ゲノム編集実験の最適化と検証のためのCRISPRバリデーション方法

強力なゲノム編集システムによって、細胞や組織内あるいはin vivoにて特定の遺伝子を改変して治療に役立てるという可能性は、ゲノム編集の研究を行なう業界の原動力となっています。

TALENまたはCRISPR実験のいずれを実行する場合でも、すべてのゲノム編集戦略には、期待されるゲノム編集結果の精度と信頼性の評価や、非特異的なDNA編集のリスクを低減するためのバリデーション計画が必要です。TALENおよびCRISPRのバリデーションは、細胞健全性の評価からターゲット発現にまで、ゲノム編集ワークフローのさまざまなステップで実施する必要があります。


ワークフローの各ステップにおけるCRISPRバリデーション技術

ワークフローの各ステップを選択して、推奨されるバリデーション技術をご覧ください。

CRISPR試薬がトランスフェクションにより導入されたことを確認するには、抗生物質耐性による細胞培養試験や蛍光色素発現によるバリデーションコントロールが簡便な方法です。

CRISPR編集を確認するには、切断検出、シーケンス、ウェスタンブロッティング、およびPCRが効果的な手法です。

ハイコンテントスクリーニングおよび細胞培養試験は、表現型を検証するために使用できます。TEG-seqは、ゲノム編集後に生じた可能性のあるオフターゲット切断事象を測定するために開発された方法です。

CRISPR試薬がトランスフェクションにより導入されたことを確認するには、抗生物質耐性による細胞培養試験や蛍光色素発現によるバリデーションコントロールが簡便な方法です。

CRISPR編集を確認するには、切断検出、シーケンス、ウェスタンブロッティング、およびPCRが効果的な手法です。

ハイコンテントスクリーニングおよび細胞培養試験は、表現型を検証するために使用できます。TEG-seqは、ゲノム編集後に生じた可能性のあるオフターゲット切断事象を測定するために開発された方法です。


T7エンドヌクレアーゼベースアッセイを用いたTALENおよびCRISPR編集の検証

GeneArt Genomic Cleavage Detection (GCD) Kitは、CRISPRまたはTALENの挿入、欠失、遺伝子調節を迅速かつ確実に確認できるように設計されたT7エンドヌクレアーゼ アッセイです。細胞の採取から結果の定量化まで、最小限の作業時間により、ゲノム編集結果の解析をわずか4時間で行うことができます。

データ:Invitrogen GeneArt Genomic Cleavage Detection Kitを使用しCRISPR切断の効率を測定するための細胞溶解液のゲル解析

切断の確認を示すゲル

図1.CRISPR-Cas9による切断効率HPRT遺伝子座のGeneArt Genomic Cleavage Detection Kitを使用した切断アッセイのゲル画像。(A)HPRT特異的CRISPR RNAを発現するGeneArt CRISPR Nuclease OFP Vectorを使用した場合の結果。(B)HPRT特異的CRISPR RNAを発現したGeneArt CRISPRヌクレアーゼCD4ベクターを用いて得られた結果。HeLa細胞へのトランスフェクション後、切断アッセイを3重測定で行ない、インデルの割合を算出しました。


CRISPRバリデーションのためのポジティブ、ネガティブおよび導入コントロール

適切なポジティブ、ネガティブ、および導入コントロールを用いることは、あらゆるゲノム編集バリデーション戦略の成功につながります。遺伝子編集の初期設計から作業結果すべての検証にいたる実験計画を設計する際には、サーモフィッシャーサイエンティフィックから提供されているCRISPRコントロールの包括的な製品シリーズの利用をご検討ください。


TALENおよびCRISPRシーケンスを使用したTALENおよびCRISPR-Cas9の編集効率の検証

GeneArt Genomic Cleavage Detection (GCD) assaysは迅速かつ安価な手法ですが、目的の変異のみが導入されたことを確認するため、結果をさらに分析する必要があります。これは、DNAシーケンスで行うことができます。

