾燥した状態のサンプルを質量分析計に充填し、イオン源(例:ESI、MALDI)によりサンプルを気化およびイオン化させます。
これらの分子が受けた電荷により、質量分析計はシステム余剰部全体でイオンを加速化させます。イオンによって質量分析計から電場や磁場が発生し、質量や電荷 (m/z)に基づいて、各イオン軌道が偏向されます。主に利用される質量分析器は、飛行時間型[TOF] 、四重極型、イオントラップ型などがあり、各分析器タイプにはそれぞれの特性があります。質量分析器を用いて、包括的分析でサンプル中のあらゆる分析物を分離させることが可能です。また、基本的にフィルターのように用いて、特定イオンのみを検出器へ適正に偏向させることができます。
そして、質量分析器で適切に偏向されたイオンを、イオン検出器にヒットさせます。通常これらの検出器は、電子増倍管またはマイクロチャネルプレートであり、各イオンが検出板にヒットすると電子カスケードが発生します(4)。このカスケードの作用によって、各イオンヒットが増幅し、感度が向上します。全プロセスは、極真空状態(10-6 to 10-8 torr) (8)で実行されます。そして、サンプルイオンと衝突する、イオン経路を変更する、非特異的な反応生成物を産出する、などの可能性のあるコンタミ性の非サンプルイオンが除去されます(9)。
質量分析計は、パソコンのソフトウェアへ接続されます。このソフトウェアによって、イオン検出器データの解析や、個々のm/zや相対量によって検出イオンを体系づけるグラフの生成ができます。そして、m/zに基づき分子の同一性を予測するデータベースによって、これらのイオンの処理が可能です。
タンデム質量分析(MS/ MS)では、特定イオンに関する詳細情報を得ることができます。この手法では、MSの初回実行時の各 m/zに基づいて目的の各イオンを選択します。また、各イオンを断片化させるには、衝突誘起解離(CID) または高エネルギー衝突解離(HCD)での不活性ガス流へのイオン衝突など、様々な手法から選んで実行できます。また、電子移動解離(ETD)や電子捕獲解離(ECD)などでイオンを断片化させる手法もあります。
そして、このイオン断片は、後続回のMS時の各m/z比に基づいて分離されます。予測されるペプチド(IPI, RefSeqなどのデータベースに見られる)または核酸配列(Swis-Protなどのデータベースに見られる)へのマッチングに断片を使用できるため、MS/ MSは通例、タンパク質やオリゴヌクレオチドのシーケンスに活用されます。そして、これらの配列断片は、in silicoで全長配列予測に体系化させることが可能です。
生物学的サンプルは通常、完全に複合体の形態をしています。このため、生物学的サンプルに含有される分子によって、サンプル中の標的分析物や分子類の間のサンプル濃度ダイナミックレンジが大きい場合などには、標的分子の検出がマスクされる可能性があります。したがって、一般的には分離法により、サンプル中の分子から標的分析物を分割します。
質量分析前の分離法として、混合ガスの質量分析にはガスクロマトグラフィー法(GC) 、また液体サンプルの質量分析には液体クロマトグラフィー法(LC)が、それぞれとられます。
大半の生物学的サンプルは液体性かつ不揮発性であるため、MS(LC-MSと呼ばれる)またはMS/ MS( LC-MS/MSと呼ばれる)による生物学的サンプルの研究においては、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)が主要な分離法となっています。LCカラムは、直径が小さく(例:nanoHPLCの直径:75μm)、低フローレート(例:200 nL/分)であるため、微細なサンプルの用途に最適です(2)。また、「インライン」液体クロマトグラフィー法(LCがMSへ直接結合する)は、ハイスループットなサンプル解析法であり、様々なフローレートでカラムから溶出する複数分析物を即座にMS分析することができます。例えば、インラインLC-MS/ MSでは、生物学的な複合混合物中の1-5ペプチドを毎秒シーケンスすることが可能です(2)。
質量分析法は、複合混合物中の極低濃度の分析物を検出できますが、分析中に多量のペプチドとイオンが損失されるため、本質的な定量的手法とは言えません。したがって、サンプルと併せてペプチド標識または標準物質の分析を行い、ペプチド標識は相対的な分析物定量の基準値として、また標準物質は絶対的な分析物定量の基準値としての役割をそれぞれ果たします。現在、反応1回につき複数タンパク質の検出と定量が可能な製品が販売されており、質量分析法が、プロテオミクス分野におけるハイスループットかつ包括的分析プラットフォームになりつつあることが実証されます。
相対定量戦略では、細胞培養液中のアミノ酸を用いた安定同位体標識法(SILAC)や、タンデム質量タグ(TMT)が用いられます。これらの手法では、タンパク質やペプチドは、未標識分析物を明確に質量シフトさせる安定同位体により標識されます。質量分析法で、この質量差を検出することが可能です。また、こうした質量差によって、標識分析物レベルに対する非標識分析物レベルの比率が算出できます。各種サイズの標識を用いて多数のタンパク質が広範なダイナミックレンジで同定されるプロテオミクス発見の用途には、通例この手法がとられています。
絶対定量は、標的プロテオミクス実験で実行され、限られた数の標的分析物の検出において感度を向上させます。これらの手法では、重い安定同位体を含有する既知量合成ペプチドでサンプルをスパイクする必要があります。このペプチドは、サンプル中の対応する天然ペプチドの絶対定量用の内部定量標準として機能します。
質量分析法による研究を始める前に、何らかの形態でサンプルの調整を行う必要があります。界面活性剤を除去すると、特定タンパク質やタグタンパク質の同定/定量する場合には特に、サンプルの複雑性が低減されます。質量分析機器から得られる結果は、サンプルの抽出と調整の品質や再現性から著しく影響されるため、質量分析においては適切なサンプル調製が不可欠です。サンプル調製には、溶解液の調製、タンパク質やペプチドの濃縮、サンプル洗浄とタンパク質消化など、様々な技法が含まれます(各技法の詳細については、サンプル調製項目の各ページをご覧ください)。
For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.