サンガーシーケンスによるTALENおよびCRISPR配列解析

サンガーシーケンスは、ターゲットシーケンスにかかるコストが低く、ワークフローがシンプルで、データ解析が複雑でないため、TALENおよびCRISPR実験にとって重要な検証ツールです。 

データ:サンガーシーケンスを用いたCRISPR-Cas9編集効率の評価

サンガーシーケンスは、ヌクレアーゼ切断の効率を測定するために使用できます。以下の実験では、処理した細胞のライセートをSeqScanner 2 softwareを使用してシーケンスしました。その結果、編集が行われた配列が混在していることがわかりました(図2A)。次に、Tracking of Indels by Decomposition(TIDE, Brinkman, EK et al.(2014))ソフトウェアを使用して、結果を解析しました。サーモフィッシャーConnectのSeqScreener Gene Edit Confirmation Appを使用することで、標的変異のスペクトルと頻度を決定することができます。

:サンガーシーケンスデータのトレースと、CRISPR編集効率の判定に使用したインデルスペクトルの棒グラフの組み合わせ

図2.サンガーシーケンスを用いた編集効率の測定(A)ヒトHPRT遺伝子座にゲノム編集を生じたHEK293細胞の混合集団を、SeqScanner 2 softwareを使用して解析しました。編集位置を赤い矢印で示しています。(B)TIDEソフトウェアを用いたシーケンストレースの解析1、-2、-3などの欠失があると予測される細胞の割合、および予測される全体の編集効率が示されています。

ヒント:ヌクレアーゼ切断効率を測定する別の方法は、処理細胞のアンプリコンをプラスミドにサブクローニングし、各細菌サブクローンのインサートでサンガーシーケンスすることです。編集に成功したサブクローンの数をカウントすることで、編集反応効率を測定でき、編集によって生じた配列の種類を可視化できます。

アプリケーションノートをダウンロード:Using Sanger sequencing to facilitate CRISPR- and TALEN-mediated genome editing workflows

次世代シーケンス(NGS)を用いたTALENおよびCRISPRシーケンス解析

NGSは、TALENおよびCRISPR解析において、ハイスループット機能を備えた強力なツールとなります。この方法では、TALENおよびCRISPRのすべての標的変異について、定性的および定量的スクリーニングが行えます。NGS は1度に多くのサンプルを分析して、どの細胞が目的のTALENまたはCRISPR標的変異を持っているかを正確に判断できます。また複数サンプルに対するTALENおよびCRISPRのNGS分析によって、オフターゲット効果を評価することも可能です。


TALENおよびCRISPR細胞培養研究で細胞の健全性と表現型を評価

ゲノム編集のワークフローでは、そのすべてのステップにおいて生存可能で健全な細胞を維持する必要があります。生存率、アポトーシス、ストレス応答のテストはルーチンプロセスとして行う必要があり、効果的な遺伝子改変を検証するだけでなく、最適な実験条件を決定する上でも必要なステップです。

蛍光色素の発現と抗生物質耐性は、トランスフェクションの効率と標的発現を測定するために広く用いられている技術です。

データ:免疫細胞化学を用いたCas9導入の検証

免疫細胞化学は、細胞内の特定のタンパク質を同定する標準的な技術です。抗Cas9一次抗体と標識二次抗体を用いて、蛍光イメージングにより細胞レベルでCas9発現を検出できます。

コントロールおよびCas9発現U2OS細胞の蛍光顕微鏡写真
図3.Cas9導入のモニタリング。(A)U2OS細胞および(B)U2OS-Cas 9細胞を、CRISPR-Cas9モノクローナル抗体で処理し、ヤギ抗マウスAlexa Fluor 594コンジュゲートHoechst 33342で染色しました。細胞質内の点状の赤色染色はCas9の存在を示しています。細胞はEVOS FL Auto Cell Imaging Systemを使用して可視化しました。

データ:自動セルカウント、透過光イメージング、およびフローサイトメトリーを用いたCRISPR Cas9 lentivirus導入の検証

抗生物質選択、遺伝子発現、免疫細胞化学アッセイは、細胞のゲノム編集に必要なCRISPRコンポーネントの集合体をモニターするためによく利用されています。蛍光タンパク質の発現は直接測定でき、トランスフェクションされた細胞の特定に抗生物質選択を用いる場合は、生存率アッセイを使用して選択プロセスをモニターすることができます。

cell-counting-to-measure

図4.Countess II FL自動セルカウンターを用いて測定したGFP発現Cas9タンパク質を発現しているU2OS細胞を、Invitrogen LentiArray Positive Ctrl gRNA(HPRT-GFP)とInvitrogen LentiArray Negative Ctrl gRNA(Scrambled-GFP)により、MOI 1および2に形質導入しました。2日後、Countess II FL自動セルカウンターで細胞をカウントし、GFP発現を測定しました。測定値はGFP陽性細胞の割合を示しており、これは、GFPおよびピューロマイシン耐性遺伝子を発現している形質導入細胞の割合を示しています(2A、2B)。

ピューロマイシンの非存在下または存在下で培養した形質導入細胞の透過光顕微鏡写真
図5.抗生物質選択においてEVOS XL Coreイメージングシステムにより取得した透過光イメージ。Invitrogen GeneArt Lentiviral CRISPR Positive Ctrl particles(HPRT-GFP)を用いて形質導入した細胞は、処理前に正常な生存率を示しています(A)。ピューロマイシン選択下で4日間経過後(B)、細胞は抗生物質との反応でストレスを受け凝集しています。
トランスフェクション効率を評価するためのOFP強度と側方散乱を示す2つのフローサイトメトリー散布図

図6.フローサイトメトリーを用いた293T細胞におけるトランスフェクション効率の測定Invitrogen GeneArt CRISPR Nuclease Vector with OFP Reporter Kitは、オレンジ蛍光タンパク質(OFP)の発現を利用して、トランスフェクションされた細胞を標識します。293T細胞におけるトランスフェクション効率をAttune NxTフローサイトメーターを用いて測定したところ、遺伝子導入されたサンプル中>90%の細胞がOFP陽性であることがデータで示されました。


ウェスタンブロッティングによるCRISPR解析

ウェスタンブロッティングは、分析対象のサンプルに特定のタンパク質が存在するかどうかを検出および決定するために広く使用されている技術です。CRISPR実験では、ウェスタンブロッティングはトランスフェクション効率の判定に使用されており、また発現の測定にも利用されています。

データ:ウェスタンブロットによるCRISPRトランスフェクション効率とタンパク質発現の検証

図7では、ウェスタンブロッティングを用いて、異なるCRISPRフォーマットでトランスフェクションした細胞におけるCas9発現を比較しました。また、図8に示すように、ウェスタンブロッティングを使用して、細胞集団での表現型の変化を定量化することもできます。

プラスミドDNA、mRNA、およびタンパク質をトランスフェクションした細胞における0~72時間にわたるCas9の蓄積を示すウエスタンブロットタンパク質トランスフェクションは4時間以内に容易に検出され、mRNAは4~48時間で観察可能になり、プラスミドDNAは24~72時間で豊富に検出されました。

図7.プラスミドDNA、mRNA、タンパク質を導入された細胞におけるCas9の経時的蓄積のウェスタンブロッティングによる検出HEK293FT細胞に、Cas9プラスミドDNA、mRNA、またはタンパク質をトランスフェクションしました。指定の時間に細胞を回収し、ウェスタンブロッティング解析を実施しました。細胞ライセート中のタンパク質をNuPAGE 4–12% Bis-Trisゲル上で分離し、iBlot 2 Gel Transfer Deviceを使用してPVDFメンブレンに転写後、3,000倍希釈のマウスモノクローナルCas9抗体と2,000倍希釈のrabbit anti-mouse HRP conjugated secondary antibodyとにインキュベートしました。メンブレンはPierce ECL substrateを使用して検出しました。(Liang et. al., Journal of Biotechnology, 208, 44–53.)

青と緑の蛍光を発する細胞は、クロロキン処理後の LC3B の蓄積を示しています。ウェスタンブロッティングには、LC3Bに対応する17 kDaのバンドも示されています。

図8.CRISPR編集されたHap1細胞でのクロロキン処理後のLC3Bの蓄積。LC3Bは定量的顕微鏡法またはウェスタンブロッティングを使用して測定できます。


TALENおよびCRISPRバリデーションにおけるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の使用

ターゲット領域のPCR増幅は、ゲル電気泳動、制限酵素処理、サンガーシーケンス、またはTALENおよびCRISPR検証のためのNGSと組み合わせて使用できます。またリアルタイムPCRを利用することで、細胞内の遺伝子発現レベルの検証が行えます。


ハイコンテントスクリーニング(HCS)を用いたCRISPRバリデーション

ハイコンテントイメージングプラットフォームは、シングルセル解析能力と極めて高速なデータ取得時間により、卓越したハイコンテントスクリーニング(HCS)を提供します。これらの自動顕微鏡蛍光イメージングおよび分析プラットフォームは、タンパク質発現、コンパートメント化、細胞形態学的な変化を、すべて定量的に厳密に検出できます。HCSでは、単層やスフェロイドから取得したインタクトな細胞、固定細胞、または生細胞の野生表現型をバイアスなく決定できます。

データ:HSCを用いたCRISPR編集細胞のオートファジー解析

異なる色の蛍光を発している細胞の3つの顕微鏡画像と定量化されたリードアウトの棒グラフ

図9.HCSを使用したオートファジーの自動定量Thermo Scientific CellInsight CX7プラットフォームを使用して、CRISPRで編集したHAP1細胞内のLC3B粒子の同定とカウントを行ないました。細胞の標識には、HCS NuclearMask Blue、HCS CellMask Deep Red抗LC3B抗体、続いてAlexa Fluor 647 goat anti-rabbit antibodyを使用しました。Thermo Scientific HCS Studio 3.0を使用した自動分析により、核(青色)の細胞辺縁(緑枠)を同定し、LC3B粒子(棒グラフおよび蛍光イメージ中の赤色部)の定量を行いました。

細胞のシグナル伝達経路を変化させると、さまざまな範囲に影響が現れるリスクがあります。ターゲットのタンパク質を追跡し、細胞の健全性と挙動の他の側面への影響をモニターすることが重要です。ハイコンテントスクリーニング(HCS)は、この種のマルチパラメーター分析に特に適しており、Invitrogen試薬は細胞の健全性と挙動を調べるための幅広いツールを提供しています。

データ:CRISPR編集細胞におけるアポトーシス、酸化ストレス、タンパク質分解、およびタンパク質合成のHCS分析

細胞アポトーシス、酸化ストレス、タンパク質分解、およびタンパク質合成を測定するための、細胞の蛍光強度と薬剤濃度の関係を示した4つの用量反応グラフ。

図10.Thermo Scientific CellInsight CX5プラットフォームを用いた、細胞の健全性に関する各種パラメーターの迅速な分析野生型およびCRISPRで編集したHap-1細胞をCellInsight CX5 HCSプラットフォームを用いて分析しました。(A)アポトーシスの分析にはCellEvent Caspase-3/7 Green Detection Reagent、(B)酸化ストレスの分析にはInvitrogen CellROX reagents、(C)タンパク質変性の分析にはInvitrogen LysoTracker reagents、(D)タンパク質合成の分析にはInvitrogen Click-iT OPP assay kitを使用しました。


TALENのカスタムデザインとバリデーションの詳細については、TALEN Design to Validation Services をご覧ください。


For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.